技術解説(キヤノンメディカルシステムズ)

2012年12月号

核医学分野の最新技術動向

心筋SPECT検査におけるSSPAC法による減弱アーチファクトの低減

末兼浩司(核医学・PET営業部)

■心筋SPECTにおける減弱補正の課題

心筋SPECT画像では,正常例においても下壁・中隔領域で画素値が低下することが知られている。これは,人体でのγ線の減弱によって起こる現象であり,この問題の解決策の1つとして,不均一な減弱体を想定した減弱補正を挙げることができる。このような減弱補正では,減弱係数の分布を表す減弱マップと呼ばれるデータが必要となり,過去には外部線源を用いたトランスミッション・データからこれを作成する方法が用いられてきたが,近年ではCT画像を用いる方法が主流である。
この方法では,CT画像の画素値をγ線の減弱係数に変換することで減弱マップを得るが,CT撮影が呼気息止めもしくは自由呼吸下で短時間に行われるのに対し,心筋SPECT検査では自由呼吸下で収集された数十心拍分のデータを加算するため,心臓と肺・肝臓との位置関係が減弱マップと心筋SPECT画像で同一とならない。
このように,CT画像を用いたSPECTの減弱補正では,CT画像とSPECT画像の位置の違いによるアーチファクトを生ずる場合があり,同一寝台で撮影されたCT画像を用いて減弱補正を行うことができるSPECT/CTのような一体型装置においてもこの問題は解消されていない1)

■SSPAC法の原理と画像処理

このようにCT画像を用いた心筋SPECT減弱補正には,呼吸などの影響による問題がある上,一体型装置を用いる場合には減弱補正のために追加の設備投資や維持費用が必要となる。このような問題を解決するためにSegmentation with Scatter and Photopeak window data for Attenuation Correction(SSPAC)法が藤田保健衛生大学の前田らによって開発された2)
SSPAC法はCT装置や外部線源を用いることなく,放射性医薬品を投与された被検者から放出されるγ線の情報のみを用いて減弱マップを推定する方法である。通常使用されるエネルギー領域であるphoto-peak領域のデータに加え,コンプトン散乱領域のデータを利用してSPECT画像から減弱マップを作成し,減弱補正を行うことで,心筋SPECT画像における減弱が原因のアーチファクトを低減する。このためエネルギーウインドウとしてはメインとなるphoto-peak windowに加え,低エネルギー側にsub windowを設定して収集を行うことが必要となる(図1)。

図1 SSPAC法のデータ収集におけるエネルギー設定

図1 SSPAC法のデータ収集におけるエネルギー設定

 

具体的なSSPAC法の処理を,図2に示す。最初にsub windowデータから得た再構成画像から体輪郭および肺外縁の抽出を行い,ここにあらかじめ用意しているモデル縦隔を貼り付ける。次にphoto-peak windowデータから得た再構成画像から心臓および肝臓を抽出し,あらかじめ用意したモデル胸椎とともに同様に貼り付けを行う。最後に得られた各部位に決められた減弱係数の割り付けを行い,SPECT位置分解能と同等の分解能となるようスムージングフィルタ処理を行うことで,各スライス面での減弱マップを得る。このようにSSPAC法では,SPECT収集データから減弱マップを作成するため,前述の画像間の位置ずれによる問題は原理上生じない。また,外部線源やCT装置を使用しないため付加的な被ばくや費用が発生しないことも大きな特長である。

図2 SSPAC法による減弱補正マップ作成の概念図

図2 SSPAC法による減弱補正マップ作成の概念図

 

■SSPAC法による減弱補正

図3201Tlによる正常例でのSSPAC法の効果を,polar mapを用いて示す。左側の画像に示したとおり201Tlのようなエネルギーの低い核種では,→の領域において減弱の影響を特に大きく受けるが,右側のSSPAC法の結果画像では,均一な分布となっている。また,99mTc-tetrofosminを用いた正常例の平均データにおいても,SSPAC法で処理を行った結果,処理を行わない場合と比較して,心筋全体での均一性が向上したという報告がある3)

図3 201Tl正常例におけるSSPAC法の効果 (データご提供:藤田保健衛生大学様,三重大学様)

図3 201Tl正常例におけるSSPAC法の効果
(データご提供:藤田保健衛生大学様,三重大学様)

 

続いて,SSPAC法の効果について,外部線源による減弱補正(TCT法)と比較した結果を図4に示す。左側の画像ではinferior(下壁)からseptum(中隔)で画素値の低下が生じているが,中央のSSPAC法を用いた場合ではこれが低減されており,その効果はTCT法を用いた場合とほぼ同等と言うことができる。

図4 外部線源法(TCT法)との比較(99mTc-tetrofosminでの正常例) (データご提供:藤田保健衛生大学様,三重大学様)

図4 外部線源法(TCT法)との比較(99mTc-tetrofosminでの正常例)
(データご提供:藤田保健衛生大学様,三重大学様)

 

図5に,SPECT/CT装置で心筋SPECTの減弱補正を行った場合と,SSPAC法を用いた場合を比較した結果を示す。補正なしでは存在しない心尖部の画素値低下がSPECT/CT装置を用いた補正で認められるのに対し,SSPAC法ではより均一な画像となっていることがわかる。これは前者ではSPECT画像と減弱マップの間に位置ずれが存在するのに対して,後者ではこれが存在しないためと考えられた。

図5 SPECT/CTのCT画像を使った減弱補正とSSPAC法による減弱補正の比較(データご提供:金沢大学様)

図5 SPECT/CTのCT画像を使った減弱補正とSSPAC法による減弱補正の比較
(データご提供:金沢大学様)

 

このようにSSPAC法は,少ない負担(費用・被ばく)で減弱によるアーチファクトを低減できる手法である。最近では冠動脈造影CTアンギオグラフィ(CCTA)と,心筋SPECT画像を三次元的にfusionし,形態画像と機能画像を同時に観察することが行われている。このようなfusionによる画像観察を行う場合にも,SSPAC法を用いることで,虚血部位をより正確に把握することができると考える。

●参考文献
1) McQuaid, S.J., et al. : Sources of attenuation-correction artefacts in cardiac PET/CT and SPECT/CT. Eur. J. Nucl. Med. Mol. Imaging, 35・6, 1117~1123, 2008.
2) 前田壽登 : 心筋SPECTにおける減弱補正─散乱・フォトピ-クデ-タからの減弱係数マップ作成および減弱補正. メディカルレビュー , 91, 2003.
3) Okuda, K., et al. : Attenuation correction of myocardial SPECT by scatter-photopeak window method in normal subjects. Ann. Nucl. Med., 23, 501~506, 2009.

 

●問い合わせ先
キヤノンメディカルシステムズ(株)
広報室
TEL 0287-26-5100
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