セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)
2023年11月号
第46回日本呼吸器内視鏡学会学術集会ランチョンセミナー5 気管支鏡検査の正確性向上のために ~CアームX線システムの最新活用法~
末梢肺結節診断におけるCアームX線システムと新画像処理条件の有用性
桐田 圭輔(医療法人社団愛友会 上尾中央総合病院 呼吸器腫瘍内科 副科長)
![桐田 圭輔(医療法人社団愛友会 上尾中央総合病院 呼吸器腫瘍内科 副科長) 桐田 圭輔(医療法人社団愛友会 上尾中央総合病院 呼吸器腫瘍内科 副科長)](/var/ezwebin_site/storage/images/ad/suite/canonmedical/seminarreport/231101/kiritashi/1283658-1-jpn-JP/kiritashi.jpg)
当院は、2021年4月に呼吸器腫瘍内科を新設、2021年9月にキヤノンメディカルシステムズ社製CアームX線TVシステム「Ultimax-i」を導入した。現在、Cアームを用いて年間200件超の気管支鏡検査を行っている。本講演では、Cアームや新画像処理条件などを活用した末梢肺結節診断の有用性について、症例を踏まえて報告する。
末梢肺結節診断における透視の重要性
末梢肺病変の内視鏡診断においては、経気管支生検を行うことが『肺癌診療ガイドライン2022』で推奨されている1)。しかし、本ガイドラインで引用されているChestの報告2)では、末梢肺病変の診断率はバイオプシー57%、ブラシ細胞診54%であり、また、2cm未満の病変では34%と低く、診断率の向上が課題となっている。
さらに、ドライバー遺伝子陽性の進行非小細胞肺癌(NSCLC)に対しては、診断はもとよりマルチ遺伝子検査を見据えた検体採取が求められる。私見ではあるが、末梢肺病変にて遺伝子検査を想定した鉗子生検を行う場合、適切な気管支を選択し、できるだけ大型の鉗子を用いる必要があると考える。そのため、細径スコープで大型鉗子を用いるケースが増加し、それに伴い透視の重要性が高まっている。
呼吸器腫瘍内科の新設とUltimax-iの導入
当院で2021年4月に新設された呼吸器腫瘍内科は、演者を含む2名の常勤医が在籍し、迅速細胞診(ROSE)やバーチャルブロンコスコピー(VBS)、クライオバイオプシーなどを導入して、安全で確実な検査体制を構築している。また、検査枠を確保するために既存の透視検査室を内視鏡検査室として拡大し、新たにUltimax-iを導入した(図1)。
演者は、以前に在籍した施設でもUltimax-iの導入・使用経験があり、レバーを倒すだけで直感的なCアーム操作が可能な点を評価していた(図2、3)。そのため、当院でもUltimax-iを選定した。
Ultimax-iの特長の一つが、高画質・低線量検査コンセプト「octave SP」である。octave SPは、独自のリアルタイム画像処理技術などにより、照射線量を従来比65%低減しつつ高画質な画像を提供する。透視線量モードはNormal(100%)、Mid(50%)、Low(35%)の3段階あり、ボタン1つでモードを容易に切り替え、場面に合わせた線量低減が可能である(図4)。線量レベルを切り替えてもコントラストを維持でき、通常線量のNormalと35%線量のLowを比較しても視認性に大きな差はない(図5)。また、ダイヤル操作だけで透視フレームレートを1~15f㎰まで細かく選択でき、詳細な透視が必要なければ7.5fpsなど、より少ないフレームレートで検査が可能なため、さらなる被ばく低減を図ることができる(図6)。
![図1 当院が導入したキヤノンメディカルシステムズ社製CアームX線TVシステムUltimax-i 図1 当院が導入したキヤノンメディカルシステムズ社製CアームX線TVシステムUltimax-i](/var/ezwebin_site/storage/images/ad/suite/canonmedical/seminarreport/231101/01/1283661-1-jpn-JP/01.jpg)
図1 当院が導入したキヤノンメディカルシステムズ社製CアームX線TVシステムUltimax-i
![図2 Cアームは直感的な操作が可能 図2 Cアームは直感的な操作が可能](/var/ezwebin_site/storage/images/ad/suite/canonmedical/seminarreport/231101/022/1283667-1-jpn-JP/02.jpg)
図2 Cアームは直感的な操作が可能
![図3 Cアームの角度付けと病変の視認性の比較 a:正面、b:RAO29°、c:RAO29°のCアーム 図3 Cアームの角度付けと病変の視認性の比較 a:正面、b:RAO29°、c:RAO29°のCアーム](/var/ezwebin_site/storage/images/ad/suite/canonmedical/seminarreport/231101/03/1283670-1-jpn-JP/03.jpg)
図3 Cアームの角度付けと病変の視認性の比較
a:正面、b:RAO29°、c:RAO29°のCアーム
![図4 透視線量モードの切り替え 図4 透視線量モードの切り替え](/var/ezwebin_site/storage/images/ad/suite/canonmedical/seminarreport/231101/04/1283673-1-jpn-JP/04.jpg)
図4 透視線量モードの切り替え
![図5 透視線量モードを切り替えても視認性に大きな差はない 図5 透視線量モードを切り替えても視認性に大きな差はない](/var/ezwebin_site/storage/images/ad/suite/canonmedical/seminarreport/231101/05/1283676-1-jpn-JP/05.jpg)
図5 透視線量モードを切り替えても視認性に大きな差はない
![図6 透視フレームレートの切り替え 図6 透視フレームレートの切り替え](/var/ezwebin_site/storage/images/ad/suite/canonmedical/seminarreport/231101/06/1283679-1-jpn-JP/06.jpg)
図6 透視フレームレートの切り替え
気管支鏡検査におけるUltimax-iの運用
当院では、2022年4月にUltimax-iの稼働を開始した。従来、気管支鏡検査は消化器内視鏡検査の合間に行っていたこともあり、年間の検査数は30件程度であったが、Ultimax-i稼働後は年間200件超まで増加している。
当初、新しい内視鏡検査室は、気管支鏡検査を行うには狭いのではないかという懸念があったが、Ultimax-iは装置がコンパクトであるためCアームの周囲に内視鏡や大型モニタ、新鮮凍結検体保存用フリーザーなども配置でき、想定以上に広いスペースを確保できた。手技中は、大型モニタの画面を4分割し、内視鏡画像や超音波気管支鏡(EBUS)画像、透視像、CT画像、VBS画像などを表示、確認することで質の高い検査につながっている(図7)。なお、当院では臨床医がROSEを行い、並行して若手医師が検査を行うことが多く、ROSE用スペースにもモニタを設置して、各画像を確認している。
![図7 内視鏡検査室内に設置したモニタ a:大型モニタの画面レイアウト b:ROSE用スペースとモニタ 図7 内視鏡検査室内に設置したモニタ a:大型モニタの画面レイアウト b:ROSE用スペースとモニタ](/var/ezwebin_site/storage/images/ad/suite/canonmedical/seminarreport/231101/07/1283682-1-jpn-JP/07.jpg)
図7 内視鏡検査室内に設置したモニタ
a:大型モニタの画面レイアウト
b:ROSE用スペースとモニタ
Cアームと新画像処理条件を用いた末梢肺結節診断
Cアームの機能を最大限に生かして気管支内視鏡検査を行うには、画像データを用いた事前準備を行うことが重要である。当院では、まず1mmスライス厚のCT画像を撮影し、3D医用画像処理ワークステーション「Ziostation 2」(ザイオソフト社)や3D画像解析システム「SYNAPSE VINCENT」(富士フイルム社)を用いてVBS画像を作成する。また、正面像ならびに±30°の仮想透視画像を作成し、これらの画像を基に使用する内視鏡スコープやデバイスを決定する。
さらに、Ultimax-iに新たに搭載された新画像処理条件は、高画質・低線量というコンセプトはそのままに見えにくい部分を強調する機能で、透視下でのデバイスの視認性を向上し、正常構造物と重なる病変の同定を改善する。図8は、空洞を伴う肺結節病変であるが、新画像処理条件を適用したことで空洞辺縁を明瞭に視認できる(b)。空洞内へのデバイス刺入を避けたい場合など、特に注意を要する手技では非常に有用な機能である。
![図8 空洞を伴う肺結節病変への新画像処理条件の適用 スコープ:BF-P290、ガイドシースSG-200C、生検鉗子:FB-233D(オリンパス社製) 図8 空洞を伴う肺結節病変への新画像処理条件の適用 スコープ:BF-P290、ガイドシースSG-200C、生検鉗子:FB-233D(オリンパス社製)](/var/ezwebin_site/storage/images/ad/suite/canonmedical/seminarreport/231101/08/1283685-1-jpn-JP/08.jpg)
図8 空洞を伴う肺結節病変への新画像処理条件の適用
スコープ:BF-P290、ガイドシースSG-200C、生検鉗子:FB-233D(オリンパス社製)
症例提示
●症例1:右肺中葉陰影(70歳代、男性)
他疾患のフォロー中に、右肺中葉陰影を指摘された症例である。病変は胸壁に接しており、CT画像上では気管支が病変に到達しているかは不明瞭であった。当院ではCT下生検の実施が難しいため、気管支鏡検査を行うこととした。Ziostation2を用いてVBS画像を作成し(図9)、末梢の経気管支針穿刺(TBNA)の必要性を考慮して正面像とLAO / RAO30°の仮想透視画像も作成した(図10)。また、気管支鏡検査に当たっては、Cアームを約30°回転させて胸膜との距離を確認し、新画像処理条件を適用することで、穿刺針が明瞭に確認できた(図11)。
末梢TBNAにて検体を採取し迅速細胞診(Diff-Quick染色)を行ったところ、非小細胞癌(non-small cell carcinoma)と診断された。しかし、細胞採取量が少なかったため経気管支生検(TBB)を追加で行った結果、HE染色でも腫瘍細胞が認められ、p40免疫染色も陽性であり、扁平上皮癌と診断された。
![図9 症例1:右肺中葉陰影(70歳代、男性)のVBS画像 図9 症例1:右肺中葉陰影(70歳代、男性)のVBS画像](/var/ezwebin_site/storage/images/ad/suite/canonmedical/seminarreport/231101/09/1283688-1-jpn-JP/09.jpg)
図9 症例1:右肺中葉陰影(70歳代、男性)のVBS画像
![図10 症例1:仮想透視画像 a:LAO30°、b:正面、c:RAO30° 図10 症例1:仮想透視画像 a:LAO30°、b:正面、c:RAO30°](/var/ezwebin_site/storage/images/ad/suite/canonmedical/seminarreport/231101/10/1283691-1-jpn-JP/10.jpg)
図10 症例1:仮想透視画像
a:LAO30°、b:正面、c:RAO30°
![図11 症例1:透視像(穿刺針) LAO26°、パルス透視15fps スコープ:BF-P290、穿刺針:MAJ-65(オリンパス社製) 図11 症例1:透視像(穿刺針) LAO26°、パルス透視15fps スコープ:BF-P290、穿刺針:MAJ-65(オリンパス社製)](/var/ezwebin_site/storage/images/ad/suite/canonmedical/seminarreport/231101/11/1283694-1-jpn-JP/11.jpg)
図11 症例1:透視像(穿刺針)
LAO26°、パルス透視15fps
スコープ:BF-P290、穿刺針:MAJ-65(オリンパス社製)
●症例2:胸部異常陰影(50歳代、男性)
CT検診で胸部異常陰影を指摘された症例である。既往歴に特記事項はなく、腫瘍マーカーやインターフェロンγ遊離試験(IGRA)、MAC抗体は陰性であった。CT画像では、右肺尖部や上葉に空洞を伴う微小な結節陰影が認められた。抗酸菌感染などの除外や肺がんとの鑑別のため、Ziostation2でVBS画像を作成し、極細径気管支鏡による生検を行うこととした。併せて、正面像とRAO/LAO30°の仮想透視画像を作成したが、透視装置による角度付けは不要と判断された(図12)。微小病変であることから透視像では視認が難しい可能性が懸念されたが、新画像処理条件を適用することで病変の位置やデバイスの辺縁が明瞭となり有用であった(図13〜15)。気管支腔内超音波断層法(radial EBUS)で病変を確認後、擦過細胞診と鉗子生検を行った。
鉗子生検の結果、炎症性変化(inflammatory change)が確認され、類上皮肉芽腫(epithelioid granuloma)の一部として矛盾しなかったが、Ziehl-Neelsen染色は陰性で微生物学的検査でも特記所見はなく、経過観察の結果、自然消退した。
![図12 症例2:胸部異常陰影(50歳代、男性)の仮想透視画像 図12 症例2:胸部異常陰影(50歳代、男性)の仮想透視画像](/var/ezwebin_site/storage/images/ad/suite/canonmedical/seminarreport/231101/12/1283697-1-jpn-JP/12.jpg)
図12 症例2:胸部異常陰影(50歳代、男性)の仮想透視画像
![図13 症例2:透視像(超音波プローブ) LAO26°、パルス透視15fps スコープ:BF-MP290、超音波プローブ:UM-20S-17R(オリンパス社製) 図13 症例2:透視像(超音波プローブ) LAO26°、パルス透視15fps スコープ:BF-MP290、超音波プローブ:UM-20S-17R(オリンパス社製)](/var/ezwebin_site/storage/images/ad/suite/canonmedical/seminarreport/231101/13/1283700-1-jpn-JP/13.jpg)
図13 症例2:透視像(超音波プローブ)
LAO26°、パルス透視15fps
スコープ:BF-MP290、超音波プローブ:UM-20S-17R
(オリンパス社製)
![図14 症例2:透視像(細胞診ブラシ) パルス透視15fps スコープ:BF-MP290、細胞診ブラシ:BC-204D-2010(オリンパス社製) 図14 症例2:透視像(細胞診ブラシ) パルス透視15fps スコープ:BF-MP290、細胞診ブラシ:BC-204D-2010(オリンパス社製)](/var/ezwebin_site/storage/images/ad/suite/canonmedical/seminarreport/231101/14/1283703-1-jpn-JP/14.jpg)
図14 症例2:透視像(細胞診ブラシ)
パルス透視15fps
スコープ:BF-MP290、細胞診ブラシ:BC-204D-2010
(オリンパス社製)
![図15 症例2:透視像(生検鉗子) パルス透視15fps スコープ:BF-MP290、生検鉗子:FB-233D(オリンパス社製) 図15 症例2:透視像(生検鉗子) パルス透視15fps スコープ:BF-MP290、生検鉗子:FB-233D(オリンパス社製)](/var/ezwebin_site/storage/images/ad/suite/canonmedical/seminarreport/231101/15/1283706-1-jpn-JP/15.jpg)
図15 症例2:透視像(生検鉗子)
パルス透視15fps
スコープ:BF-MP290、生検鉗子:FB-233D(オリンパス社製)
●症例3:肺結節陰影(40歳代、女性)
検診で肺結節陰影を指摘され、他科での3年間の経過観察にてわずかな陰影の増大が見られた。十数年前に卵巣がんと子宮体がん(endometrioid carcinoma)の既往歴があったことから、生検を依頼された。
単純X線とCTの過去画像では肺結節陰影が多発し、肺底部の心陰影の真裏に気管支が近接していると思われる結節陰影が見られた。SYNAPSE VINCENTを用いてVBS画像と仮想透視画像を作成したが、心陰影の真裏にあるため病変、デバイス共に視認が難しく、また、Cアームを90°回転しないと病変と心陰影との位置関係がわかりづらい。しかし、radial EBUSを気管支末梢まで挿入できれば十分に生検可能と考えた。透視像では、新画像処理条件を適用したことで病変の視認性が向上し、細胞診ブラシも明瞭に描出された(図16、17)。新画像処理条件の適用により、構造物が重なっても対象を確認でき、鉗子生検にて免疫組織学的評価にも十分な量の検体を採取できた。
病理検査の結果、腺管構造を形成し、エストロゲン受容
体(ER)陽性であったため、原発性肺がんではなく子宮体がんの転移性肺腫瘍(Adeno-carcinoma)と診断された。
![図16 症例3:肺結節陰影(40歳代、女性)の透視像(超音波プローブ) パルス透視15fps スコープ:BF-P290、超音波プローブ:UM-20S-20R(オリンパス社製) 図16 症例3:肺結節陰影(40歳代、女性)の透視像(超音波プローブ) パルス透視15fps スコープ:BF-P290、超音波プローブ:UM-20S-20R(オリンパス社製)](/var/ezwebin_site/storage/images/ad/suite/canonmedical/seminarreport/231101/16/1283709-1-jpn-JP/16.jpg)
図16 症例3:肺結節陰影(40歳代、女性)の透視像
(超音波プローブ)
パルス透視15fps
スコープ:BF-P290、超音波プローブ:UM-20S-20R
(オリンパス社製)
![図17 症例3:透視像(細胞診ブラシ) パルス透視15fps スコープ:BF-P290、細胞診ブラシ:BC-202D-2010(オリンパス社製) 図17 症例3:透視像(細胞診ブラシ) パルス透視15fps スコープ:BF-P290、細胞診ブラシ:BC-202D-2010(オリンパス社製)](/var/ezwebin_site/storage/images/ad/suite/canonmedical/seminarreport/231101/17/1283712-1-jpn-JP/17.jpg)
図17 症例3:透視像(細胞診ブラシ)
パルス透視15fps
スコープ:BF-P290、細胞診ブラシ:BC-202D-2010
(オリンパス社製)
まとめ
Ultimax-iでは、octave SPによる高画質・低線量な透視検査が行えることに加え、Cアームや新画像処理条件を用いることで、より確実かつ安全な検査が可能となった。VBS画像やCアームの回転を想定した仮想透視画像を作成するなどの事前準備を行うことで、Cアームの機能を最大限に発揮した気管支鏡検査が可能となる。
*記事内容はご経験や知見による、ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。
●参考文献
1)日本肺癌学会 : 肺癌診療ガイドライン−悪性胸膜中皮腫・胸腺腫瘍含む−2022年版.金原出版,東京,2022.
2)Rivera, M.P., et al.: Establishing the Diagnosis of Lung Cancer. Diagnosis and Management of Lung Cancer, 3rd ed : American College of Chest Physicians Evidence-Based Clinical Practice Guidelines. Chest, 143(5 Suppl.):e142S-e165S, 2013.
一般的名称:据置型デジタル式汎用X線透視診断装置
販売名:多目的デジタルX線TVシステム Ultimax-i DREX-UI80
認証番号:221ACBZX00010000
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