虚血性心疾患に対する超高精細CT 
谷脇 正哲(所沢ハートセンター)
Session 3 : CT

2020-5-15


谷脇 正哲(所沢ハートセンター)

当センターは,経皮的冠動脈形成術(PCI)など循環器疾患に特化した専門施設である。2018年12月にキヤノンメディカルシステムズ社の超高精細CT「Aquilion Precision」を導入し,これまでに1500件以上の心臓CTを行ってきた。Aquilion Precisionは国内では29台が導入されているが(2019年12月現在),大学病院が中心で心臓の専門施設での運用例は少ない。本講演では,Aquilion Precisionが虚血性心疾患にもたらす有用性について述べる。

Aquilion Precisionによるステント内腔の評価

Aquilion Precisionでは,0.25mm×160列の検出器や焦点サイズの最小化によって空間分解能150μmと,従来のCTに比べて倍以上の解像度を持つ。当センターはAquilion64からの更新となるが,Aquilion Precisionではより精細な画像の取得が可能になり,空間分解能の向上を実感している。

1.冠動脈CTによるPCI治療後のフォローアップ
Aquilion Precisionは空間分解能が向上し,小径ステント内の評価が可能になったことが大きなメリットである。図1は,ステントの描出能をサイズごとに従来CTと比較した画像だが,Aquilion Precisionでは小径ステントでも視認性が大きく向上している。
従来,PCI後のフォローアップは,半年から1年後に冠動脈造影(CAG)を行い,再狭窄の有無を確認してきた。しかし,日本循環器学会が2019年に発表した「慢性冠動脈疾患診断ガイドライン」では,ReACT試験の結果からPCI後8〜12か月でのフォローアップの冠動脈造影を行う臨床的有用性は認められず,「MDCT,心臓MRIを用いる非侵襲的な手法で治療後の評価およびフォローアップができれば,その意義は大きい」とされている。しかし,従来の冠動脈CTでは空間分解能の限界から,3.0mm未満のステントはガイドラインでも推奨クラスⅡb(エビデンス・見解から有用性・有効性がそれほど確立されていない)とされているのが現状である。ちなみに,当センターでステントの評価目的に施行したCT検査では,3.0mm未満のステント(第2世代DES)が5割を占めている(2018年12月〜2019年3月)。

図1 従来CT(a〜dの左)とAquilion Precision(a〜dの右)による冠動脈の小径ステントの比較

図1 従来CT(a〜dの左)とAquilion Precision(a〜dの右)による冠動脈の小径ステントの比較

 

2.Aquilion Precisionによる小径ステントの描出能
そこで,Aquilion Precisionで3.0mm未満のステントの評価が可能かどうかを検討した。2.5mmのSynergyステントを水槽内に留置し,従来CTとAquilion Precisionで撮影した(図2)。水のCT値は0のため,本来はステント内腔は0となるはずだが,従来CTではブルーミングアーチファクトの影響でCT値は不正確である(図2 a)。一方,Aquilion Precisionでは0になっており,内腔の状態を正確に反映していると考えられる(図2 b)。
PCIに用いられる3.0mm未満の薬剤溶出ステント(DES)には,さまざまな素材,径が存在する。図3は,2.25mmのステントで,aはSynergy(プラチナ・クロム合金),bはXience(コバルト・クロム合金),cはPromus(プラチナ・クロム合金)である。素材の違いにかかわらず,小径の2.25mmでも内腔がしっかりと描出できていることがわかる。

図2 従来CT(a)とAquilion Precision(b)のステント描出能の比較

図2 従来CT(a)とAquilion Precision(b)のステント描出能の比較

 

図3 Aquilion Precisionでの小径ステントの描出:2.25mm

図3 Aquilion Precisionでの小径ステントの描出:2.25mm

 

3.症例提示
実際にAquilion Precisionを用いてPCI後の評価を行った症例を提示する。
症例1は,87歳,男性,2007年から5回のPCIが施行され,冠動脈内に計8本のステントが留置されている。労作時の息切れを主訴に,当センターで冠動脈CTとCAGを行った。冠動脈CTでは,右冠動脈(RCA)の3.0mmステント内に狭窄を疑う陰影が認められるが(図4 a),LADと左回旋枝(LCX)のステントには有意な所見は認められない(図4 b,c)。左前下行枝から分岐する対角枝(D1)にも2.25mmのステント2本が留置されており(図4 d),鈍角枝(OM)は末梢では評価が難しい(図4 e)。CAGではRCAは狭窄ではなく,CTでの狭窄はアーチファクトだと考えられた。OMについては,わずかに狭窄が見られたが冠血流予備量比(FFR)を調べたところ虚血なしとされ,薬物治療となった。

図4 症例1:ステント内再狭窄疑い

図4 症例1:ステント内再狭窄疑い

 

4.3.0mm未満のステントの診断精度の評価
Aquilion Precisionによる3.0mm未満のステントの診断精度について,当センターの症例で検証した。対象は,2019年1月〜8月に冠動脈CT撮影後にCAGを行った67症例で,ステント情報が前もって得られた169セグメントを評価した。ステントのサイズ別(4.0,3.5,3.0,2.75,2.5,2.25mm)に割り振り,診療放射線技師が視覚的にそれぞれの診断精度を検討した。4.0mmから2.5mmではdiagnostic rate(診断率)は90%以上だったが,2.25mmでは評価不能とされたセグメントが22例中6例あり,診断率73%と,Aquilion Precisionでも限界があると思われる。
この169セグメントを3.0mm以上のlarge coronary stent(n=85)と3.0mm未満のsmall coronary stent(n=84)の2群に分けて評価した。small coronary stentでは,診療放射線技師が評価可能と判断したセグメントについては診断精度は97.3%と高く,これは3.0mm以上のlarge coronary stentと同等の診断精度であった。評価不能例も陽性とした場合の診断精度は90%以下となり,0.25mm以下のステントが影響していると考えられた。

石灰化病変の評価

Aquilion Precisionでは,冠動脈CTのもう一つの“アキレス腱”である石灰化病変の評価も可能になると期待される。図5は,Aquilion64で冠動脈CTを撮影しPCIを行った症例を,Aquilion Precisionでフォローアップした症例である。64列CTと比較して,Aquilion Precisionでは石灰化の分布もクリアに描出されている。さらに,石灰化病変がある血管に留置したステントでは,石灰化のアーチファクトでステント内腔の評価が難しいとされていたが,Aquilion Precisionでは石灰化によるアーチファクトが低減し,内腔の評価が可能になることがわかる(図6)。

図5 Aquilion Precisionによる石灰化病変の評価 a:従来CT b:Aquilion Precision

図5 Aquilion Precisionによる石灰化病変の評価
a:従来CT b:Aquilion Precision

 

図6 ステント留置例での石灰化によるアーチファクトの影響

図6 ステント留置例での石灰化によるアーチファクトの影響

 

CT-FFR

米国心臓協会学術集会(AHA2019)で発表されたISCHEMIA試験の結果で,中等度から重度の虚血がある安定狭心症患者に対して,PCIもしくは冠動脈バイパス手術などの侵襲的な治療と薬物治療を行った群の長期予後には有意差がなかったことが報告された。今後は,安定狭心症患者に対する虚血の評価が重要になるが,キヤノンメディカルシステムズ社では,冠動脈CTでFFRを計測する技術(CT-FFR)を開発している。オーストリアや日本の順天堂大学の報告でも,FFRとの良好な相関が示されており,今後の臨床的な検討が期待される。

まとめ

Aquilion Precisionの登場で,3.0mm未満のステント内腔や石灰化の評価が可能になり,今後,長期的なフォローアップ,高リスク症例の層別化など虚血性心疾患への応用が期待される。

 

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