技術解説(キヤノンメディカルシステムズ)

2022年4月号

腹部画像診断におけるCTの技術の到達点

腹部領域におけるCT技術紹介

近年,ディープラーニング技術は,X線画像のノイズ低減処理など,医用分野にも応用されている。また,医療被ばくに対する関心が世界的に高まっている中,画質を担保しながら低被ばくな検査が求められるようになり,ノイズ低減技術の重要性が増している。本稿では,ディープラーニングを用いた技術として,“Advanced intelligent Clear-IQ Engine(以下,AiCE)”と“Spectral Imaging System”の特長について紹介する。

■ディープラーニングを用いて設計されたCT画像再構成技術

AiCEは,ノイズ成分と信号成分を識別する処理を行い,空間分解能を維持したままノイズを選択的に除去することが可能である。AiCEのトレーニングにはdeep convolutional neural network(以下,DCNN)を用いているが,DCNNのトレーニング精度は学習データに大きく依存し,膨大な入力データと高品質な教師データが求められる。当社は,教師データにはmodel based iterative reconstruction(以下,MBIR)である当社製品“Forward projected model-based Iterative Reconstruction SoluTion(以下,FIRST)”よりも,さらに高画質な画像を得られるように強化・改良したAdvanced MBIRを用いており,入力データにはさまざまなノイズレベル,部位,体格などを含む数十万枚の膨大なデータを用いている。学習されたDCNNを装置に組み込むことによって,収集されたデータの高品質化・画質改善を実施する(図1)。AiCEの特長は,ノイズ低減のみならず,高い空間分解能および良好な粒状性の維持を実現した点と,演算コストの大きいMBIRと異なり,短時間で再構成を行うことができるため,ワークフローの改善にも貢献できる点である。

図1 AiCE概念図 AiCEはトレーニング過程にディープラーニングを用いており,本システム自体に自己学習機能は有していない。

図1 AiCE概念図
AiCEはトレーニング過程にディープラーニングを用いており,本システム自体に自己学習機能は有していない。

 

■腹部領域におけるAiCEの活用

AiCEは2018年4月に高精細CTである「Aquilion Precision」に搭載され,現在では320列エリアディテクタCT「Aquilion ONE」や80列CTなど,多機種に展開している。AiCEは,空間分解能を維持したまま高いノイズ低減効果による低コントラスト検出能向上が期待でき,腹部領域においてさまざまな有用性が報告されている。Aquilion Precisionにおける腹部全体の画質を,hybrid IRである“Adaptive Iterative Dose Reduction 3D(以下,AIDR 3D)”とFIRST,AiCEで比較した結果,AiCEのSD,CNR,視覚評価が最も優れており,腹部画質を向上させることができたと報告されている1)。また,腹部造影撮影においてAiCEを用いることで,通常線量の30%線量低減下でも画質の維持,改善効果が得られた2)と報告されている。
さらに,Aquilion ONEではAiCEを用いることで,肥満患者においても腹部造影画像のノイズが大幅に低減され,画質が担保されている3)と報告されており,腹部領域で課題であった大柄な体格や低線量によるノイズ増加の解決法としてAiCEが期待される。

■ディープラーニング技術を用いたSpectral Imaging System

Spectral Imaging Systemは,1回転のスキャンの中で2種の管電圧を高速で切り替えるrapid kV switching法を採用しており,ディープラーニングを用いた画像再構成により,高いアーチファクト低減とノイズ低減効果が得られる。面検出器により160mmの範囲を一度に撮影でき,自動露出機構(AEC)連動により,線量の適正化が図れる点が特長である。
撮影データは医用画像処理ワークステーション「Vitrea」にて検査目的に応じたさまざまな画像作成・解析ができ,施設の目的に合わせて任意のレイアウトを登録できる(図2)。腹部領域では,Iodine mapや低keV画像を用いた乏血性腫瘍の視認性向上,Spectral Curve,実効原子番号を用いた副腎腫瘍および胆石などの物質弁別などに活用されている。

図2 “Spectral Analysis”(Vitrea)画面

図2 “Spectral Analysis”(Vitrea)画面
a:仮想単色X線画像(70keV)
b:Iodine map
c:virtual non contrast(VNC)画像
d:Spectral Curve(CT値-keV曲線)
e:実効原子番号値のヒストグラム

 

●参考文献
1)Akagi, M. : Deep learning reconstruction improves image quality of abdominal ultra-high-resolution CT. Eur. Radiol., 29(11): 6163-6171, 2019.
2)Nakamura, Y. : Diagnostic value of deep learning reconstruction for radiation dose reduction at abdominal ultra-high-resolution CT. Eur. Radiol., 2021.
3)Akagi, A. : Deep learning reconstruction of equilibrium phase CT images in obese patients. Eur. Radiol., 133 : 109349, 2020.

 

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