技術解説(キヤノンメディカルシステムズ)

2025年8月号

Step up MRI 2025

超解像技術「Precise IQ Engine(PIQE)」の臨床的有用性

水落 菜月[キヤノンメディカルシステムズ(株)MRI営業部]

近年,人工知能(AI)の普及に伴い,AI技術は画像診断装置にも広く活用されるようになってきた。当社は,いち早くディープラーニングを活用した画像再構成技術の開発に取り組み,2019年にノイズ低減技術「Advanced intelligent Clear-IQ Engine(AiCE)」,2023年にはAiCEを基に発展させた超解像技術「Precise IQ Engine(PIQE)」を製品に搭載した。
PIQEは,2つの最適化された畳み込みニューラルネットワーク(convolutional neural network:CNN)を用いており,各ニューラルネットワークの学習内容を限定的にすることで,精度の高いノイズ低減およびzero-fill interpolation processing(ZIP)特有のアーチファクトを抑制した高分解能化を実現している。画像再構成により,マトリックス数を最大で従来の3倍まで増加させることが可能であり,低SNR・低分解能の画像から,高SNR・高分解能の画像を取得することができる。

■広範囲撮像の例

広範囲撮像において,高分解能画像を得るにはマトリックス数を増加させる必要があるが,サンプリングデータ数に比例して撮像時間が延長するため,phase encode(PE)方向の設定が重要になる。しかし,脊椎や乳房撮像のように,アーチファクト低減を考慮する場合,PE方向を撮像領域の長軸に設定せざるを得ないため,従来は高分解能化に伴い,必然的に撮像時間が延長していた。PIQEを用いた画像再構成により,PE方向のマトリックス数を増加させることができ,撮像時間の延長なく高分解能の画像を得ることが可能である(図1)。

図1 広範囲撮像にPIQEを適用した例

図1 広範囲撮像にPIQEを適用した例

 

■息止め時間短縮の例

腹部の撮像では,検査時間短縮のために息止め下で撮像をする場合も多い。息止め時間は,患者の負担軽減および画質の安定性を考慮し,可能なかぎり短いことが望まれる。撮像時間を短縮するための手段の一つとして,データ収集時に位相マトリックス数を減らす方法があるが,空間分解能が低下するという問題が生じる。PIQEを用いた画像再構成によりマトリックス数を増やすことができるため,空間分解能を維持しつつ,撮像時間を短縮することが可能である(図2)。

図2 PIQEによる撮像時間短縮の例

図2 PIQEによる撮像時間短縮の例

 

■心臓シネMRIの例

心臓検査において,心機能および局所壁運動の診断法としてシネMRIが用いられる。シネMRIでは,1心拍の間に複数時相の画像を取得するが,撮像可能な時相数は時間分解能に依存する。一般的に,parallel imaging(PI)を使用すれば,サンプリングデータ数を削減し,時間分解能を向上させることができる。しかし,PIによる高速化には,アーチファクトやノイズといった画質面での限界がある。PIに加えてPIQEを用いることで,空間分解能を維持したまま,さらなる時間分解能の向上が可能となる。図3は,PIQEの適用により,従来を上回る時間分解能が得られた例である。高時間分解能で撮像しつつ面内分解能も担保されるため,心機能および局所壁運動の詳細な描出が期待される。

図3 R-R間隔における時相数のイメージ図

図3 R-R間隔における時相数のイメージ図

 

本稿では,PIQEの臨床的有用性について,実際の活用例を踏まえて概説した。このように,PIQEはさまざまな場面での活用が期待される。当社はこれからも患者のため,医療従事者のため,そして医療の発展のために,技術の向上と価値の提供に取り組んでいく。

*本記事中のディープラーニング技術については,開発設計段階にディープラーニングを使用しており,本システム自体に自己学習機能を有しておりません。

 

●問い合わせ先
キヤノンメディカルシステムズ(株)
広報室
TEL 0287-26-5100
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