技術解説(キヤノンメディカルシステムズ)

2017年6月号

MRI検査のリスクマネージメント

静音化技術,当社の歴史と取り組み

近年注目されている静音化技術は,当社が他に先駆けて開発してきた分野である。最新の静音化技術“Pianissimo Zen”では,検査音の最大99%カットを実現した。撮像音の発生メカニズムは,一般のダイナミックスピーカーと同様の原理である。超電導MRI装置の架台は,外側に静磁場磁石があり,その内部に筒状の傾斜磁場コイルが配置されている。電流が流れると傾斜磁場コイル全体が振動し,大きな音が発生する。そのため,電流の印加が急激なほど大きな音を発生し,切り替え速度が速いほど高い音になる。1998年,single-shot EPIの実現に伴い,ソフトウエアでは対応しきれないEPI-DWIの騒音が深刻な問題となった。当社は,「エメラルドプロジェクト」という名称でその対策に取り組み,1999年の5月にPianissimo機構の製品試作版を完成した。傾斜磁場を真空密封し,音の伝達をシャットアウトすることで撮像手法や条件,画質を妥協することなく,騒音を抑制できる。その後,−33dBの静音化効果を実現した,世界初の真空封入静音化機構である。

同年9月には,Pianissimo機構を搭載した1.5T MRI「EXCELART」の発売を開始した。以来,当社のすべてのMRI装置にハードウエアの工夫による静音化技術が搭載されている。

ハードウエアによる静音化の場合,シーケンスの種類,部位によらずすべての検査で静音化が可能である。一方,ソフトウエアによる静音化としては,2000年7月に傾斜磁場コイルに流す電流波形を最適化する“Quiet Scan”を開発した。世界初の,3D TOFにも対応した静音化ソフトウエアである。

当社では,MRI装置の進化に合わせたさまざまな静音化技術を開発してきた。短軸マグネットにフィットさせた独自のスリムタイプの静音化機構では,発生しやすくなる渦電流への対策も見直し,短軸と静音化により患者がリラックスして安心できる検査環境を実現した。また,「Vantage Elan」では,省電力,高出力,高い静音化性能を実現する“Pianissimo∑”を搭載した。新たに開発されたPianissimo Zenでは,ソフトウエアによる静音化シーケンス“mUTE(minimized acoustic noise utilizing UTE)”とハードウエアによる静音化技術を組み合わせることにより,最大99%,環境音+2dBA以下の静音化を実現した。傾斜磁場コイルに流れる電流波形の変動を限りなく小さくすることにより振動を減らし,騒音を大幅に低減することが可能である。

当社は他に先駆けて騒音対策の技術開発を行い,装置に搭載してきた。静音化技術のパイオニアとして,今後も患者にやさしい技術の開発を推進していきたい。

 

●問い合わせ先
キヤノンメディカルシステムズ(株)
広報室
TEL 0287-26-5100
https://jp.medical.canon/

TOP