技術解説(キヤノンメディカルシステムズ)

2018年4月号

Abdominal Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点

ラージボアTOF PET-CT「Celesteion」の到達点─腹部領域で生かせる3つの技術

藤岡 一雅(核医学営業部)

2017年は,日本アイソトープ協会が5年ごとに行っている「全国核医学診療実態調査」の調査対象の年となっており,8月末時点での集計結果が中間発表として公表されている。その中で,PET検査は2012年に比べて2万5000件ほどの増加となり,伸び率は落ち着きを見せているが,総数として54万件に迫り,オンコロジー領域の臨床現場に定着してきたと言える。そのような環境の中,われわれは放射線治療画像やCT透視に最適なラージボアCTをベースとしたTOF PET-CTシステム「Celesteion(セレスティオン)」の販売を開始し,以来さまざまな機能の強化を図っている。本稿では,その中から腹部領域の画像診断に貢献できるであろう3つの技術について紹介する。

SUREFLiGHT Detector

PETは,体内に投与した放射性医薬品から出た陽電子と電子が対消滅し,180°対向方向に放出される2本のγ線を計測することで画像化を行っている。図1に示すように,従来の装置ではγ線が入射した2つの検出器を結ぶ線上のどこかでγ線が発生した(line of response:LOR)と考えて処理していたが,time of flight(以下,TOF)に対応した装置では,2つの検出器に入射する時間差を計測することで発生源位置を限定することができ,SNR(信号ノイズ比)の向上につながる。また,実際の臨床で,体形による画質劣化が改善するとの報告がある1)。われわれは,TOFに適した検出器設計を検討し,図2に示す「SUREFLiGHT Detector」として実装した。位置決定の正確さを示す性能指標を「TOF時間分解能」と呼び,Celesteionでは450ピコ秒以下,typical値で394ピコ秒を実現した。これは6cm程度に位置を限定できることになる。

図1 TOF技術の概略図 non-TOFではLOR上に一様に逆投影するのに対して,TOFでは検出器への入射時間差に基づいて逆投影する。

図1 TOF技術の概略図
non-TOFではLOR上に一様に逆投影するのに対して,TOFでは検出器への入射時間差に基づいて逆投影する。

 

図2 AquiduoとCelesteionの検出器の違い TOFに対応していない前機種「Aquiduo」では,4つの光電子増倍管を1組として配置し3つ並べていたのに対して,Celesteionでは,受光面を増やし信号処理を有利にするために,異なるサイズの光電子増倍管を交互に並べている。

図2 AquiduoとCelesteionの検出器の違い
TOFに対応していない前機種「Aquiduo」では,4つの光電子増倍管を1組として配置し3つ並べていたのに対して,Celesteionでは,受光面を増やし信号処理を有利にするために,異なるサイズの光電子増倍管を交互に並べている。

 

■PSF補正

PETの検出器は,4mm×4mm程度にカットされた多数のシンチレータが含まれ,リング状に配置される。図3に示すように,視野の中心部で発生したγ線はシンチレータ面に対して垂直に入射し発光することになるが,視野端ではシンチレータ面に対して斜めに入射するため,複数のシンチレータにまたがり発光することとなり,空間分解能の劣化につながる。

図3 視野中心からのγ線の計測と視野端からのγ線の計測の模式図

図3 視野中心からのγ線の計測と視野端からの
γ線の計測の模式図

 

Celesteionでは,この劣化に対してリング径や検出器設計などに工夫を加えた結果,視野中心から10mm,100mm,200mmの位置でのアキシャル方向の空間分解能が,それぞれ4.4mm,4.6mm,4.7mmで,空間分解能の劣化が少ないことが確認されている2)。さらに,各ポイントでの空間分解能の劣化を実測し,それを応答関数として再構成に組み込むpoint spread function補正(以下,PSF補正)を実装したことで,空間分解能は約2mmに向上した(図4 a)。
一方で,PSF補正に関しては,Gibbsアーチファクトによるエッジ強調により,集積部辺縁の信号強度が過大評価されているとの先行研究がある3)。これに対してCelesteionでは,TOFの高性能化により優れたコントラストを実現していることを踏まえ,エッジ強調を抑制したunder-modeling PSF kernel4)を採用した。その効果を評価するために,先行研究に準じて行ったIECボディファントムの計測結果を図4 bに示す。TOFのみに比べ,10mm,13mm,17mm球では部分容積効果による定量値低下の改善を確認できる一方で,37mm球を超えるような過補正は確認されなかった。また,画像データを図5に示す。

図4 PSF補正の物理評価に関する検討結果 aのTOF(実測)に関しては参考文献2)より数値を引用。bはIECボディファントムの計測結果。

図4 PSF補正の物理評価に関する検討結果
aのTOF(実測)に関しては参考文献2)より数値を引用。bはIECボディファントムの計測結果。

 

図5 各処理条件での画像の違い 「TOFなし・PSFなし」「TOFあり・PSFなし」「TOFあり・PSFあり」の臨床画像での違いを示す。TOFによりコントラストの改善が確認でき,PSFでさらに解像度が向上していることが確認できる。

図5 各処理条件での画像の違い
「TOFなし・PSFなし」「TOFあり・PSFなし」「TOFあり・PSFあり」の臨床画像での違いを示す。TOFによりコントラストの改善が確認でき,PSFでさらに解像度が向上していることが確認できる。

 

■Follow up measurement

FDGを用いたPET-CT検査は,2012(平成24)年4月の診療報酬改定にて,適用拡大とともに悪性リンパ腫の治療効果判定への適用に関して疑義解釈が示された。固形がんに対するPETの治療効果判定については,PET Response Criteria in Solid Tumors(以下,PERCIST)という概念5)が考案されており,Celesteionでは“Follow up measurement”と呼ぶ機能が対応する。
本機能は,PERCISTのフローチャートに準じて,肝臓や胸部下行大動脈の集積を計測し,図6に示すようなレポートとして出力できる。また,本機能の使用に際しては,時相の異なる複数のPET-CTスタディを同時に表示する“Multi Scan”,複数のスタディで連動する“Link Scans”,各データに対して線形および非線形自動位置合わせを行う“レジストレーション”といった機能と連携することで使いやすさにも配慮した。

図6 Follow up measurementで用いる画面

図6 Follow up measurementで用いる画面

 

本稿では,Celesteionに搭載されたTOF技術とPSF補正,Follow up measurementに関して紹介した。今回取り上げなかったが,最大開口径90cmのボアを有する本装置は,体形の大きな方,閉所恐怖症の方への負担を軽減する。また,CTの被ばく低減技術である“AIDR 3D”や金属アーチファクト低減技術である“SEMAR”,呼吸同期PET収集といった機能の腹部領域での応用が期待される。

●参考文献
1)Karp, J.S., et al. : Benefit of time-of-flight in PET ; Experimental and clinical results. J. Nucl. Med., 49, 462〜470, 2008.
2)Kaneta, T., et al. : Initial evaluation of the Celesteion large-bore PET/CT scanner in accordance with the NEMA NU2-2012 standard and the Japanese guideline for oncology FDG PET/CT data acquisition protocol version 2.0. EJNMMI Res., 7, 83, 2017.
3)中村明弘・他 : PET画像におけるPSF補正が定量値に与える影響─ファントム実験と臨床画像からの検討─. 日本放射線技術学会雑誌, 70・6, 542〜548, 2014.
4)Niu, X., et al. : Count-level dependent image domain PSF kernel width selection for fully 3D PET image reconstruction. IEEE Nucl. Sci. Symp. Med. Img. Conf, 2015.
5)Wahl, R.L., et al.  : From RECIST to PERCIST ;
Evolving Considerations for PET response criteria in solid tumors. J. Nucl. Med., 50(Suppl.1), 122S〜150S, 2009.

 

●問い合わせ先
キヤノンメディカルシステムズ(株)
広報室
TEL 0287-26-5100
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