技術解説(富士フイルムメディカル)

2025年8月号

Step up MRI 2025

70cm開口径,液体ヘリウムを使用しない1.5T超電導MRIシステム「ECHELON Synergy ZeroHelium*1」について

市川 真仁[富士フイルムメディカル(株)MS事業部営業技術部]

■ZeroHelium磁石

超電導磁石は液体ヘリウムをまったく使わずに冷却されており,液体ヘリウムの使用量は0L*2である。従来と同じ圧縮機,冷凍機からなる冷却系統は同様に存在しており,この冷却系統によって得られる低温を,従来の冷媒としての液体ヘリウムに換えて,適切な温度分布となるように配置した部材にて内部の超電導コイルに伝達することで,超電導状態を形成している。液体ヘリウムが存在しないので,超電導状態を失った時の爆発的なヘリウムの放出は発生しない。また,ZeroHelium磁石では,ヘリウムガスが放出されないので,ヘリウム排気管,酸素検知器および緊急排気設備を設置する必要はない。

■システムについて

MRI装置を構成する (1) 静磁場を発生させる超電導磁石,(2) (1)を冷却するための冷凍機,(3) 高周波磁場を駆動するためのRF照射コイル,(4) 被検者から発生するMR信号を受信するガントリ内蔵のT/R Bodyコイル,(5) 傾斜磁場を発生させる傾斜磁場コイル,(6) 静磁場の不均一性を補正するシムコイル,(7) 寝台/ガントリの電気を制御する制御基板,(8) 受信コイルから送信されてきたMR信号に対してデジタル信号化・増幅などの処理を行い機械室のユニットへ伝送する光伝送系を有している。
これらの中で,(1) 超電導磁石以外については,液体ヘリウムありの「ECHELON Synergy」と液体ヘリウムなしの「ECHELON Synergy ZeroHelium」は同一の構成である。消費電力に関しても,ECHELON Synergyと同等であり*3,冷凍機の動作周波数を低減させる制御を行うことで電力消費を抑えるSmart Eco Plus「EcoモードPlus」をオプション機能として有する。「EcoモードPlus」によって年間消費電力(当社規定)は35~40%低減*4となる。据え付け期間は,ECHELON Synergyより短い,もしくは同等である。さらには,EPS*5,フィルタボックス,およびMRI用システムソフトウエア(「ORIGIN11」)と組み合わせて磁場を維持,制御,管理しており,ECHELON Synergyと静磁場均一度(静磁場性能)が同等で,画質も同等である(図1)。

図1 70cm開口径,液体ヘリウムを使用しない1.5T超電導MRIシステムECHELON Synergy ZeroHelium

図1 70cm開口径,液体ヘリウムを使用しない1.5T超電導MRIシステムECHELON Synergy ZeroHelium

 

■励磁・消磁について

ZeroHelium磁石を含む超電導磁石では,励磁・消磁によって,磁場強度および静磁場均一度は劣化および変化しないため,消磁前と励磁後では画質変化が起きない。さらに,消磁・励磁後,通常どおりに検査を再開しても,ZeroHelium磁石が超電導状態を保つための温度を維持することができる。超電導状態の喪失時,緊急減磁時およびクエンチ時を除き,消磁後ユーザーによる励磁の後でも,サービス員の確認がなくても*6検査が可能である。

■AI応用機能*7について

AI技術を開発に活用したスライスライン設定サポート機能により,取得する断層画像の位置,角度を自動で設定することが可能であり*8,従来の頭部,脊椎,四肢関節,乳房,股関節に加え,新たに心臓,腹部,骨盤にも対応し,全身を広範囲でカバーしている。
画質面では,AI技術を開発に活用したノイズ除去技術である「DLR Rise」,MRIの撮像原理上発生するトランケーションアーチファクト*9の低減,画像鮮鋭度を向上させる「DLR Clear」のほかに,未計測部分を推定データで補う手法であるハーフスキャンの推定処理よりも,AI技術を開発に活用することにより,推定誤差が少なくなり,アーチファクトを低減することが可能となる「DLR Symmetry」が搭載された。

*1 「ECHELON Synergy ZeroHelium」は,「ECHELON Synergy」にZeroHelium磁石を搭載した液体ヘリウムを一切使わないMRIシステムの呼称。
MRイメージング装置 ECHELON Synergy (医療機器認証番号:305ABBZX00004000)
*2 液体ヘリウムを一切用いずに超電導状態を維持する。
*3 省エネモードを使用しない場合
*4 消費電力を低減するモードを使用した場合と使用しない場合の比較。測定方法は当社規定による。
*5 ZeroHelium磁石と組み合わされ,緊急減磁機能(静磁場を緊急に消失させる機能),磁石の状態を監視および制御する機能,磁石を励磁・消磁する機能,停電時に動作し続けるためのUPS機能,消磁時のエネルギーを消失する機能を有するユニット
*6 緊急時を除く。一部サービス員が必要な場合がある。
*7 AI技術の一つであるmachine learningを設計に用いている。導入後に自動的にシステムの性能や精度が変化することはない。
*8 本機能は最終的に操作者が表示画面上で結果を確認し,必要に応じて手動でスライス断面の修正を行うこと
*9 有限のデータで画像再構成を行う際に生じる,本来存在しない像。信号の段差が原因で発生する。

 

【問い合わせ先】
富士フイルムメディカル(株)
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