GE Healthcare Japan Edison Seminar 2020

2020年12月号

GE Healthcare Japan Edison Seminar 2020

【基調講演 AI 2】IT・AIの医療現場への応用 〜AIホスピタルプロジェクト〜

陣崎 雅弘(慶應義塾大学医学部 放射線科学教室 教授)

陣崎 雅弘(慶應義塾大学医学部 放射線科学教室 教授)

本講演では,人工知能(AI)の課題と,慶應義塾大学病院が取り組むAIホスピタルプロジェクトについて概説する。

AIの開発および実装の課題

医療界は,ほかの産業界と比較しAIの導入が遅れている。AIの開発には,データ収集,モデル生成,承認のプロセスがあるが,それぞれのプロセスで課題が存在し,導入が進みにくい要因となっている。また,臨床現場へのAIの実装においても,保険収載されていない,実際のワークフローに組み込むのが困難であるといった課題がある。これらを踏まえると,単純作業を置換するAI の普及も医療の効率化のためには必要である。

AIホスピタルの構築

内閣府は,「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」において,AIホスピタルシステムの構築のためのプロジェクトを進めている。本プロジェクトで,当院はITとAIを実装・統合し,現時点で実現可能なAIホスピタルの構築をめざしている。本プロジェクトでは,外来,検査,薬剤,病棟,手術,在宅・遠隔・地域連携の各部門に責任者を配置した。また,各診療科にもAI担当医を置き,診療科ごとのニーズを取り入れるようにした。さらに,病院長や医学部長も出席し,迅速な意思決定が可能な幹部会議を毎月開催している。このほか,各部門の実務者が参加する個別課題WGを設けた。このような組織体制の下,2020年9月現在,26件の研究が進行している。これらの研究は,(1) データのデジタル化・構造化,(2) 患者データの個人保有,(3) ロボット・センシング技術を活用した単純作業の置換,の3つに大別できる。

1.データのデジタル化・構造化
データのデジタル化・構造化の例としては,医療情報の統合化とデータベースの構築に取り組んでいる(図1:GE製VNAを採用)。本研究では,自科検査画像,文書管理,病理といった部門システムのデータをPACSに統合し,これらのデータと電子カルテを一元的に表示する統合ビューワを導入した。さらに, データウエアハウス(DWH)を構築して,診療に必要なデータを迅速かつ容易に検索できるようにした。また,ウエアラブルデバイスを用いた肺性高血圧患者の在宅バイタルモニタリングシステムを運用している。さらに,患者自身が記録する在宅時モニタリングシステムとして,アトピー性皮膚炎の肌日記,関節リウマチの症状の在宅での記録を提供している。このほか,AI 技術を用いて音声を自動的にテキスト化する医療記録入力システムや,AI問診システムの開発も行っている。

図1 医療情報の統合化とデータベースの構築

図1 医療情報の統合化とデータベースの構築

 

2.患者データの個人保有
患者データの個人保有としては,患者自身がスマートフォンで胎児エコー画像や検体検査結果などを管理するアプリケーション“MeDaCa”を開発した。産科外来で運用しているほか,ビデオ通話機能による遠隔妊婦健診も実施している。

3.単純作業の置換
単純作業の置換としては,ホテル業界などで使用されているAI自動搬送ロボットを用いた薬剤・検体自動搬送システムを導入した(図2)。また,自動走行車いすを用いた患者の院内移動補助システムを2020年9月から本格的に運用している。このほか,院内の混雑状況を分析するためのAIカメラや,高性能ベッドセンサによる入院患者のリアルタイムモニタリングシステムも稼働している。

図2 AI自動搬送ロボットを用いた薬剤・検体自動搬送システム

図2 AI自動搬送ロボットを用いた薬剤・検体自動搬送システム

 

放射線画像診断支援システムの現状と課題

一方で,放射線科領域の日常診療をAIに完全に依存するのは,現状では難しいと考える。その理由は,日常診療ではどこに病変があるかわからない状況で読影をすることになるが,AI は想定外の病変検出は困難なためである。われわれは,AIを読影のサポートにいかにうまく活用していくかを検討している。また,GEと提携して読影の補助に役立つAIの開発をめざしており,データサイエンティスト育成にも取り組んでいる。

まとめ

当院のAIホスピタルプロジェクトでは,(1) データのデジタル化・構造化,(2) 患者データの個人保有,(3) ロボット・センシング技術を活用した単純作業の置換,を進めている。それにより,患者に安心・安全な医療,高度な先進的医療を提供し,かつ医療従事者の負担軽減を実現したいと考えている。データのデジタル化・構造化は,その基盤となる事業である。

 

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