技術解説(キヤノンメディカルシステムズ)

2021年5月号

循環器領域におけるITの技術の到達点

「CardioAgent Pro for CIEDs」─手術から遠隔まで,心臓植込みデバイスデータを一元管理

塚本 晃弘[キヤノンメディカルシステムズ(株)営業本部ヘルスケアIT営業部]

■心臓植込みデバイスデータ管理を取り巻く環境

本邦における心疾患死亡率は,1985年以降,脳血管疾患に代わり第2位となり,2018年には全死亡者に占める割合が15%を超えた。2019年12月には「健康寿命の延伸等を図るための脳卒中,心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法」が施行され,高齢化の中で社会的課題となっている。
こうした疾患構造や社会情勢の中,心疾患領域の中でも心原性脳塞栓症の原因となる心房細動や,突然死を引き起こす心室細動といった不整脈分野への診断・治療に関するテクノロジーが著しく進化を遂げてきている。
ペースメーカーをはじめとする心臓植込み型電気デバイス(cardiac implantable electronic device:CIED)は,ハードウエアの進化のみならず,デバイス状態や不整脈イベント,生体情報が各メーカーのデータセンターに送信される「遠隔モニタリング」機能が搭載されるようになり,医療従事者はWeb上で患者の状態を早期に確認できるようになった。
生命予後の改善や外来受診の削減,入院期間の短縮が期待され,対面診療に代わりガイドラインでも標準診療(ClassⅠ)として推奨されている1)
また,2020年の新型コロナウイルス感染拡大では,米国不整脈学会は「直接対面することなく,デバイスチェックできる遠隔モニタリングは最も強力な感染防御策である」2)とのステートメントを出し,本邦でも日本不整脈心電学会,日本臨床工学技士会,日本不整脈デバイス工業会は,合同で遠隔モニタリングの積極的な活用を推奨している3)
一方,医師の働き方改革推進に伴うタスクシフト/タスクシェアを鑑みつつ,検査や手術時の臨床業務,定期診療や生活指導といった日常業務に加え,遠隔モニタリング利用件数増加に伴い,そのデータ管理に携わる医療従事者の業務負荷が増えることは間違いなく,それだけに安全な形で多職種連携を意識したシステム化が求められている。
こうした医療現場の環境変化やニーズに応えるべく,各社の遠隔モニタリングデータの一元管理を実現するため,当社は2021年1月「ペースメーカー統合管理サービス(CardioAgent Pro for CIEDs)」をリリースした。

■各社の遠隔モニタリングデータを一元的に収集

通常,遠隔モニタリングデータにアクセスするためには,インターネット上の各デバイスメーカーのWebページにアクセスし,施設で設定されたログイン管理の下,患者状態の把握が可能となる。必要に応じ,心電図やデバイス状態の詳細が記されたPDFをダウンロードし,電子カルテに内容を記載,データを貼付することで診療録を管理していることが多い。参照から転記まで一連の作業はマニュアルであり,メーカーごとに同様の作業を行う必要がある。したがって,データ管理に要する作業量は,患者人数×メーカーの分だけ負荷がかかることになる。また,Webでの参照データを転記する際には,端末から端末にUSBなどを介し手動で行うこともあり,転記前後の作業含め一定のリスクが存在する。
今回,キヤノングループが持つ医用クラウド基盤*1と各社の遠隔モニタリングサービスを連携することで,より安全で迅速,効率的なワークフローを構築し,各社の受信データを共通フォーマットとして一元管理することを実現した。図1のデータフロー,図2の画面イメージと併せ,主な特長を示す。

図1 ペースメーカー統合管理サービスのデータフロー

図1 ペースメーカー統合管理サービスのデータフロー

 

図2 ペースメーカー統合管理サービスの画面イメージ

図2 ペースメーカー統合管理サービスの画面イメージ

 

1.セキュアなクラウド環境によるデータ収集
各省庁のガイドラインに準拠したクラウド基盤では,施設別にテナント設計された領域内に,各社データセンターと通信するインターフェイス(API)を構築することで,登録患者の遠隔モニタリングデータを自動収集し,院内のゲートウエイで一元管理する*2。施設内に設置するクラウドとの通信ゲートウエイとはVPN接続し,かつ電子証明書によるなりすまし防止対策も施し,セキュアなネットワーク環境を提供する。

2.受信データのリアルタイム参照
院内端末に専用のアプリケーションをインストールする必要はなく,Webブラウザを使用して,その場で各社のデータ受信状況を確認することができ,詳細情報やPDFの参照も可能となる。従来,個別にインターネットアクセスをしてメーカーごとにデータ収集をしていた手間を,大幅に削減できるようになった。受信データごとに対処方法をステータス分類でき,チーム内でのワークフローや情報共有の向上に貢献する。

3.データ管理業務の支援
院内端末上で参照できる受信データに対し,その内容を反映した定型文テキストをワンクリックで生成する機能を有し,電子カルテへの転記業務の効率化を図る。
また,受信データは各社共通のフォーマットとして院内システムに出力する機能を有し,当社の持つ「CardioAgent Pro」の“植込みデバイス患者台帳”と組み合わせることで,手術記録や対面診療時の記録と併せて,時系列での患者データ管理が容易となる。

■植込みデバイス患者台帳

循環器領域における動画ネットワークソリューションとして,当社はCardioAgent Proを展開しており,画像保管や閲覧・配信機能のみならず,臨床データベースとして,あるいは業務マネージメントの視点で循環器診療のあらゆるシーンをカバーするためのレパートリーを備えている。植込みデバイス患者台帳もその一つであり,カテ室での手術記録にとどまらず,ペースメーカー外来をはじめとしたフォローアップにも時系列でファイリングできるよう,患者単位でデータ管理できる台帳として,現在70施設以上の稼働実績を有している。
上位システムから各種オーダを取得しレコード作成を効率化,バーコードリーダを用いてデバイスデータ挿入を行い,転記ミスの防止や入力業務の軽減を図っている。また,プログラマ機器から出力されるPDFをオンラインでサーバ管理し,患者台帳と紐づけて,電子カルテから参照できる環境を構築する。さらには,前述のクラウドサービスと組み合わせ,遠隔モニタリングデータを取り込むことで,手術から遠隔まで,データの発生状況が異なっても入力環境の一元化を実現する。
入力データはレポートサマリーとして配信するだけでなく,学会レジストリやトラッキングシート,ペースメーカー手帳への書き出しなどの機能も搭載することで二次利用としても活用できる。
デバイス植込み患者を支えるチーム医療において,データ管理業務支援として機能できるよう,施設や運用形式に合わせて,豊富な導入経験を生かしたカスタマイズをめざしている(図3)。

図3 CardioAgent Proの植込みデバイス患者台帳

図3 CardioAgent Proの植込みデバイス患者台帳

 

■今後の展望

2020年はオンライン診療の初診解禁や治療用アプリの保険適用,ウエアラブルデバイスアプリが医療機器として承認されるなど,デジタル化が顕著に進んだ年であり,今後2030年に向け,いわゆる「医療4.0」時代の予見を感じた1年となった。
こうした社会情勢の変化の中で,植込みデバイスデータマネージメントに携わる医療従事者の働き方改革含め,フローのデジタル化,ひいては医療現場のデジタルトランスフォーメーション(DX)に寄与できるようなサービスを提供していきたい。

*1 クラウド環境についてはキヤノンITSメディカル(株)「Medical Image Place ペースメーカー統合管理サービス」を利用する。
*2 デバイス各社と施設との間でAPI利用に関する申請,登録などの手続きが必要となる。

*CardioAgentはキヤノンメディカルシステムズ(株)の商標です。

●参考文献
1)不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版). 日本循環器学会/日本不整脈心電学会合同ガイドライン, 2019.
2)HRS COVID-19 Task Force Update : April 15, 2020.
https://www.hrsonline.org/hrs-covid-19-task-force-update-april-15-2020
3) 日本臨床工学技士会, 日本不整脈心電学会, 日本不整脈デバイス工業会 : 新型コロナウイルス感染拡大に伴う心臓植込みデバイスフォローアップの実際について―デバイスフォローアップによる感染機会の減少を目的として. 2020.
http://new.jhrs.or.jp/pdf/others/info20200514.pdf

 

●問い合わせ先
キヤノンメディカルシステムズ(株)
広報室
TEL 0287-26-5100
https://jp.medical.canon/

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