技術解説(キヤノンメディカルシステムズ)

2013年4月号

Cardiac Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点

循環器内科医が求める装置をめざして─Infinix Celeve-iの到達点

広瀬 聖史(X線営業部)

インターベンションを実施している循環器内科医が求める,X線血管撮影装置の性能・機能は何であるのか,日本の医療にとって必要な装置は何であるのかを確認することは重要である。それを確認するため,弊社では,循環器内科医に対してX線血管撮影装置に対するニーズ調査を実施している。2009年1月と2012年3月に実施したアンケート結果を図1に示す。X線血管撮影装置に必要な機能について,複数選択可としてご回答いただいた。有効回答者数は,2009年1月は49名,2012年3月は43名で,グラフは各機能を必要とした人数の割合を示している。この結果を見ると,2009年1月当時は画質を求める声が圧倒的であったが,2012年3月になると被ばく低減を求める声が大きくなっている。さまざまな考え方があるが,循環器内科医のニーズとして,現行の装置でも,術式を遂行するのにある程度納得のいく画質が得られているので,線量低減を実現すべきという意味であると解釈する。
この結果から,弊社では,安心で安全なインターベンションをサポートする,線量低減や線量管理に関する機能を拡充している。本稿では,線量低減・線量管理に関する弊社X線循環器診断システム「Infinix Celeve-i」シリーズの到達点を紹介する。

図1 循環器内科医のニーズ調査

図1 循環器内科医のニーズ調査

 

■DoseNavigationコンセプト

弊社のX線循環器診断システムInfinix Celeve-iシリーズにおける線量低減・線量管理について,“DoseNavigation”というコンセプトを立ち上げている。DoseNavigationは,線量の適正化や線量削減により低線量へと導き,検査における線量管理を行っていくというものである。ここで述べる「低線量」には,患者入射線量の低減と散乱線による術者被ばくの低減の2つの意味が含まれる。低線量化の基本は,X線管から出力する1曝射あたりのX線量を低減すること,曝射している時間を短くすること,照射する面積を減らすことである。DoseNavigationでは,これらを効果的に実施できる機能を盛り込み,線量低減を実現する。主な機能としては,透視収集機能,低レートパルス透視,厚みのあるX線線質調整フィルタ(付加フィルタ)の採用と管電圧設定変更,スポット透視がある。それに加え,線量管理機能を有する。

1.透視収集機能

弊社の画像処理コンセプト“Pure Brain”では,残像の少ない透視像を提供する1),2)。撮影は透視の線量率と比べると10倍ほど高いが,PureBrainの画質であれば,撮影ではなく透視を記録画像として運用できる場面がある。そのような場合は撮影を省き,透視収集を行うことで,検査・治療全体で低線量化が可能となる。フットスイッチで収集できる運用の良さにより,すでに実臨床で積極的に使用していただけている2)。小児循環器インターベンション領域においても,PureBrainと透視収集による線量低減効果についてSawdyらから報告されており,従来法に比べ患者入射線量でおよそ半分,術者被ばくに関しておよそ2/3に低減されたとの報告がある3)。このように,透視収集は撮影と比べると,1曝射あたりの線量を低減させることで,患者入射線量を低減するだけではなく,術者被ばくを低減させる効果もある。

2.低レートパルス透視

曝射している時間を減らすという観点では,透視のパルスレートを減らす方法がある。PureBrainの透視は残像が少ないため,パルスレートを低くしても残像の影響が少なく,コマ落ち感以外に画像劣化を感じさせるものが少ない。不整脈に対するカテーテルアブレーションにおいては,横須賀共済病院・高橋 淳先生から,5pulse/s(pps)という低レートで利用されているとの報告がある4)。パルスレートの変更は容易で,術中に30,20,15,10,7.5,5,3,2,1ppsの中から選択して変更できる。カテーテル操作でコマ落ちが問題となる場面では高いレートに変更し,線量低減を優先する時は低いレートを術中に選択することができる。

3.厚みのあるX線線質調整フィルタ(付加フィルタ)と管電圧設定変更

1曝射あたりの線量を下げる方法として,X線線質調整フィルタにより低エネルギーX線をカットする方法がある。図2に,X線のスペクトルを示す。銅(Cu)を通過したX線スペクトルは,フィルタなしに比べ,60keV近傍以下の低エネルギーX線を効果的に除去できている。以前からCuフィルタを採用してきたが,X線管の高出力化を達成し,照射できるX線量に余裕が出てきている。そのため,X線線質調整フィルタに厚みのあるCuを採用しても,必要な検出器入射線量が得られるようになった。

図2 X線スペクトル

図2 X線スペクトル
線質調整フィルタなしと銅(Cu)0.1mmを比較

 

FOV 7インチ,SID100cmにて,アクリル20cmのファントムを用い,IVRポイントにおける透視の入射線量率とCuの厚みの関係を調べた。その際,管電圧も変化させた。図3は,管電圧70kV,Cu 0.2mmの線量率を100%として測定結果をグラフ化したものである。Cuの厚みが増すにつれ,線量率が低減していることがわかる。以前は0.5mmまでしか搭載していなかったが,この線量低減効果から0.9mmを追加した。また,70kV設定に比べ,管電圧を上げると線量率が低減できる。前述の横須賀共済病院様では,5pps,80kVの透視設定を作り,標準の15pps,70kV設定から78%もの線量率低減が可能となった。その結果,透視時間が100分を超えても,500mGyを超えない手技を可能としている4)

図3 銅(Cu)フィルタの線量低減効果

図3 銅(Cu)フィルタの線量低減効果
Cu 0.2mm,70kVの透視線量率を100%とした場合の線量率比

 

4.スポット透視

X線照射範囲を小さくすることで,患者の被ばく面積を狭小化するために,X線可動絞りが存在する。しかし,X線照射が不要な部位を遮蔽する効果はあるものの,絞り部の画面が黒く表示されるため全体の様子がつかみにくいことや,画像中心方向にしか絞れないなどの制限があった。それらを解決するため,スポット透視機能を開発した。
スポット透視では,関心領域にのみX線が照射され,関心領域外には静止画像を表示することで,全体の様子を理解しながら視認が必要な部分にのみリアルタイムのX線透視が可能となる。関心領域は,画像中心に上下・左右対称でなくとも良い。そのイメージ画像を図4に示す。スポット透視の効果については,横須賀共済病院・高橋 淳先生により,心房細動のアブレーションにおいて,スポット透視は効果的に患者面積線量を低減し,術者被ばくを低減する可能性が報告されている4)

図4 スポット透視(イメージ)

図4 スポット透視(イメージ)
白枠が関心領域。関心領域内はライブ透視,関心領域外は静止画像を表示

 

5.線量管理

線量低減とともに重要なのが線量管理である。Infinix Celeve-iシリーズにはRunLog機能があり,照射録が保存されている。DICOM MPPSにて,検査情報とともに検査・治療全体の線量情報を出力できるほか,DataBase Output機能により,照射録をCSV形式でテキストファイルとして出力できる。弊社の動画ネットワークシステム「CardioAgent」のレポート機能と連携し,画像および治療録とともに照射録も一元管理できる。現在では簡易的なDose Mapを描くことも可能となっている。
さらに,DICOM Radiation Dose Structured Report(RDSR)をサポートしており,RDSRに対応したサーバに,詳細な照射情報を提供できる。
Infnix Celeve-iシリーズでは,実運用でのニーズにかなう線量低減機構を多く持ち,循環器インターベンションに対し,有効に線量低減を実現するとともに,線量管理も容易にしている。

* Infinix Celeve,PureBrainおよびCardioAgentは東芝メディカルシステムズ株式会社の商標です。

●参考文献
1)廣瀬聖史 : X線循環器診断システム「Infinix Celeve-i」の到達点. INNERVISION, 26・4, 32〜33, 2011.
2)長岡秀樹 : Angioの技術進歩と被ばく低減への取り組み―血管撮影装置の進化 ; PureBrainが導く被ばく低減への試み, INNERVISION, 26・5, 56〜59, 2011.
3)Jaclynn, M.S., et al. : Use of a dose-dependent follow-up protocol and mechanisms to reduce patients and staff radiation exposure in congenital and structural interventions. Catheter. Cardiovasc. Interv., 78, 136〜142, 2011.
4)高橋 淳 : 不整脈治用及び末梢血管インターベンションにおける被ばく低減の試み―スポット透視の使用経験, INNERVISION, 27・5, 118〜119, 2012.

 

●問い合わせ先
キヤノンメディカルシステムズ(株)
広報室
TEL 0287-26-5100
https://jp.medical.canon/

TOP