GE Healthcare Japan Edison Seminar 2020

2021年1月号

GE Healthcare Japan Edison Seminar 2020

【MI関連セッション】Theranosticsを志向した分子イメージング ―京都大学新RI施設における展望―

石守 崇好(京都大学大学院医学研究科 放射線医学講座 画像診断学・核医学 講師)

石守 崇好(京都大学大学院医学研究科 放射線医学講座 画像診断学・核医学 講師)

本講演では,Theranosticsを志向した分子イメージングをテーマに,核医学治療(RI内用療法)や分子イメージングの進歩について述べる。また,2020年4月に新病棟に移転した当大学RI施設における研究の一端を紹介する。

RI内用療法の概要

Theranosticsとは,治療(Thera-peutics)と診断(Diagnostics)を組み合わせた造語で,核医学診断に用いる検査薬と同種の治療用放射性薬剤を用いて内用療法(RI内用療法)を行う。治療効果の事前予測から治療効果判定まで画像診断が密接にかかわっており,治療に役立つ分子イメージング・核医学である。RI内用療法に用いる主な放射性薬剤はβ線放出核種であり,日本では131I,90Yが保険適用されている。また,最近注目されているα線放出核種のうち,223Raが初めて保険適用され,日常臨床で使用されるようになった。そのため,223Raによる前立腺がん骨転移の治療件数が急増しているほか,RI内用療法全体の件数も右肩上がりに伸びている。さらに,新たな治療として,PRRT(peptide receptor radionuclide therapy)やPRLT(PSMA-targeted radioligand therapy)が登場している。

腫瘍の分子イメージングと内用療法

1.PRRTの概要と有用性
分子プローブによる標的対象の候補はいくつかあるが,なかでも特異性の高い受容体イメージングの一つがPRRTである。これは,ソマトスタチン受容体を発現する腫瘍に対する内用療法で,主に神経内分泌腫瘍(NET)が対象となる。日本ではSPECT製剤の111In-octreotideが広く用いられているが,欧米では,より病変描出能に優れた68Ga標識PET製剤が開発されており,当大学でも以前から68Ga-DOTATOCを使用している。NETにおけるTheranosticsとしては,68Ga-DOTATOC-PET/CTをPRRTの有効性予測や治療適応の決定(コンパニオン診断)に用い,90Yか177Luで標識したoctreotideによる内用療法(PRRT)を行うという流れとなる。PRRTはきわめて有効であるが,まだ日本に導入されていないため,海外で治療せざるを得ない状況である。わが国における一刻も早い臨床導入が待たれる。

2.PRLTの概要と有用性
前立腺がんで過剰発現する前立腺特異抗原(PSMA)は,前立腺がん診断・治療の良い標的となることが知られており,主な分子プローブとしては低分子量PSMA阻害剤がある。PET製剤である68Ga-PSMA-HBED-CCを用いることで腫瘍と正常組織の良好なコントラストが得られるため,前立腺がんの骨転移や,CTでは指摘し得ない微小なリンパ節転移もきわめて明瞭に描出される。このPSMAを用いた治療がPRLTであり,特に225Ac-PSMA-617では劇的な治療効果が得られることが報告されている1)

当大学RI施設の稼働装置とPET/CTによる研究の現状

当大学RI施設では現在,サイクロトロン2台,PET/CT 3台(Discovery IQ),PET/MR 1台(SIGNA PET/MR),乳房専用PET 1台,SPECT/CT 4台(NM/CT 870 DR,NM/CT 860)が稼働している〔( )内装置はいずれもGE社製)〕。主力装置であるPET/CTのDiscovery IQは,広い体軸方向視野と,従来型装置の2倍以上の高感度,次世代PET逐次近似画像再構成法“Q.Clear”やデバイスレス呼吸同期“Advanced MotionFree”を搭載,などの特長を有する。Q.Clearでは,iteration回数を増やしても画質が劣化することなく定量精度を向上できる(図1)。また,Advanced MotionFreeは,通常収集したPETデータに後から呼吸同期相当の画像再構成を行えるため,病変描出能の向上に寄与する(図2)。
われわれは現在,PET/CTを用いて,当大学にて開発したPSMA標的プローブ18F-FSU-880の臨床試験を行っており,良好な結果が得られている2)

図1 Q.Clearによる定量精度の向上

図1 Q.Clearによる定量精度の向上

 

図2 Advanced MotionFreeによる病変描出能の向上

図2 Advanced MotionFreeによる病変描出能の向上

 

まとめ

核医学と分子イメージングは,Theranosticsによる個別化医療をめざして進化している。また,RI内用療法では,新たな分子を治療標的とする薬剤が開発されており,今後のさらなる進歩が期待される。

●参考文献
1)Kratochwil, C., et al. J. Nucl. Med., 57(12): 1941-1944, 2016.
2)Saga, T., et al., Cancer Science, 110(2): 742-750, 2019.

 

●そのほかのセミナーレポートはこちら(インナビ・アーカイブへ)

【関連コンテンツ】
TOP