セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)

悪性肝門部胆管閉塞の原因疾患は多様で肝門部胆管の解剖も複雑であることから、解剖学的な要素を踏まえた術前の進展度診断が求められる。切除可能例では、術式を考慮した胆管枝の評価や胆道ドレナージを適切に行う必要がある。また、非切除例では、予後を見据えた戦略の立案も重要である。本講演では、悪性肝門部胆管閉塞に対する胆道ドレナージのポイントを報告する。

2021年10月号

第101回日本消化器内視鏡学会総会コーヒーブレイクセミナー1 悪性肝門部胆管閉塞に対する 胆道ドレナージのコツ

悪性肝門部胆管閉塞に対する胆道ドレナージのコツ

佐々木 隆(がん研究会有明病院 肝胆膵内科)

胆道ドレナージにおける考慮すべきポイント

佐々木 隆(がん研究会有明病院 肝胆膵内科)

悪性肝門部胆管閉塞の原因となる疾患には、肝門部領域胆管癌、肝内胆管癌、胆囊癌のほか、肝転移、リンパ節転移、周囲からの腫瘍浸潤などがある。病期としては、切除可能例(術前症例)、局所進行例、切除不能例(遠隔転移例)、術後再発例などがあり、複雑で多様な病態となっている。肝門部胆管の解剖も複雑なため、解剖学的な要素も踏まえて切除ラインを考慮した術前の進展度診断が求められる。さらに、肝門部胆管の分岐には、後区域胆管北回り、後区域胆管南回り、混合型に代表される胆管走行の破格があるため、CTやMRIの画像を事前にしっかり確認しておくことが重要である。
切除可能例(術前症例)においては、術式を考慮し、外科医が望む胆管枝の評価と胆道ドレナージを適切に行う必要がある。最近では、局所進行例に対するconversion surgeryなども行われるようになっており、局所進行例の一部はplastic stentでの対応が最適となる可能性もある。
一方、非切除例に対する胆道ドレナージは、ドレナージ方法だけでも、plastic stent、uncovered metal stent、covered metal stentの選択や、ステントは1本か複数本か、ドレナージは片葉か両葉か、ルートは経乳頭的な内視鏡的逆行性膵胆管造影(ERCP)単独か、ERCPに超音波内視鏡下胆道ドレナージ(EUS-BD)あるいは経皮経肝的胆管ドレナージ(PTBD)を併用するのかなどを考慮する必要がある。また、ドレナージ方法の決定に寄与する因子として、原疾患の予後や、非切除に至る経緯(診断時非切除か手術をめざしたが非切除となったのか)、conversion surgeryの可能性、さらには、各施設における施行可能な処置の状況、などが挙げられる。

胆道ドレナージに関する論文の紹介

髙橋らは、PTBDでは瘻孔再発が5.2%と高頻度であったことを報告している1)。この結果を踏まえ、現状ではなるべく経乳頭的な内視鏡的ドレナージが選択されていると思われる。
Vienneらは、ドレナージ領域が50%以上の患者と50%未満の患者を比較したところ、50%以上の患者の方が生命予後が長かったと報告している2)
向井らは、ステント開存期間に関するランダム化比較試験の結果、metal stentの方がplastic stentよりもステント開存期間が長かったと報告している3)

Metal stent留置における課題

近年、metal stentにはさまざまな種類が登場している。なかでも「Niti-S Large Cell D-typeステント」(以下、 Large Cell Dステント:テウンメディカル社製、センチュリーメディカル社販売)は、technical success 96.2%と高い留置成功率が報告されている4)。しかしながら、再閉塞した場合のre-interventionには、難しさが残る。そのため、metal stent 閉塞時のre-interventionを想定したplastic stentも販売されている。
Metal stentにも、さまざまな改良や工夫が行われている。Large cell type、moving cell typeなどといったメッシュの工夫や、デリバリーシステムの細径化が図られているほか、ステントの編み方にもbraided typeやlaser-cut typeなどさまざまなものが登場している。また、ステント留置の方法も、6mm径のfully covered stentをside-by-sideで留置するといった工夫が報告されており、metal stent留置そのものは年々容易となってきている。しかし、re-interventionの難しさという課題はいまだ残されている。さらに、予後延長に伴って、より複雑な病態となる症例も増加している。

片葉および両葉ドレナージにおける短期・長期成績の比較

以下に、わが国で2012年から行われた多施設共同研究BRILLIANT Trial5)について紹介する。

1.目的・主要評価項目
本研究は、非切除肝門部悪性胆道閉塞に対する初回胆道ドレナージにおける片葉ドレナージと両葉ドレナージの短期および長期成績の比較検討を目的としている。
主要評価項目は、ステップ1は短期成績の評価、ステップ2は長期成績の評価である。短期成績としては、functional successとして、ドレナージ後1週間以内にトータルビリルビンがドレナージ前の50%以下に低下と定義された。ただし、片葉でドレナージ不良な場合は追加ドレナージを検討し、追加ドレナージを行った場合、ステップ2では両葉群として評価している。また、長期成績としては、胆道閉塞状態の再発までの期間(time-to-recurrent biliary obstruction)を評価している。

2.試験デザイン
試験デザインは、functional successを片葉群では75%、両葉群では90%と設定。αエラー0.05、検出力80%として両葉群の優位性を評価している。目標症例数は166例(両群とも83例)と設定されていたが、登録不良のため、3年4か月で中止となった。最終的に77例が登録された。

3.患者背景
両群共に肝門部領域胆管癌が約30%、Bismuth分類のType Ⅳが約40%、トータルビリルビンは約10mg/dLと差はなかった。77例はランダム化され、ステップ1では脱落例2例を除いて片葉群に36例、両葉群に39例が割り付けられた。両葉群のうち2例はtechnical failureのため片葉群となり、また、片葉群のうち14例は追加ドレナージが行われて両葉群となったことなどから、最終的にステップ2では片葉群19例、両葉群25例となった。

4.結 果
ステップ1では、technical successは片葉群100%、両葉群95%と両群共に良好な結果であった。また、functional successは、片葉群57%、両葉群56%と有意差はなかった。なお、追加ドレナージは両葉群の2例(5.1%)に対し、片葉群では14例(39%)と多く行われた。一方、ステップ2のtime-to-recurrent biliary obstructionは、両葉群の4.3(2.5-9.8)か月に対し、片葉群では11.1(4.1-NA)か月と、片葉群の方が長い傾向が見られた。

5.考 察
本試験は登録不良となったため、残念ながら十分な結論は得られなかったが、少なくとも、短期成績および長期成績のいずれも両葉群の方が片葉群より優位であるとは言えなかった。そのため、今後は両葉ドレナージが望ましい集団を明らかにしていく必要があると考える。私見ではあるが、両葉ドレナージの優位性が認められないのであれば、re-interventionを考慮し、原則としてはシンプルな片葉ドレナージが良いと考えている。

当院の現状

当院の肝胆膵外科では、胆道癌の手術件数が年間約60例、そのうち肝門部領域胆管癌が約20例である。また、演者が当院に赴任した2014年以降、ERCPの件数は着実に増加しており、最近では年間約1000例となっている。
当院は2016年に新棟が完成し、interventional radiology(IVR)関連の検査室が3部屋設置された。そのうち2部屋では、キヤノンメディカルシステムズ社製の多目的デジタルX線TVシステム「Ultimax-i」が稼働している(図1)。Ultimax-iはアンダーチューブにすることで術者の被ばく低減が図れ、X線防護垂れを組み合わせることでさらに被ばくが低減できる(図2)。また、Ultimax-iには高画質・低線量検査コンセプトの“octave SP”が搭載されている。octave SPでは、同社のリアルタイム画像処理技術やデジタル補償フィルタ(Digital Compensation Filter:DCF)などを進化させることで照射線量を65%低減しているものの、非常に良好な画質を取得できるシステムと考えている(図3)。
図4はUltimax-iによるERCPの画像であるが、ガイドワイヤの動きもなめらかに表示されるほか、Large Cell Dステントのメッシュも視認できる。本症例は、右後区域枝のドレナージを目標としているが、ステントのメッシュの間を確認しながらガイドワイヤを進めることも可能である。また、Cアームを振ることで、右前区域枝と右後区域枝の区別やステントとの位置関係も容易に認識可能となるほか、tangent方向の評価も行いやすくなる。
検査室には58インチモニタを設置しており、タブレットでレイアウトを自由に変更することができる(図5)。検査中に胆管枝について議論するような場面では、元の画像を大きく表示し再評価することで、適切なドレナージに結びつけることも可能である(図6)。

図1 検査室の紹介 2つの検査室にUltimax-iを設置し、ほぼ毎日使用が可能である。

図1 検査室の紹介
2つの検査室にUltimax-iを設置し、ほぼ毎日使用が可能である。

 

図2 術者被ばくの低減 Ultimax-iをアンダーチューブとし、X線防護垂れを組み合わせることで術者被ばくを低減している。

図2 術者被ばくの低減
Ultimax-iをアンダーチューブとし、X線防護垂れを組み合わせることで術者被ばくを低減している。

 

図3 octave SPの有無による画像比較 DCFにより、X線の吸収差による黒つぶれや白とびが生じやすい部位の画像が自動補正されている。

図3 octave SPの有無による画像比較
DCFにより、X線の吸収差による黒つぶれや白とびが生じやすい部位の画像が自動補正されている。

 

図4 Ultimax-iによるERCPの画像 左:正面像、右:斜位像 右前区域枝や右後区域枝の区別、tangent方向の評価が容易で、ガイドワイヤの動きもなめらかに表示されるほか、Large Cell Dステントのメッシュも視認できる。

図4 Ultimax-iによるERCPの画像
左:正面像、右:斜位像 右前区域枝や右後区域枝の区別、tangent方向の評価が容易で、ガイドワイヤの動きもなめらかに表示されるほか、Large Cell Dステントのメッシュも視認できる。

 

図5 検査室には58インチモニタを設置 モニタのレイアウトはタブレットで自由に変更可能

図5 検査室には58インチモニタを設置
モニタのレイアウトはタブレットで自由に変更可能

 

図6 モニタ上で元画像を大きく表示し再評価している様子

図6 モニタ上で元画像を大きく表示し再評価している様子

 

悪性肝門部胆管閉塞に対するストラテジーと手技のポイント‌

1.ストラテジーの一例
肝門部領域胆管癌で2本のドレナージが必要な場合には、当院ではLarge Cell Dステントを両葉もしくは2本留置している。左葉が非常に肥大している場合や、超音波内視鏡下肝胃吻合術(EUS-HGS)が行えそうな症例においては、ファーストドレナージが閉塞した場合には、セカンドドレナージとしてEUS-HGSを考慮できるよう、最初の時点でLarge Cell Dステントの留置方法を考慮しておくことが重要である。また、肝門部領域胆管癌で3本以上の留置が必要な場合には、plastic stentを基本とし、最近では胆管内ラジオ波焼灼療法(RFA)を併用している。胆囊癌のように右側から肝門に浸潤していく症例においては、左肝管にuncovered self-expandable metallic stent(uncovered SEMS)を留置するようにしている。
しかしながら、実際にはすでにステントが留置されている症例が多いため、複数の胆管枝のドレナージを求められることが多いのが現状である。図7はその一例である。術前精査の結果非切除となり、内視鏡的経鼻胆管ドレナージ(ENBD)チューブが3本留置されている症例に対して、以前はLarge Cell Dステントを3本留置していたが、最近では右葉にLarge Cell Dステントを2本留置し、左葉はEUS-HGSでドレナージを行うなどの工夫をしている。

図7 術前精査の結果、非切除となった症例 複数の胆管枝のドレナージを施行しており、右葉にLarge Cell D ステントを2本留置し、左葉はEUS-HGSでドレナージを行った。

図7 術前精査の結果、非切除となった症例
複数の胆管枝のドレナージを施行しており、右葉にLarge Cell D ステントを2本留置し、左葉はEUS-HGSでドレナージを行った。

 

2.狭窄突破における手技のポイント
肝門部の手技を行うに当たり、狭窄突破は非常に重要なポイントである。ガイドワイヤ操作やメッシュの探り方、スコープの位置調整によるガイドワイヤ先端の向きの調整など、さまざまな要素がある。
通常、ガイドワイヤの先端には少し角度が付いており、前後方向の動きだけでは小さな穴を通すことはできないため、回転させながら先端を誘導する必要がある。また、ガイドワイヤがステントのメッシュの細い角に引っかかった場合は、デリバリーシステムを誘導した際に引きのテンションをうまくかけることで、デリバリーシステムがメッシュ中央の広い部分を通過できるようになる。場合によっては、例えばガイドワイヤの先端をB2の胆管枝に置くのではなく、B3に置くなどして先端の位置を変えることで、ガイドワイヤをたわませてメッシュの中央を通りやすいように誘導するという方法もある。
Uncovered metal stentにおいては、デリバリーシステムを通すメッシュの選び方も重要である。留置されたステントはメッシュが不均一となっていることが多く、狭いメッシュにガイドワイヤを通してしまうとデリバリーシステムを通せなくなるため、無理はせずにその近傍にあるより広いメッシュを探り直すことが重要である。どうしてもメッシュを突破できない場合は、同心円状に拡張可能なバルーンを用いることで、メッシュをきれいに拡張できる可能性が高くなる。

3.RFAの活用
当院では近年、悪性肝門部胆管閉塞のドレナージの補助として胆管内RFAを導入している。図8は、局所進行肝門部領域胆管癌治療後4年半が経過している症例であるが、RFAによって閉塞部分を焼灼し、広がるようにしている。

図8 局所進行肝門部領域胆管癌治療後4年半が経過した症例 悪性肝門部胆管閉塞のドレナージに際して胆管内RFAを施行した。RFAにより閉塞部位を焼灼後、バルーンを挿入してクリーニングを行うと、壊死組織などが排出される。これを繰り返すことで、肝門部胆管が広くなるため、その後のステント留置も非常に行いやすくなる。

図8 局所進行肝門部領域胆管癌治療後4年半が経過した症例
悪性肝門部胆管閉塞のドレナージに際して胆管内RFAを施行した。RFAにより閉塞部位を焼灼後、バルーンを挿入してクリーニングを行うと、壊死組織などが排出される。これを繰り返すことで、肝門部胆管が広くなるため、その後のステント留置も非常に行いやすくなる。

 

まとめ

悪性肝門部胆管閉塞に対する胆道ドレナージは、病態を踏まえた必要十分なドレナージをめざすことが求められる。予後が期待されるケースでは、ファーストドレナージの際にできるだけセカンド / サードドレナージまで視野に入れた戦略を考慮しておくことが重要である。さらに、交換可能なステントでの対応も重要であり、閉塞して抜去できなくなるステントの使用は、病態をさらに複雑にしてしまうことを念頭に置いておく必要がある。
ERCPでドレナージ不良であった患者に対し、EUS-BDとPTBDのどちらを望むか調査したところ、EUS-BDが実施可能な施設においても、14.3%の患者がPTBDを希望したとの結果が報告されている6)。最適な処置を行うためには、PTBDもうまく活用していくことが重要である。
胆道ドレナージは抗腫瘍療法の効果を最大限発揮するために欠かせない処置であり、QOLを考慮して内視鏡を用いた内瘻化をめざすことは非常に重要であると考えるが、一つの方法に固執せず、臨機応変な対応が求められる。何より、チームの総力を挙げて、患者が短期的に胆道トラブルから回復し、抗腫瘍療法や元の生活にいち早く復帰できるようにすることが重要である。また、そのためには、的確なストラテジーや術者・介助者の技量に加えて、手技を支えるきれいな視野(画像)、および優れた道具をうまく活用しながら、より良い治療法を探っていくことが求められる。

* 記事内容はご経験や知見による、ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。

●参考文献
1)Takahashi, Y., et al.:Percutaneous transhepatic biliary drainage catheter tract recurrence in cholangiocarcinoma. Br. J. Surg., 97(12):1860-1866, 2010.
2)Vienne, A., et al. : Prediction of drainage effectiveness during endoscopic stenting of malignant hilar strictures : The role of liver volume assessment. Gastrointest. Endosc., 72(4):728-735, 2010.
3)Mukai, T., et al. : Metallic stents are more efficacious than plastic stents in unresectable malignant hilar biliary strictures : A randomized controlled trial. J. Hepatobiliary Pancreat. Sci., 20(2):214-222, 2013.
4)Kogure, H., et al. : High single-session success rate of endoscopic bilateral stent-in-stent placement with modified large cell Niti-S stents for malignant hilar biliary obstruction. Dig. Endosc., 26 : 93-99, 2014.
5)Hakuta, R., et al. : Unilateral versus Bilateral Endoscopic Nasobiliary Drainage and Subsequent Metal Stent Placement for Unresectable Malignant Hilar Obstruction : A Multicenter Randomized Controlled Trial. J. Clin. Med., 10 : 206, 2021.
6)Nam, K., et al. : Patient perception and preference of EUS-guided drainage over percutaneous drainage when endoscopic transpapillary biliary drainage fails : An international multicenter survey. Endosc. Ultrasound, 7(1):48-55, 2018.

一般的名称: 据置型デジタル式汎用X線透視診断装置
販売名: 多目的デジタルX線TVシステム
Ultimax-i DREX-UI80
認証番号: 221ACBZX00010000

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