セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)

Astorex i9は,コンパクトな寝台デザインを採用し,講演で紹介された機能以外にも長尺撮影「i-stitch」やトモシンセシス「i-slice」など,多彩な機能を備えている。また,X線管回転機構を備え,キヤノンメディカルシステムズ社製一般撮影用FPD(CXDI)との連動によりX線TV室での一般撮影対応も強化されるなど,さまざまな診療スタイルに柔軟に対応可能であり,今後も進化が期待される。

2025年12月号

第41回日本診療放射線技師学術大会ランチョンセミナー10 新たな診療スタイルを実現するAstorex i9

〈講演1〉内視鏡併用検査・嚥下造影における新たな診療スタイル

小幡 晃平(藤田医科大学ばんたね病院放射線部)

本講演では,キヤノンメディカルシステムズのデジタルX線TVシステム「Astorex i9」の特長や機能について,内視鏡併用検査・嚥下造影を中心に自験例を交えて紹介する。

Astorex i9の特長

1.安全性:視野移動機能「i-fluoro」
体動や体位変換により観察部位が照射野から外れた場合,従来は天板を移動させて対応していた。しかし,Astorex i9に搭載されたi-fluoroにより,寝台の天板や映像系(X線管-FPD)を動かさずにスティック操作でスムーズに視野移動が可能になった。また,X線管の可動域は広く,天板端から9cmまで観察可能である。

2.視認性:新画像処理条件「Accent」
新画像処理条件Accentは,画像のコントラストと鮮鋭度を高め,デバイスの視認性を向上する機能である。標準透視のほか,画像のコントラストと鮮鋭度を高めるE/C強調(弱,中,強)と背景を圧縮するE/C強調デバイスがあり,透視を切らずに変更が可能なため,検査の状況に応じてスムーズな画質調整が可能である(図1)。

図1 Accentモード適用による視認性の向上(経気管支生検:TBLB) 強調を変えることで鉗子の視認性が向上している。

図1 Accentモード適用による視認性の向上(経気管支生検:TBLB)
強調を変えることで鉗子の視認性が向上している。

 

3.低被ばく:高画質・低線量検査コンセプト「octave i」
高画質・低線量を実現する8つの技術からなる高画質・低線量検査コンセプトoctave iにより,従来より約65%の線量低減が実現した。9段階のパルスレートから検査に応じて適切なレートを選択でき,当院では泌尿器科や小児の検査では低レートにして被ばく低減を図っている。また,透視線量モードはLow,Middle,Normalの3段階から体格に合わせたX線照射が設定でき,当院では通常はLowモードに設定している。

装置更新前後のDRL値の比較

2025年7月に「日本の診断参考レベル(2025年版)(Japan DRLs 2025)」が公開された。Japan DRLs 2025では,X線透視の全検査でDRL値が引き下げられ,嚥下造影は30mGyから16mGy,TBLBは38mGyから27mGyとなり,内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)は診断と治療領域が一つにまとめられ110mGyとされた。
当院で装置更新前後の被ばく線量を比較した結果,ERCPではAstorex i9導入後は線量が低減し,多くの検査でDRL値未満であった。また,嚥下造影検査や内視鏡併用下部消化管検査,TBLBでもAstorex i9導入後は線量が低減し,DRL値を超過した検査はなかった(図2〜5)。

図2 装置更新前後でのERCPのDRL値

図2 装置更新前後でのERCPのDRL値

 

図3 装置更新前後での嚥下造影検査のDRL値

図3 装置更新前後での嚥下造影検査のDRL値

 

図4 装置更新前後での下部消化管(内視鏡併用)のDRL値

図4 装置更新前後での下部消化管(内視鏡併用)のDRL値

 

図5 装置更新前後でのTBLBのDRL値

図5 装置更新前後でのTBLBのDRL値

 

症例提示

当院でAstorex i9を用いた症例を提示する。

1.嚥下造影検査
従来は透視を維持したまま医師が患者を椅子ごと移動させ,位置合わせを行っていたが,i-fluoroによりその必要がなくなり医師の被ばく低減やスループット向上につながっている。Accentは,嚥下造影検査では食道や気道の壁が見やすくなり術者から好評を得ている(図6)。
なお,Astorex i9には収束距離が異なる2種類のグリッド(110cm,140cm)がある。当院では検査に応じてSIDを変更しており,適切なグリッドを選択することも重要である。

図6 嚥下造影検査(Accent適用)

図6 嚥下造影検査(Accent適用)

 

2.ERCP
当院では,術者の被ばく低減のためX線管に鉛エプロンを装着している。ERCPは体動が生じることが多いが,体動に対応するためX線管や寝台を移動させると術者や患者に鉛エプロンが当たる危険性が生じる。その点で,X線管や寝台の移動を伴わないi-fluoroは有用である。また,i-fluoroではX線管や寝台の天板が動かないため機械音がなく,患者の不安を軽減する。
さらに,Accent適用例ではE/C強調デバイスにより骨などが目立たなくなり,デバイスの視認性が向上した。ステント留置時やバスケットカテーテルによる破石時も同様で,E/C強調デバイスにより造影剤の中でもデバイスやワイヤの先端の向きが明瞭に確認でき,穿孔の懸念が減少した(図7)。

図7 ERCP(Accent適用)

図7 ERCP(Accent適用)

 

3.TBLB
Astorex i9は透視の待機時でもモニタ上に透視予定範囲が可視化されるため,被ばくを追加することなく照射位置を容易に決定できる(図8)。また,低線量モードでも鉗子の動きが明瞭に確認できる。さらに,Accent適用により骨などの辺縁が明瞭になったことで腫瘍の形状が認識しやすくなり,病変位置の同定に貢献した症例もあった。

図8 i-fluoroによりモニタに干渉せず,手技を進められている。

図8 i-fluoroによりモニタに干渉せず,手技を進められている。

 

4.下部消化管内視鏡併用検査
下部消化管造影では腹部全域を観察するが,注腸造影時などには視野拡大が必要になる。i-fluoroは,寝台起倒,X線管斜入なども併用できるので患者の体勢の変更や動きにスムーズに対応できる点もメリットである。さらに,腸管ステント留置症例では,Accentは,E/C強調弱~中で造影剤の視認性が向上し,肝心のステント留置時にはE/C強調デバイスにすることで,椎体などのX線吸収が大きい部位でもステントマーカがはっきりと視認できた。ステント留置が非常に大切な局面では,i-fluoroの安全性とAccentの視認性向上の両面が効いた症例であった(図9)。

図9 腸管ステント留置(Accent適用)

図9 腸管ステント留置(Accent適用)

 

まとめ

Astorex i9により,すべての診療科の検査で患者被ばくが低減し,より安全かつ確実な検査や治療が実現した。また,診療放射線技師にとっても画質調整がスムーズに行えるため,ストレスの少ない検査が可能になった。

*記事内容はご経験や知見による,ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。

一般的名称:据置型デジタル式汎用X線透視診断装置
販売名:デジタルX線TVシステム Astorex i9 ASTX-I9000
認証番号:302ADBZX00081000

 

小幡 晃平(Obata Kohei)
2018年 藤田医科大学医療科学部放射線学科卒業。同年,藤田医科大学大学院保健学研究科入学。2020年3月 同大学院保健学研究科修了。同年,藤田医科大学ばんたね病院入職。2024年4月よりX線透視副責任者に就任。

 

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