Case 20 公益社団法人福岡医療団 千鳥橋病院 
基幹の電子カルテとFileMakerが密接に連携して病院の診療体制に合わせた自由度の高いシステムを構築
電算室室長 大崎一生氏 外科部長 佐々木隆志氏

2015-2-16


電算室のスタッフは6名。電子カルテの管理からFileMakerの構築まで対応

電算室のスタッフは6名。
電子カルテの管理からFileMakerの構築まで対応

福岡市博多区の公益社団法人福岡医療団千鳥橋病院では,外来機能を担う千代診療所,療養型のたたらリハビリテーション病院の3施設で,IDを統一しデータを共有した電子カルテシステムを構築して,外来から急性期,慢性期までスムーズな情報連携を行っている。同院に導入された両備システムズの総合医療情報システム「OCS-Cube」は,FileMakerと連携した運用を特長としており,同院でも電算室を中心に帳票類の文書作成・管理や診療支援システムなどをFileMakerで開発している。電子カルテシステムの一部として,密接な連携のもと構築されているFileMakerシステムの開発と運用について,電算室室長の大崎一生氏,外科部長の佐々木隆志氏に取材した。

大崎一生氏

大崎一生氏

佐々木隆志氏

佐々木隆志氏

 

 

2病院10診療所をネットワークした電子カルテを構築

千鳥橋病院は,2003年から病院としての長期計画と医療構想に基づいて,外来機能と療養型病棟の分離という病院機能の改革が行われた。外来機能については,病院に隣接して千代診療所を開設,療養病床については福岡市東区に,たたらリハビリテーション病院(回復期リハビリテーション病棟,緩和ケア病棟など213床)を開設した。千鳥橋病院は,554床から336床(一般237,地域包括ケア51,障害者慢性期48)となり,救急医療やERなど急性期医療を中心に展開する。また,福岡医療団では,3施設のほかに福岡県内で9つの医科診療所,4つの歯科診療所,8つの訪問看護ステーションなどを運営している。
同院では,この病院機能の再編と同時にオーダリング・電子カルテシステムの導入を進め,両備システムズの病院情報システムが導入された。2010年に「OCS-Cube」に更新され,現在は2病院と10の医科診療所すべてが両備システムズの電子カルテシステムで稼働されている。千鳥橋病院と千代診療所,たたらリハビリテーション病院間はVLANで接続され,同一IDで運用されているほか,診療所については,サーバを千鳥橋病院に置きインターネットVPNで接続したクラウドタイプで運用されている。福岡医療団の医療情報システムについて大崎氏は,「3施設はもともと1つの病院でしたので,同じIDで電子カルテの情報を共有して診療を行っています。診療所についてはIDは統一できませんでしたが,相互に紹介した患者さんの電子カルテを参照できる環境を整えています」と説明する。端末台数は,千鳥橋病院349台,千代診療所108台,たたら114台など全体で588台が稼働する。

千代診療所の外来診察室の電子カルテ端末。画像を含めて3面構成で運用

千代診療所の外来診察室の電子カルテ端末。
画像を含めて3面構成で運用

 

FileMakerによるシステム構築を前提とした電子カルテ

千鳥橋病院のOCS-Cubeは,両備システムズの電子カルテ“RSカルテ”を中心に看護支援や透析,リハビリなどのサブシステムと,PACS,内視鏡,検体検査,薬局,健診などの部門システムがマルチベンダーで構成されている。RSカルテの特長である“共有カルテ機能”は,同院での紙カルテでのレイアウトをベースに製品に反映されたものだ。共有カルテでは,1画面に医師,看護師,その他の医療スタッフの記録が表示され,スタッフ間の情報共有を可能にする。共有カルテについて佐々木氏は,「当院では紙カルテ時代から,診療の経過をスタッフ全員が共有し安全で質の高い医療を提供するために,見開きで一覧できるカルテを使ってきました。それを電子カルテでも実現したものです」と言う。
OCS-Cubeでは,帳票,レポート,サマリなどの書類関係の作成,管理についてはFileMakerを採用しており,データ連携やPDF書き出しなどによる一体化した運用によって,自由度の高いシステム構築が可能になっている。大崎氏は両備システムズの電子カルテ導入について,「書類の作成や電子カルテではカバーしきれない部分について,FileMakerを活用することで,外来や病棟の運用にあわせたフォーマットの作成や院内のデータ管理システムの構築など,安価で柔軟なシステム構築が可能になりました」と述べる。

各種書類作成から院内データ管理までFileMakerを活用

同院では,FileMaker Server4台で,320ファイル,1000を超える書類が運用されている。書類は,内視鏡などの検査依頼伝票,退院時サマリ,診療情報提供書や紹介状,同意書・副作用報告書,問診票,各種診断書など多岐にわたる。FileMakerで作成された書類は,PDF化されて電子カルテに登録される。署名など手書きが必要な書類は,FileMakerで患者IDのQRコードを付与した書類を作成し,記入後スキャンして患者IDに紐付けて保管される。FileMakerでの運用について大崎氏は,「検査のオーダは電子カルテで発生しますが,依頼内容や禁忌情報などは,FileMaker上で確認され依頼文書はPDFとして保管し,紙の書類は発生しません。FileMakerでは,電子カルテにはない細かい禁忌チェック,例えば内視鏡検査時の抗凝固剤のチェックを追加することが簡単にできます。電子カルテ側では対応できない部分についても,柔軟に対応することが可能です」と説明する。
FileMakerのシステムは当初は書類関係の作成が中心だったが,現在では電子カルテだけではフォローできないデータ管理のソリューションとして,NST(栄養サポートチーム),手術室運用管理,インシデントレポート,職員の勤怠管理などが構築されている。同院では,FileMakerの利用は電子カルテ導入と同時に本格的にスタートした。FileMakerの開発に携わる電算室のスタッフは5名。FileMakerでのシステム開発のメリットについて大崎氏は,「それまでFileMakerに触ったこともないスタッフでも,システムを作りながら学び,短期間で習熟して院内からの要望に応えられるようになりました。そういった使いやすさと,現場からの要望や改善点に柔軟に対応して修正しながら作り上げていけるところが一番のメリットではないでしょうか」とこれまでを振り返りながら評価する。

内視鏡検査依頼伝票・報告書画面

内視鏡検査依頼伝票・報告書画面

 

NST・栄養スクリーニングシート(栄養評価表)画面

NST・栄養スクリーニングシート(栄養評価表)画面

 

インシデントレポート登録画面

インシデントレポート登録画面

 

ODBC接続で電子カルテとFileMakerのデータ連携を強化

FileMakerを併用した電子カルテのメリットについて佐々木氏は,「FileMakerがあったことで,導入当初のシステムから診療現場のニーズを反映させて少しずつ改善して,使いやすいものに近づけていくことができたと思います。現場の要望は,最初から決まった形があるわけではなく,あとから気づいたり,あるいは医療のシステム自体が変わったりということがありますので,作りながら変更できるFileMakerのメリットが生かせると考えています」と述べる。
同院では,電子カルテとFileMakerの双方向のデータ連携を進めている。現在は,電子カルテの患者プロファイル(住所や性別,生年月日などの基本情報や既往歴,アレルギー情報など患者の個別情報)をODBC接続でFileMakerに自動的に取り込むほか,FileMakerで入力された,患者プロファイルに必要な項目のデータをテキスト形式で書き出し,電子カルテ側に登録できるようにした。患者プロファイル登録は,二重入力や登録画面の立ち上げの手間が負担となっていたが,相互入力が可能になることで日常業務の中で登録が可能となった。FileMakerの“看護基礎データ”のファイルで2014年8月から運用を開始したところ,約5か月で4万5000件を超えるデータが蓄積された。大崎氏は,「特に看護系の帳票作成では,FileMaker側のシステムだけで作業が完結するため,看護スタッフにとっては電子カルテへの患者プロファイル入力は二度手間になり,どうしても登録が進みませんでした。FileMaker側からの取り込みを可能にしたことで,電子カルテの情報の質が向上しました」と述べる。
佐々木氏は電子カルテの課題として,「OCS-CubeとFileMakerにシステムが分かれているため,業務の連続性がなく,書類の記載もれや手順の理解不足が発生すること」を挙げる。同院では,FileMakerで“チャートレビュー”を作成している。いわゆるTodoリストの役割を担うもので,中断した書類ややらなければならないタスクをリスト化して,未実行の業務がないように管理する工夫をしている。
同院では,訪問看護ステーションや在宅医療において,訪問看護の記録をiPadとFileMaker Goで入力するシステムについても検討を行っており,基幹の電子カルテシステムと連携したFileMakerの役割は今後ますます大きくなりそうだ。

 

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公益社団法人福岡医療団 千鳥橋病院

公益社団法人福岡医療団 千鳥橋病院
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URL http://www.chidoribashi-hp.or.jp/index.html


(インナービジョン2015年2月号 別冊付録 ITvision No.31より転載)
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