セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)

2021年2月号

第48回日本救急医学会総会・学術集会 ランチョンセミナー14 COVID-19時代における救急診療のニューノーマル

ハイブリッドERにおけるCOVID-19肺炎を含めた感染症対策と救急診療

船曵 知弘(済生会横浜市東部病院救命救急センター)

神奈川県では,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策のための医療提供体制「神奈川モデル」を進化させた「神奈川モデル・ハイブリッド版」が稼働しており,当院は高度医療機関として中等度・重症患者を中心とした受け入れと接触者外来を行っている。2020年11月2日までの時点で,有症状や感染疑いでの入院が287名,うち42名がPCR陽性で,重症は22名,2名が体外式膜型人工肺(ECMO)装着となっている。接触者外来においては,受診者357名,うち陽性者は68名となっている。
また,横浜市では,「Y-CERT(感染症・医療調整本部)」を組織し,健康福祉局や医療局,消防局の情報を集約して,市内医療機関の入院調整・病床運用をすることで,COVID-19対応と通常の救急医療を両立する体制を構築しており,当院はCOVID-19重症患者と通常救急の重症患者の両方を受け入れている。
本講演では,当院における2 room型ハイブリッドERを活用したCOVID-19肺炎疑い患者への救急対応について報告する。

救急診療における飛沫核感染リスク

COVID-19感染疑い患者の治療においては,飛沫核感染も含めた感染コントロールが強く求められる。そこで,飛沫核がどのように飛散するかについて微粒子可視化実験で確認したところ,咳やくしゃみをすると,少しの時間,飛沫が浮遊していることが確認された。また,シミュレータを用いた胸骨圧迫の実験では,患者頭部方向に飛沫が飛散・浮遊すること,さらにバッグバルブマスクを用いて30:2で胸骨圧迫を行うと,胸骨圧迫をしている人の方向へと飛沫が浮遊することが確認された。救急医療の現場では飛沫核感染リスクが高いと考えられることから,しっかりと飛沫核感染対策をとり,可能であれば陰圧室での初療が望まれる。

COVID-19感染疑いに対するCT検査

国内では,「COVID-19に対する胸部CT検査の指針(以下,指針)」が出されている。指針には,PCR陽性の無症状例の46%,有症状例の20%はCT陰性(偽陰性)である1)こと,画像検査は胸部X線撮影を行った上でCTを検討することなどが示されている。CT検査を検討するケースとしては,胸部X線で異常影があり他疾患との鑑別を要する場合,臨床的に感染が疑われるがPCR陰性で進行リスクが高い場合,胸部X線では異常影がないがPCR陽性でCTが有用と考えられる場合,胸部X線の異常の有無にかかわらず酸素吸入が必要な場合などである。
症例を2例紹介する。症例1(72歳,男性)は,10日前から発熱・頭痛があり呼吸器症状はなく,前医でCTを施行したところ,すりガラス状陰影が認められた。当院転送時のバイタルは体温が37.5℃,SpO2が95%であった。前医で胸部X線を撮影していないため指針のフローとは異なるが,当院で撮影した胸部X線では末梢優位にすりガラス状陰影が確認できた。胸部X線で異常影があるが他疾患との鑑別は不要な場合,指針に基づくとCTは不要となるが,本症例はPCR検査ができず高齢で進行リスクが高いため,CTが検討される症例と言える。CTではCOVID-19肺炎の典型的な所見が認められ,COVID-19であると判断しやすい症例であった。
症例2(74歳,男性)は,10日前から下痢,7日前から発熱・嘔吐があり,呼吸器症状はないが,CTを施行され,肺炎の診断で当院に転送された。病院到着時の体温は37.4℃,SpO2は94%であった。当院で撮影した胸部X線では,異常影は認められなかった。CTではすりガラス状陰影が左上葉のごく一部にだけ認められた。このように,胸部X線でCOVID-19を否定することが難しい症例も存在する。指針にもあるように,CTで完全に否定することはできないが,CTで疑わしいと判明すればその後の対応も変わってくるため,臨床医としては最初にCTを撮影したいという思いがある。

COVID-19の救急診療におけるハイブリッドERの有用性

当院では,COVID-19を考慮したERの運用,感冒や緊急入院におけるフローチャートを作成しており,体温が37.5℃以上とSpO2が95%未満を基準としCT検査を施行していることが多い。ERでは,救急搬送患者の感染が疑われる場合には,感染防御をした上でハイブリッドERで対応している。胸部X線は省略してCTを施行し,その結果に応じた対応を行う。COVID-19が疑われれば,そのままハイブリッドERのベッド上で挿管や中心静脈カテーテル(CV)挿入など必要な措置を行う(図1)。
当院ERに救急搬送された患者(在宅酸素療法患者を除く)の救急隊からの情報を,体温とSpO2でプロットした(図2)。体温37.5℃とSpO2 95%を基準に区分すると,COVID-19陽性は,基準より体温が高くSpO2が低い群では136例中10例(7.4%),体温は高いがSpO2は保たれている群(他疾患による発熱が考えられる群)では111例中6例(5.4%),体温は高くないがSpO2が低い群(心不全などによる呼吸不全が考えられる群)では59例中6例(10.2%)であった。発熱もなくSpO2が保たれている群は陽性率が低いと思われるが,実際には50例中6例(12%)と最も高かった。バイタルだけでの拾い上げは難しいことから,救急搬送患者に対しては感染症対策をとったCT室で検査することが大切で,その観点からハイブリッドERは有用である。
また,ハイブリッドERは透視を行える点も有用である。CVなどの位置確認だけでなく,ECMOの導入においても透視下での留置が望ましい。エコーガイド下で行う方法もあるが,ガイドワイヤの軸とダイレーターの方向が合わないと血管損傷を来しやすく,これは静脈穿刺に起こりやすい。安全・確実な穿刺には透視が有用であり,この点でもハイブリッドERは利便性が高いと言える。

図1 ハイブリッドERにおけるCOVID-19の救急診療の様子

図1 ハイブリッドERにおけるCOVID-19の救急診療の様子

 

図2 病院前情報からの内訳

図2 病院前情報からの内訳

 

ハイブリッドERにおける感染症対策

当院のハイブリッドERは2 room型で,CT装置「Aquilion PRIME」と血管撮影装置「Infinix Celeve-i」(共にキヤノンメディカルシステムズ)が設置されており,CTガントリがスライドして救急カテ室側に移動する。救急カテ室には,無影灯や生体モニター,人工呼吸器,超音波診断装置などが設置され,手術が可能な環境となっている(図3)。
清潔環境で手術をするため,ハイブリッドERはHEPAフィルタを用いた換気設備を整えており,「病院設備設計ガイドライン」(日本医療福祉設備協会)では清浄度クラスⅡの清潔区域(NASA規格で1000〜1万)に当たる。なお,ガイドラインではCT室はクラスⅣ,カテ室はクラスⅢに位置づけられている。また,同ガイドラインでは手術室の室内圧は等圧または陽圧とされているが,当院のハイブリッドERは陰圧・陽圧の制御が可能になっており,これを活用してCOVID-19に対応している。米国疾病予防管理センター(CDC)の結核菌の感染防止の施設基準ガイドライン2)では,換気回数と結核菌の残存割合について報告されており,陰圧室は1時間に12回の換気が望ましいとされている。当院のハイブリッドERは1時間に5回の換気のため十分とは言えないが,陽圧・等圧などの環境と比べれば安全に手技を行えると考える。
当院救命救急センターには陰圧室の初療室(隔離室)があるが,重症患者を診療する想定で設置されているわけではないので,挿管などの手技はできない。そのため,ハイブリッドERで対応している。ハイブリッドERは,救急車入り口や救急外来の発熱対応室からアクセスしやすいことに加え,感染疑いで入院している患者をバックヤードのエレベータで搬送することも可能で,COVID-19感染が疑われる患者と一般患者のゾーニングをしつつ,陰圧環境で手技やCT撮影を行うことができる。また,通常診療とCT室を分離できる点も重要だ。ハイブリッドER内で,CT撮影から挿管などの手技,透視を用いたECMO導入まで完結できる状況となっている。
なお,COVID-19症例対応後には,紫外線照射を室内で5分間×複数回行い,生体モニターやベッドなどは消毒用アルコールで清拭している。搬送されてくる患者のコントロールはできないが,できるだけ使用間隔を30分空けるようにしている。

図3 手術まで可能な当院のハイブリッドER

図3 手術まで可能な当院のハイブリッドER

 

まとめ

2020年2月以降,当院ハイブリッドERで対応するCOVID-19疑いの患者が増加している。飛沫核感染対策として陰圧室での初療が望まれるが,当院の2 room型ハイブリッドERは軽度ではあるものの陰圧になっているため,比較的リスクを抑えてCT検査や透視下手技を施行できる。また,通常診療の患者とCT室を分けられるため,ほかの検査に支障がないこともメリットであると感じている。

●参考文献
1)Inui, S., et al. : Chest CT Findings in Cases from the Cruise Ship Diamond Princess with Coronavirus Disease(COVID-19). Radiology :
Cardiothoracic Imaging, 2(2): e200110, 2020.
2)Guidelines for Preventing the Transmission of Mycobacterium tuberculosis in Health-Care Facilities, 1994. MMWR, 43(RR13): 1-132, 1994.

 

船曵 知弘(Funabiki Tomohiro)
1997年 慶應義塾大学医学部卒業。同年 救急部入局。放射線科研修を経て救急部に帰局後,救急科専門医取得。その後,国立病院機構災害医療センター放射線科で修練し,放射線診断科専門医,IVR専門医を取得。2007年より済生会横浜市東部病院医長,副部長,部長を経て,2020年より同院救命救急センター長,横浜市重症外傷センター長。

 

●そのほかのセミナーレポートはこちら(インナビ・アーカイブへ)

【関連コンテンツ】
TOP