技術解説(キヤノンメディカルシステムズ)

2023年3月号

Cardiac Imaging 2023 核医学装置技術のCutting edge

心筋SPECT検査における3検出器型SPECT装置「GCA-9300R」の特長

金子 舞美[キヤノンメディカルシステムズ(株)核医学営業部]

心臓および頭部のSPECT検査は,SPECT検査全体の約70%を占めている。これは,虚血性心疾患や脳血管障害,または認知症における診断と治療方針の決定において,SPECT検査の有用性が高いことが背景にある。
本稿では,心臓SPECT検査において卓越した画像を提供する3検出器型SPECT装置「GCA-9300R」の特長について,最新技術の紹介を交えて概説する。

■3検出器×LMEGPコリメータの有用性

360°分のデータを得るために,汎用2検出器型SPECT装置では検出器を180°回転させるのに対し,3検出器型SPECT装置では検出器を120°回転させるだけですむため,同じ収集時間では1.5倍の収集効率で高画質が得られる。
コリメータにも大きな特長がある。標準装備である低中エネルギー汎用パラレルホールコリメータ(LMEGP)は,低エネルギー高分解能パラレルホールコリメータ(LEHR)と比較して約1.8倍の感度がある。そのため,心筋SPECT検査では,心電同期収集や,99mTc製剤に比して投与量の少ない201Tl製剤でも統計ノイズが少ない高画質な画像が得られる。
また,123I核種に見られる529keV由来の散乱線成分の混入を抑え,心縦隔比(H/M比)の定量性を改善する(図1)。

図1 LMEGPコリメータとLEHRコリメータの比較 (画像ご提供:国立循環器病研究センター様)

図1 LMEGPコリメータとLEHRコリメータの比較
(画像ご提供:国立循環器病研究センター様)

 

■3D-OSEM再構成による画質向上効果

3D-OSEM(コリメータ開口補正付き逐次近似)再構成は,コリメータの有限な開口径によって生じる幾何学的な位置分解能の劣化を改善する補正機能を含んでいる。GCA-9300Rでは,演算処理をCPUからGPUに切り替え,最適なコーディングをすることで処理時間の大幅な短縮に成功した。また,コリメータ開口補正で発生するGibbs振動現象によるアーチファクトを抑えるよう,逐次近似の処理パラメータの最適化も行われている1)99mTc製剤を投与し,12分収集してfiltered back projection(FBP)で再構成した画像と,6分収集し3D-OSEMで再構成した画像を示す(図2)。3D-OSEMで再構成した画像は,収集時間はFBPで再構成した画像の半分にもかかわらず,SNRが高く,画像の不均一性が低下している。

図2 3D-OSEM再構成とFBP再構成の比較 (画像ご提供:福島県立医科大学様)

図2 3D-OSEM再構成とFBP再構成の比較
(画像ご提供:福島県立医科大学様)

 

■SSPAC法を用いた減弱アーチファクトの低減

心筋SPECT検査において,生体内での吸収・散乱の影響により,下壁・中隔領域のカウントが相対的に低下することが知られている。このカウント低下を補正するには,体内での減弱の影響を示す減弱マップが必要であり,最近では,CT画像を基に減弱マップを作成する方法が検討されている。しかし,数秒の短時間で撮影するCT画像と長時間の自由呼吸下で撮像するSPECT画像では,臓器の位置関係がミスマッチになる課題がある。この問題を解決するために,Segmentation with Scatter and Photopeak window data for Attenuation Correction(SSPAC)法が,前田らによって開発された2)
SSPAC法は,被検者に投与された心筋血流製剤から放出されるγ線の情報を用いて減弱マップを作成する手法で,フォトピークウインドウデータとコンプトン散乱領域のサブウインドウのデータを利用して,SPECT画像から減弱マップを作成する。データ収集のエネルギーウインドウ設定は,散乱線補正法(TEW法)と同じである。SPECT収集データそのものから減弱マップを作成するため,SPECT/CT装置で認められるSPECT画像と減弱マップとの位置ズレを解決し,より精度の高い減弱補正を行うことができる。また,カウントの少ない201Tl製剤や,短時間収集時においても減弱マップ作成の成功率が大幅に向上している。
図3に,SPECT/CT装置で心筋SPECTの減弱補正を行った場合と,SSPAC法を用いた場合を比較した結果を示す。補正なしでは存在しない心尖部の画素値低下が,CT画像による補正で認められるのに対し,SSPAC法では認められない。心尖部の画素値低下の要因の一つは,減弱補正用画像とSPECT画像の位置ズレと考えられている。SSPAC法は画像位置ズレがないため,心尖部の画素値低下が生じないと考えられる。
また,最近では,123I製剤でもSSPAC法が対応可能となった。99mTc・201Tl製剤同様,123I製剤のSSPAC法においてもCT減弱補正法で得られた補正マップとほぼ
一致した。位置ズレや検査延長,追加被ばくなしで短時間・高画質な画像を提供できる。図4では,Non-AC(減弱補正なし)で低下していた中壁・下壁が,SSPAC法では持ち上げられ,改善している()。

図3 SPECT/CT装置のCT画像を使った減弱補正とSSPAC法による減弱補正の比較

図3 SPECT/CT装置のCT画像を使った減弱補正と
SSPAC法による減弱補正の比較

 

図4 123I製剤におけるNon-ACとSSPAC法による減弱補正の比較 (画像ご提供:旭川赤十字病院様)

図4 123I製剤におけるNon-ACとSSPAC法による減弱補正の比較
(画像ご提供:旭川赤十字病院様)

 

■冠動脈CT画像と心筋SPECTのフュージョン「NM Cardiac Fusion」

フュージョン用アプリケーションの一つであるNM Cardiac Fusionでは,冠動脈CT画像とSPECT画像の3Dフュージョン表示が可能である。冠動脈の状態(走行・狭窄や石灰化の有無)と心筋血流の状態(虚血・梗塞の有無)を同時に観察することで,責任血管の判定・治療方針の決定・被検者への説明に効果が期待できる(図5)。
また,本アプリケーションでは,ポーラーマップ解析画像も冠動脈CT画像とフュージョン可能で,被検者自身の冠動脈CT画像をオーバーレイ表示することで,複雑な血管走行をポーラーマップ解析画像上でも容易に把握できる。もちろん,ポーラーマップ解析はreversibilityやwashoutといった各種の解析に対応している。

図5 NM Cardiac Fusion使用画像 (画像ご提供:鹿児島大学様)

図5 NM Cardiac Fusion使用画像
(画像ご提供:鹿児島大学様)

 

■心筋血流と心機能を総合的に評価可能な「INVIA 4DM」

新バージョンより心臓解析ソフトウエアINVIA 4DMが追加され,非同期SPECT画像から左心室を自動的に輪郭抽出し,ポーラーマップ解析を行うことが可能になっている。また,さまざまな指標や予後予測に有用なスコアを算出することができる。
心電図同期SPECT画像に対しても,独自のアルゴリズムで自動輪郭抽出を行い,各位相のデータからボリュームや駆出率といった指標を算出することができる。また,心拍動のリズムを見る位相解析機能を有しているため,左室収縮同期不全(LV dyssynchrony)に対する心臓再同期療法(CRT)の治療効果予測および治療効果判定のサポートが可能となっている(図6)。

図6 INVIA 4DMの解析画面

図6 INVIA 4DMの解析画面

 

*NM Cardiac Fusion,INVIA 4DMはオプション機能です。

●参考文献
1)大西英雄 : 数値ファントムを用いた最新鋭SPECTの位置分解能補正の基礎的検討. 日本放射線技術学会雑誌, 68(6): 686-696, 2012.
2)前田壽登 : 心筋SPECTにおける減弱補正─散乱およびフォトピ-クデ-タからの減弱係数マップ作成, および減弱補正. メディカルレビュー, 90, 2003.

 

問い合わせ先
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TEL 0287-26-5100
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