技術解説(キヤノンメディカルシステムズ)

2019年4月号

Cardiac Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点

心筋SPECT検査における3検出器型SPECT装置「GCA-9300R」の特長

高階 慶人(核医学営業部)

心臓および頭部のSPECT検査は,SPECT検査全体の約70%を占めている。これは,虚血性心疾患や脳血管障害,または認知症における診断と治療方針の決定において,SPECT検査の有用性が高いことが背景にある。
本稿では,心臓SPECT検査において卓越した画像を提供する3検出器型SPECT装置「GCA-9300R」の特長について,最新技術の紹介を交えて概説したい(図1)。

図1 3検出器型SPECT装置GCA-9300R

図1 3検出器型SPECT装置GCA-9300R

 

‌●3検出器×LMEGPコリメータによって安定した高画質

汎用2検出器型SPECT装置で360°分のデータを得るためには検出器を180°回転させなければならないのに対して,3検出器型SPECT装置は検出器を120°回転させるだけで360°分のデータを収集できるため,同じ収集時間では1.5倍のカウントが得られる。また,収集時間もしくは投与量を汎用2検出器型SPECT装置の2/3に低減しても,同等の画像を得ることができる(図2)。
検出器に装備されるコリメータにも大きな特長がある。標準装備である低中エネルギー汎用(以下,LMEGP)コリメータは,感度と分解能,ペネトレーションという相反関係にあるパラメータを徹底的に検討し,心筋SPECT検査に最適化したコリメータである。
低エネルギー高分解能(LEHR)コリメータと比較して約1.8倍の感度があり,効率良くガンマ線計測が可能なため,心電同期収集や99mTc製剤に比べて投与量の少ない201Tl製剤でも安定して高画質な画像を提供することができる。
また,123I核種に見られる529keVに由来する高エネルギー側散乱線成分の混入を抑え,心縦隔比(H/M比)の定量性が改善される(図3)。このように,LMEGPコリメータ1つで核種によらず心臓検査全般に対応できる。
3検出器による収集効率向上と感度の高いコリメータの組み合わせにより,高画質の画像を安定して提供できる。

図2 3検出器による収集効率の向上

図2 3検出器による収集効率の向上

 

図3 LMEGPコリメータとLEHRコリメータの比較 (画像ご提供:国立循環器病研究センター様)

図3 LMEGPコリメータとLEHRコリメータの比較
(画像ご提供:国立循環器病研究センター様)

 

‌●SSPAC法を用いた減弱アーチファクトの低減

心筋SPECT検査において,生体内での吸収・散乱の影響により,深部に位置する下壁・中隔領域のカウントが低下することが問題となる。このカウント低下を補正するには減弱係数の分布を表すデータ(減弱マップ)が必要であり,最近ではCT画像を基に減弱マップを作成する方法が主流となっている。しかし,短時間で撮影するCT画像と自由呼吸下で数十心拍分のカウントを平均化する心筋SPECT画像では,心筋と肺や横隔膜の位置関係が同一にならない問題があり,これは同一寝台で撮像可能なSPECT/CT装置においても解消されていない1)。この問題を解決するために,segmentation with scatter and photopeak window data for attenuation correction(以下,SSPAC)法が前田らによって開発された2)
SSPAC法は,被検者に投与されたSPECT用トレーサーから放出されるガンマ線の情報を用いて減弱マップを作成する手法で,フォトピークデータとコンプトン散乱領域のデータ(サブウインドウデータ)を利用してSPECT画像から減弱マップを作成するため,追加のSPECT収集・CT撮影が不要である。データ収集のエネルギーウインドウ設定は,フォトピークウインドウとサブウインドウからなる散乱線補正法(TEW法)と同じである(図4)。

図4 SSPAC法のデータ収集におけるエネルギー設定

図4 SSPAC法のデータ収集におけるエネルギー設定

 

具体的なSSPAC法による減弱マップ作成の流れを図5に示す。
最初に,サブウインドウデータから得た再構成画像から体輪郭および肺外縁の抽出を行い,ここにあらかじめ用意しているモデル縦隔を合成する。次に,フォトピークウインドウデータから得た再構成画像から心臓および肝臓を抽出し,あらかじめ用意したモデル胸椎とともに同様に合成する。最後に得られた各部位に決められた減弱係数の割り付けを行い,SPECT位置分解能と同等の分解能となるようスムージングフィルタ処理を行うことで,各スライス面での減弱マップを得る。
しかし,体輪郭の抽出にはサブウインドウデータを使用するため,被検者の体形や使用核種・収集条件によるカウント不足,再構成画像中の高カウント領域の影響,天板による減弱の影響などが原因となり,体輪郭抽出に失敗するケースも報告されている3)

図5 SSPAC法による減弱マップ作成

図5 SSPAC法による減弱マップ作成

 

そこで,この問題を解決するためにアルゴリズムの改善を図った。今回,新たに追加された体輪郭補正機能を図6に示す。
これにより従来問題となっていた体輪郭の抽出が容易となり,SSPAC法による減弱マップ作成の成功率が大幅に向上した。

図6 SSPAC法の体輪郭補正機能

図6 SSPAC法の体輪郭補正機能

 

図7に,SPECT/CT装置で心筋SPECTの減弱補正を行った場合と,SSPAC法を用いた場合を比較した結果を示す。補正なしでは存在しない心尖部の画素値低下がSPECT/CT装置を用いた補正で認められるのに対し,SSPAC法ではより均一な画像となっていることがわかる。これは,前者ではSPECT画像と減弱マップの間に位置ズレが存在するのに対して,後者ではこれが存在しないためと考えられた。

図7 SPECT/CT装置のCT画像を使った減弱補正とSSPAC法による減弱補正の比較 (画像ご提供:金沢大学様)

図7 SPECT/CT装置のCT画像を使った減弱補正と
SSPAC法による減弱補正の比較
(画像ご提供:金沢大学様)

 

●冠動脈CT画像と心筋SPECTのフュージョン“NM Cardiac Fusion”

近年,ソフトウエアの進歩により,冠動脈の形態的評価を行う冠動脈CT画像と機能的評価を行う心筋血流SPECTをフュージョンさせる手法が開発されており,その融合画像は臨床の場で高く評価されている4),5)
GCA-9300Rに搭載されるNM Cardiac Fusionも画像フュージョン用アプリケーションの一つで,冠動脈CT画像とSPECT画像の3Dフュージョン表示が可能である。冠動脈の状態(走行・狭窄や石灰化の有無)と心筋血流の状態(虚血・梗塞の有無)を同時に観察することで,責任血管の判定,治療方針の決定,被検者への説明に効果が大いに期待できる(図8)。
また,本アプリケーションでは,ポーラーマップ解析画像も冠動脈CT画像とフュージョン可能で,被検者自身の冠動脈CT画像をオーバーレイ表示することで複雑な血管走行をポーラーマップ解析画像上でも容易に把握できる。もちろん,ポーラーマップ解析はreversibilityやwashoutといった各種の解析に対応している。

図8 NM Cardiac Fusion使用画像 (画像ご提供:鹿児島大学様)

図8 NM Cardiac Fusion使用画像
(画像ご提供:鹿児島大学様)

 

GCA-9300Rの画像は,潤沢なカウントから作られる高画質な画像,減弱アーチファクトの補正,冠動脈CT画像とのフュージョンによる心筋血流評価という3つの特長から,心臓検査における診断能向上に大きく寄与できていると考える。

*NM Cardiac Fusionはオプション機能です。

●参考文献
1)McQuaid, S.J., et al. : Sources of attenuation-correction artefacts in cardiac PET/CT and SPECT/CT. Eur. J. Nucl. Med. Mol. Imaging, 35・6, 1117~1123, 2008.
2)前田壽登 : 心筋SPECTにおける減弱補正─散乱・フォトピ-クデ-タからの減弱係数マップ作成および減弱補正. メディカルレビュー, 91, 2003.
3)勘崎貴雄 : 心筋血流SPECTにおける減弱補正法SSPAC解析改善の検討. 第56回日本核医学会学術総会, 2016.
4)Matsuo, S., Nakajima, K., et al. : Clinical usefulness of novel cardiac MDCT/CT fusion image. Ann. Nucl. Med., 23・6, 579~586, 2009.
5)Slart, R.H., et al. : Diagnostic pathway of integrated SPECT/CT for coronary artery disease. Eur. J. Nucl. Med. Mol. Imaging, 36・11, 1829~1834, 2009.

 

●問い合わせ先
キヤノンメディカルシステムズ株式会社
広報室
TEL 0287-26-5100
https://jp.medical.canon/

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