技術解説(GEヘルスケア・ジャパン)

2019年9月号

Step up MRI 2019

最新次世代ハイブリット型傾斜磁場システム“Intelligent Gradient Control Plus(IGC Plus)”がもたらす傾斜磁場性能の向上

池田 陽介[GEヘルスケア・ジャパン(株)MR Marketing]

1980年代に臨床活用が始まったMRの歴史においては,撮像時間の短縮や拡散強調画像の歪み低減などをめざし,傾斜磁場性能の向上に関する技術革新が行われてきた。1990年代には,スリューレートと傾斜磁場強度を高めることで傾斜磁場性能の向上を実現し,TR,TEの短縮を可能とした。しかし,MRの傾斜磁場性能は,ある一定量のスリューレート,傾斜磁場強度を超えると,傾斜磁場コイルおよび傾斜磁場電源の発熱が最短TR,TEの決定に大きな影響を与えるようになる。そのため,さらなる性能向上のためには,熱のコントロールがより重要となる。
本稿では,「発生する熱を高効率に冷却する」技術と「発熱自体を最小限に抑える」技術を融合することで傾斜磁場性能を高める,GE社独自の最新次世代ハイブリット型傾斜磁場システム“Intelligent Gradient Control Plus(以下,IGC Plus)”を紹介する。

●電圧型デザインの最新ハイブリット型傾斜磁場システム

本稿で紹介するIGC Plusは,GE製3.0T MRシステム「SIGNA Pioneer 3.0T」(図1)に搭載されている最新の次世代ハイブリット型傾斜磁場システムであり,IGCアルゴリズム,IGCハードウェアと“Ultra High Efficiency Gradient System(以下,UHE)”の3つの要素から構成される(図2)。

図1 SIGNA Pioneer 3.0T

図1 SIGNA Pioneer 3.0T

 

図2 IGC Plusテクノロジーを構成する3つの要素

図2 IGC Plusテクノロジーを構成する3つの要素

 

まずは,UHEの特長から紹介する。UHEは,傾斜磁場コイルおよび傾斜磁場電源に「発生する熱を高効率に冷却する」とともに「発熱自体を最小限に抑える」ことを可能とするテクノロジーである。
ここで,MRの傾斜磁場の磁束(Φ)は下記式で表される。

  Φ=LI   ………………(1)
   L:セルフインダクタンス
   I:電流

従来の傾斜磁場コイルは電流型であったため,高い傾斜磁場を発生させるためには,式(1)で表されるとおり,電流量を増やす必要があり,その結果,傾斜磁場コイルの発熱量も増加する。
一方で,UHE傾斜磁場コイルは,コイルの巻き線数を増やし,インダクタンスを高めたGE独自の傾斜磁場コイルである。コイルのインダクタンスが高くなる電圧型のデザインとなっており,コイルに流れる電流を抑えつつ効率的に傾斜磁場を発生できる。
インダクタンスが大きい傾斜磁場コイルに十分なスリューレートを発生させるためには,傾斜磁場電源から高い電圧を出力する必要がある。必要な電圧(V)は次式(2)で表される。

  VLdI/dtRI ………………(2)
   L:グラディエントコイルのインダクタンス
   R:レジスタンス
   I:電流

UHE傾斜磁場電源は,高電圧で動作しているために発生するスイッチングロスを最小限に抑える技術を用いるとともに,水冷技術を取り入れることで「冷却効率」が最大化される。
このように,傾斜磁場コイルを電圧型のデザインへ変更することにより,従来の電流型傾斜磁場コイルに比べて56%の電力で同等のパフォーマンスを発揮することが可能(図3)となるため,冷却効率を高められるだけでなく,使用する電源容量を抑えることができ,省エネにもつながる(従来比:消費電力を約64%オフ*1)。

図3 電圧型コイルと従来コイル(電流型コイル)の比較

図3 電圧型コイルと従来コイル(電流型コイル)の比較

 

●IGCアルゴリズムによる精度の高い発熱予測

次に,IGCアルゴリズムとIGCハードウェアの特長を紹介する。
IGC Plusは,前述のUHEをフルに活用するためのテクノロジーである。IGCアルゴリズムは,フィードフォワード制御を実装することで,より精度の高い周波数応答と渦電流補正を可能としている。さらに,傾斜磁場コイルおよび傾斜磁場電源の発熱と,供給される電力の予測に基づいてグラディエントパフォーマンスを最適化する。IGCアルゴリズムによる勾配熱モデルは,従来の勾配熱モデルよりも発熱の予測精度を高めるために,「疑似ACモデル」と呼ばれる新しい計算方法を採用している。この手法により,異なる勾配波形による抵抗値の周波数変化にも対応できるため,1回のスキャンの中でより正確に最大電力と平均電力の両方を考慮し,傾斜磁場性能を最大限に引き出すことができる。そして,このIGCアルゴリズムによって予測されたグラディエント波形を正確に出力するハードウエアがIGCハードウェアである。
IGCアルゴリズムとUHEのコンビネーションにより,撮像に用いているパルスシーケンスに合わせて,傾斜磁場電源に「発生する熱を高効率に冷却する」とともに「発熱自体を最小限に抑える」ことができ,最短TR,TEが短縮される(図4)。

図4 IGCアルゴリズムとUHEによるTR,TEの短縮

図4 IGCアルゴリズムとUHEによるTR,TEの短縮

 

また,これらの技術を組み合わせた最新次世代ハイブリット型傾斜磁場システムIGC Plusテクノロジーを用いることで,スリューレートの高さだけに頼ることなく最短TR,TEを短縮することを可能とし,従来型グラディエントシステムにおけるスリューレート200mT/m/s相当*2,最大傾斜磁場強度45mT/m相当*2の傾斜磁場性能を発揮する。
図5,6に,IGC Plusテクノロジーによる高い傾斜磁場性能の臨床的有用性の一例を示す。特に,腹部3D dynamic撮像やdiffusion tensor imaging(DTI)など,グラディエントに負荷のかかる撮像において,その有用性が発揮される。

図5 IGC Plusテクノロジーによる臨床的有用性(3D dynamic)

図5 IGC Plusテクノロジーによる臨床的有用性(3D dynamic)

 

図6 IGC Plusテクノロジーによる臨床的有用性(DTI)

図6 IGC Plusテクノロジーによる臨床的有用性(DTI)

 

本稿では,傾斜磁場コイルおよび傾斜磁場電源の「発生する熱を高効率に冷却する」技術と「発熱自体を最小限に抑える」技術を融合した最新のハイブリット型傾斜磁場システムIGC Plusの技術要素と臨床的有用性を紹介した。スリューレートだけに頼ることなく最短TR,TEを短縮し,優れた傾斜磁場性能を発揮することで,システムの電源容量を抑えた省エネにもつながる次世代のテクノロジーである。この技術と,2018年9月号(INNERVISION, 33・9, 82〜83, 2018) で紹介した“AIR Technology”が融合することで,画像クオリティの向上や患者負担の軽減,検査ワークフローの向上など,画像診断のさらなる質の向上につながることを期待したい。

*1 自社比較
*2 最短TR,TEに基づく傾斜磁場性能。自社比。

シグナ Pioneer
医療機器認証番号:227ACBZX00011000

 

●問い合わせ先
GEヘルスケア・ジャパン株式会社
〒191-8503
東京都日野市旭が丘4-7-127
TEL:0120-202-021(コールセンター)
www.gehealthcare.co.jp

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