セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)
2025年12月号
第41回日本診療放射線技師学術大会ランチョンセミナー15 Advanced intelligent Clear-IQ Engine(AiCE)がもたらす画像診断の進化 一般撮影・マンモグラフィの診療放射線技師が担う次世代の臨床現場
〈講演1〉一般撮影における「AiCE」の使用はどの程度線量を低減させる? ~エビデンスに基づいた撮影条件の設定~
森 一也(済生会川口総合病院放射線技術科)
済生会川口総合病院では,外来,病棟用一般撮影の部屋が3部屋あり,キヤノン社製FPD(CXDI)を計10枚使用している。2023年9月より「Advanced
intelligent Clear-IQ Engine(AiCE)」を使用開始した。本講演では,当院におけるAiCEによる画質改善·被ばく線量の低減事例の紹介と,AiCEの適切な撮影条件設定の検討の考え方について,エビデンスを提示して報告を行う。
当院におけるAiCEの活用事例
AiCEは,ニューラルネットワークの学習に,AI技術の一つであるDeep Learningを用いたノイズ低減処理である。このAiCEの特長は,従来のノイズ低減処理(conventional noise reduction:cnvNR)にて課題であった,MTFの損失,すなわちノイズとともに構造信号の一部も除去されることによる,画像の不鮮明化を解消したことにある。さらにAiCEは,CXDIに特化したノイズ学習により,低線量時での粒状性の改善を可能としており,当院においても撮影線量の低減に大きく寄与している。
AiCE導入により,画質改善·被ばく低減が有効であった一例を提示する(図1)。頸椎から胸椎にかけスクリュー固定された症例で,AiCE適用によりcnvNRに比べ28.6%の線量低減を実現している。特に側面撮影で線量が必要となる肩の領域は,椎体の終板部分や,スクリューの構造部分の描出能の向上が認められ,AiCEにより低線量化を実現しつつ,cnvNRより明瞭な視認性が得られた。
極端な低線量での撮影では,AiCEにてノイズは改善するが線量不足のため構造が不鮮明となるケースがあり,注意を要する。AiCE使用時においても,画質を保持するためには適切な撮影線量の設定が求められる。
適切な撮影線量を考慮した上で,AiCE導入前後の撮影線量の変化を示す(図2)。撮影部位別に見ると頭部,胸腹部,小児,椎体,骨盤の撮影において,約25~35%の線量低減率が得られた。「日本の診断参考レベル(2025年版)(Japan DRLs 2025)」との比較でも,約25〜50%の低減を実現した。その他の四肢,頭部正面などの撮影部位は,元々当院では線量を低めに設定していた背景もあり,線量低減率は余裕を持たせて約20%に抑えた上で評価を行っているが,AiCEの特性上今後さらなる低減も可能であると考えている。
AiCEによるノイズの改善は,四肢や小児のほか,さまざまな症例において効果を実感できた。特に被写体厚が厚く,線量を要する患者の撮影時は高いノイズ低減効果が得られている。
図1 整形症例でのAiCEによる低線量化およびノイズ低減効果
図2 各部位におけるAiCE導入前後の被ばく線量の比較
AiCEの適切な撮影条件の設定
当院がAiCEを導入した当初は,新機能のAiCEに関する論文数が少なく,先行研究を基に撮影条件を設定することが困難であった。そこで,当院にてファントムを用いた検討およびさまざまな条件での臨床画像による評価を行い,AiCEの撮影条件を検討した1)。
1.方 法
臨床画像の評価には,Image Quality Assessment(IQA)の一つであるblind/referenceless image spatial quality evaluator(BRISQUE)を用いた。BRISQUEは機械学習を使用した画像評価法の一つで,相対的な変化量に対しスコアの数値が小さいほど,優れた視覚評価であることを示す。
AiCEの評価は,模擬腫瘤を胸部ファントムの上肺野と縦隔部(心臓裏)にそれぞれ1つずつ配置し,画像の視覚評価を行った。次に,評価により得られた撮影条件を用いて臨床画像を後方視的に評価し,撮影条件の妥当性について検証を行った。撮影条件は,AECを用いて取得したcnvNRの2.4mAsの画像をリファレンスとして,16%ずつ線量を低減させた画像(2.0,1.6,1.2,0.8mAs)を評価画像とした。
2.対 象
対象は,2023年9月〜2024年3月の約半年間に,cnvNRおよびAiCEを用いて胸部単純X線撮影を行った同一患者100名とした。評価項目は,画質評価にはBRISQUEを用い,線量評価として入射表面線量を計測した。
3.結 果
肺野領域の視覚評価では,AiCE適用の0.8mAsの画像は有意に視認性が低下したが,cnvNRの半分に当たる1.2mAsでは,mean opinion score(MOS)値は低下したものの,有意差を認めなかった(図3 a)。一方,縦隔部においては1.2mAsにて有意なMOS値の低下を認めた。当院では本結果より,まず32%の線量低減となる1.6mAsでの臨床運用を開始した(図3 b)。
なお,cnvNRとAiCE(32%線量低減)の臨床画像評価の結果は,BRISQUEスコアはどちらも同等であった(図4 a)。また,入射表面線量は,cnvNRと比較した結果,AiCEでは平均で約35%の低減が確認された(図4 b)。
臨床画像評価で実際に用いた画像の一例として,線量を33%低減した症例を提示する(図5)。左の中肺野に腫瘍があるが,全体的に線量低減による影響は視覚的に変化はなく,腫瘍部分に至っては,cnvNRに比べAiCE適用画像では,腫瘤境界部の表現は明瞭であった。
撮影条件の決定は,IQAを用いたファントムスタディをベースに,臨床AiCE導入時の撮影画像評価を行い,従来条件比で平均35%の線量低減が可能であるという結論が得られた。当院では今後もAiCEの線量低減効果の可能性を拡げ,目的部位別の撮影条件の検討および評価により,さらなる至適線量の検討に取り組む予定である。
図3 線量*を変化させた画像視覚評価の結果
*16%ステップの変化は,当院の高電圧装置の仕様制約による
図4 cnvNRとAiCE(32%線量低減)の画質評価と線量評価
図5 呼吸器症例におけるAiCE導入前後の比較
まとめ
AiCEは,AIを用いた新ノイズ低減処理であり,低線量で粒状性が高い画像を,デメリットなく容易に取得できる有用なツールである。AiCEの活用により,健診はもとより,成人や小児撮影など,線量低減による低侵襲の恩恵が得られることは,施設規模· 種類を問わず非常に大きな導入メリットであると考える。
*記事内容はご経験や知見による,ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。
*本記事中のAI技術については設計の段階で用いたものであり,本システムが自己学習することはありません。
*医療機器の添付文書もご参照ください。
*Intelligent NR はキヤノン株式会社に帰属します。キヤノンメディカルシステムズがIntelligent NRを紹介する際,Advanced intelligent Clear-IQ Engine(AiCE)というブランドを用います。
●参考文献
1)Mori, K., et al., Radiography, 31(3) : 102958, 2025.
https://doi.org/10.1016/j.radi.2025.102958
一般的名称:X線平面検出器出力読取式デジタルラジオグラフ
販売名:デジタルラジオグラフィCXDI-Elite
認証番号:304ABBZX00003000
製造販売元:キヤノン株式会社
森 一也(Mori Kazuya)
2012年 茨城県立医療大学卒業。同年 済生会川口総合病院放射線技術科入職。2022年より同科一般撮影・血管撮影部門リーダー。2024年 東京都立大学大学院博士前期課程修了。医学物理士,医療情報技師。
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