セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)
Astorex i9 は,コンパクトな寝台デザインを採用し,講演で紹介された機能以外にも長尺撮影「i-stitch」やトモシンセシス「i-slice」など,多彩な機能を備えている。また,X線管回転機構を備え,キヤノンメディカルシステムズ社製一般撮影用FPD(CXDI)との連動によりX 線TV 室での一般撮影対応も強化されるなど,さまざまな診療スタイルに柔軟に対応可能であり,今後も進化が期待される。
2025年12月号
第41回日本診療放射線技師学術大会ランチョンセミナー10 新たな診療スタイルを実現するAstorex i9
〈講演2〉多目的X線TV検査室におけるAstorex i9が導く世界 〜泌尿器・チューブ造影・整形を中心に〜
中山 径生(東京女子医科大学附属八千代医療センター医療技術部画像検査室)
当施設では,キヤノンメディカルシステムズのデジタルX線TVシステム「Astorex i9」を新たに導入し,多目的検査室で全診療科の検査・治療に使用している。本講演では,更新の経緯や装置の使用経験について報告する。
Astorex i9導入の経緯
当施設(病床数500床)の1日の外来患者数は657人(2024年)で,地域医療機関と連携し,千葉県の拠点病院としての役割を担っている。2室のX線TV検査室のうち1室は多目的用で,全診療科の検査や治療に対応しているが,装置の老朽化に伴い更新を検討した。
新たな装置に対しては,広いワークスペースの確保や多種多様な検査への対応,直感的な操作や高画質・低線量,DRL管理に対応できることなどが求められ,検討の結果,Astorex i9を導入した。
更新前の装置は大型のCアーム型装置で,検査室の中央に配置していたためベッドでの患者搬入時はカートなどを一度検査室外に出す必要があり,処置時の術者の姿勢にも制約があった。しかし,Astorex i9は装置本体の奥行きがコンパクトで壁に密着でき,配置レイアウトも見直したことで,装置手前に広いワークスペースを確保でき,ベッドや器械台,超音波装置や内視鏡が入っても余裕の広さである(図1)。
図1 手前に広いワークスペースが取れるAstorex i9
Astorex i9の最新機能
これらの特長に加え,Astorex i9には3つの最新機能が搭載されている。
1.視野移動機能「i-fluoro」
i-fluoroは,寝台および映像系(X線管-FPD)の動作を伴わず,FPDの全開視野サイズ(43cm×43cm)の範囲内であれば自在に拡大表示し,視野移動が可能である(図2)。
寝台の移動を伴わないため,経皮的胆管ドレナージ(PTCD)などの穿刺処置でも術者が安全に手技を行える。また,CVポート処置などは患者は視界が覆布で遮断された状態になるが,機械的な振動や音が発生しないため患者の不安軽減につながる。さらに,寝台の端まで拡大表示でき,術者や患者の位置や姿勢を制限することなく,子宮卵管造影や上腕などの整形外科領域の処置でも有用である。
図2 i-fluoroの特長
2.Live像輝度調整(LBC)
Live像輝度調整(LBC)は,デジタル調整のため自動輝度調整(automatic brightness control:ABC)と異なり線量の増減を伴わず輝度調整が可能である。透視中もダイヤルで切り替えられ,状況に応じたモードを選択できる。透視画像を高輝度にする場合,まずはLive像輝度を調整することで余分な線量増加を防ぐことが可能である(図3)。
図3 ABCとLBCの使い分け
3.新画像処理条件「Accent」
Accentは,画像のコントラストと鮮鋭性を増幅させデバイスや造影剤の視認性を確保する複合画像処理パラメータである。標準透視を含む5段階の強度があり,ダイヤル1つで透視を維持したまま手技に応じて最適な条件をリアルタイムに選択できる(図4)。そのため,単純に検査の種類などでモードを判断するのではなく,術者に確認しつつ,状況に応じたモードを選択,変更するのが望ましいと考える。
図4 新画像処理条件Accent の設定条件
厚さ5cmのアクリルファントム2枚の中間に,解像度チャート,ガイドワイヤ(0.035インチ)を挟んだ状態
Accentの臨床適用
当施設でのAccent適用症例を紹介する。
1.PICCカテーテル挿入術
PICCカテーテル挿入は画質や照射線量の調整が難しい手技ではあるが,本症例はE/C強調デバイスが顕著に効き,スムーズに手技を進められた(図5)。
図5 PICC(Accent適用)
2.尿管ステント交換症例と造影症例
尿管ステント交換症例は,E/C強調の弱の評価が高く(図6),経イレウス管小腸造影検査では,E/C強調の中または強で造影剤の流れが明瞭に確認できた(図7)。
また,体格の大きい患者に対する脊髄腔造影(ミエログラフィ)では,Live像輝度調整に加え,Accentモード(E/C強調)を適用し,線量を上げずに明瞭に視認できた(図8)。
図6 尿管ステント(Accent適用)
図7 経イレウス管小腸造影(Accent適用)
図8 脊髄腔造影(Accent+Live像輝度調整を適用)
リファレンス機能やJapan DRLs 2025への対応
上記の3機能以外にも,Astorex i9は血管撮影では標準とされている「透視保存」や「透視画像収集」など多くの機能を搭載するほか,撮影画像をリファレンス画像として取り込み,迅速に提示する機能もある。
当施設の医師からは,i-fluoloにより,ポジショニングの自由度が向上したことで穿刺などが行いやすくなり,手技の精度が高まったのと同時に,移動や体勢の制限がなくなったことで患者の負担も軽減されているとの意見が聞かれた。また,Accentによる明瞭な画像やリファレンス画像を患者と共有できることへの評価も高かった。さらに,2025年7月の「日本の診断参考レベル(2025年版)
(Japan DRLs 2025)」 の公開などを受け,線量管理のさらなる厳格化が見込まれる。Astorex i9は,透視・撮影画像ともに低線量で広いダイナミックレンジを表現できる。当施設の主な透視線量とJapan DRLs 2025の比較では,空気カーマの中央値はDRL値より低いという結果が得られている(図9)。また,当施設ではプロトコールを作り込み,連携している線量管理システムで容易に分類・管理できるようにしている。PACSで管理している施設ではRDSRとして出力可能で,運用面でも有用である。
図9 各検査における当院でのAstorex i9のDRL値
黄色線はJapan DRLs2025の値,横線は当院の空気カーマ中央値を表す。
まとめ
Astorex i9は広いワークスペースや多目的使用に応じる特性があり,装置の操作や最新機能は直感的に使用可能で,手技の安全性と精度向上に貢献している。X線TV検査室の検査や治療は新たなステージに入っており,Astorex i9は現代と未来を見据えた,ニーズに応える1台である。
*記事内容はご経験や知見による,ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。
一般的名称:据置型デジタル式汎用X線透視診断装置
販売名:デジタルX線TVシステム Astorex i9 ASTX-I9000
認証番号:302ADBZX00081000
中山 径生(Nakayama Michio)
2003年 国際医療福祉大学保健学部放射線・情報科学科卒業。同年,東京女子医科大学附属病院入職。2006年,東京女子医科大学附属八千代医療センターオープニングスタッフとして配属,医療技術部画像検査室に所属,現在に至る。
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