技術解説(GEヘルスケア・ジャパン)

2021年5月号

循環器領域におけるMRIの技術の到達点

“AIR Technology”がもたらす心臓MRI検査への新たなアプローチ

井下 裕行[GEヘルスケア・ジャパン(株)MRマーケティング]

MRI装置を用いた全身の各部位における検査の中でも,心臓MRI検査は特にハードルが高い検査の一つとして位置づけられている。撮像者側からすると,撮像対象の心臓が肺野に囲まれた体幹中心に位置していること,そして常に動き続ける臓器であることから,いかに磁場不均一の影響を抑えつつ高い信号を取得し,動きの影響を抑えて画像化できるか,ということが検査成功のカギを握る重要な要素である。一方で,患者側からすると,重量のある受信RFコイルを胸の上に置かれ,比較的長時間の検査に臨み,途中何度も息止めを強いられるということが,身体的な負担を生じさせ,検査成功の不確実性につながっていることは言うまでもない。近年においては,新たな受信RFコイルや画像再構成アルゴリズムが開発され,この困難な心臓MRI検査に対する新たな取り組みが注目されている。本稿では,“AIR Technology”を用いたGEヘルスケアの心臓MRI検査に対するアプローチについて紹介する。

■‌AIR Anterior Array coil

次世代の受信RFコイル技術を搭載した“AIR Anterior Array coil(以下,AIR AA coil)”は,従来の受信RFコイルと比較して,1素子あたり76%の軽量化(自社比較)を実現している。そのため,比較的長い検査時間が必要とされる心臓MRI検査では,コイル重量による患者負担を軽減でき,検査の快適性向上に寄与する(図1)。また,AIR AA coilは,深部方向における優れた感度と高いSNRを有するため,特に体幹中心に位置する心臓の画像化においてはその恩恵が大きい。近年では,新型コロナウイルス感染症(以下,COVID-19)における心臓MRI検査の有用性が報告されており1),Society for Cardiovascular Magnetic Resonance(SCMR)のガイドラインでは,患者と医療従事者の双方における安全性を考慮した心臓MRI検査のワークフローについて言及されており2),その中で,検査間での清掃や使用機器の消毒についても記載がある。AIR AA coilはさまざまなパーツで構成される受信RFコイルでありながら,内部に搭載されるハードウエアはすべて最新の電子デバイスへ刷新されている。そのため,従来コイルよりはるかに軽く柔軟性に富んだデザインを実現しており,清掃・消毒作業を容易に行うことができるため,より安全に配慮したMRI検査を迅速に行うことが可能となる(図2)。

図1 AIR AA coil

図1 AIR AA coil

 

図2 AIR AA coilの消毒

図2 AIR AA coilの消毒

 

■‌AIR Recon

最新の“AIR IQ Edition”プラットフォームでは,画像の背景ノイズやアーチファクトを低減する“AIR Recon”が全身対応となり,心臓領域においてもその恩恵を得ることが可能となった。AIR Reconは,プレスキャンで取得するノイズキャリブレーションデータを用いて各コイルエレメントのノイズレベルを計測し,受信チャンネルごとに重み付けを行う新たな画像再構成アルゴリズムである。従来と比較して,背景ノイズの低減によりSNRが向上し,また,撮像領域外からのアーチファクト低減が可能となる。心臓の向きや形状は各患者で必ずしも同一ではなく,心臓MRI検査においては,その形状に最適化された各種の撮像断面設定が求められる。それにより,しばしば折り返しアーチファクトへの対策が必要となるが,AIR Reconによって上肢や大きな体格に起因する折り返しアーチファクトを低減できることから,ポジショニングや撮像条件の最適化が容易になり,心臓MRI検査を,撮像者にとってよりいっそう取り組みやすい検査へと変えることができる(図3)。

図3 AIR Reconと従来画像再構成法による画像比較(同一のraw dataを使用) AIR Reconにより,腹壁と上肢の折り返しアーチファクトが低減している(◀)。

図3 AIR Reconと従来画像再構成法による画像比較(同一のraw dataを使用)
AIR Reconにより,腹壁と上肢の折り返しアーチファクトが低減している()。

 

■AIR Recon DL

近年,ディープラーニングを用いた画像再構成アルゴリズムの臨床適用が始まっており,MR画像においても,その画質向上の恩恵から非常に大きな注目を集めている。“AIR Recon DL”は,従来のk-spaceフィルタを利用せずに,raw data全体に対してアルゴリズムを適用するフィルタレス型の次世代ディープラーニング画像再構成法である。従来のk-spaceフィルタは,高周波ノイズやトランケーションアーチファクトを低減する効果がある一方で,見かけの空間分解能低下や画像ボケを生じさせるなど,MR画像の再構成におけるトレードオフを含まざるを得ない手法であった。一方で,AIR Recon DLは,従来のk-spaceフィルタを用いずに,畳み込みニューラルネットワーク(Convolutional Neural Network:CNN)を用いることでこの問題を解決できた。さらには,ネットワークの学習において,高SNR,高空間分解能,トランケーションアーチファクトが少ない画像を学習データとして活用することで,画像ノイズやトランケーションアーチファクトの低減はもちろんのこと,画像尖鋭度の向上といった,これまでの概念を覆す革新的な恩恵をもたらす。
心臓MRI検査で重要なシーケンスとして,反転パルスを用いることで正常心筋の信号を抑制する遅延造影や,double IR法を用いることで血液信号を抑制するblack bloodT2強調像が挙げられる。それぞれ,心筋バイアビリティや線維化,心筋浮腫の評価に有用であるが,視覚的な評価を行うことが多いため,アーチファクトを抑えつつ,高いSNR,画像尖鋭度を担保することが重要である。これらに関して,AIR Recon DLによる効果は非常に有用であり(図4),AIR Recon DLを用いることで,遅延造影画像において大幅な画質向上に寄与するという報告もある3)。また,SNR向上の恩恵を撮像時間,検査時間の短縮へつなげることも可能であることから,患者負担を軽減でき,心臓MRI検査を患者にとってより楽に受けやすい検査へと変えることができる。

図4 AIR Recon DLと従来画像再構成法による画像比較(同一のraw dataを使用) AIR Recon DLにより,大幅な画像ノイズ低減が見られる。

図4 AIR Recon DLと従来画像再構成法による画像比較(同一のraw dataを使用)
AIR Recon DLにより,大幅な画像ノイズ低減が見られる。

 

本稿では,これまでの心臓MRI検査における課題に対して,どのようにAIR Technologyが貢献できるかについて報告した。心臓MRI検査の質を向上させながら,より簡便かつ患者負担の少ない検査になることをめざし,引き続き技術開発とその臨床展開に向けて努力する所存である。

販売名:ディスカバリー MR750w
認証番号:223ACBZX00061000
販売名:AIRコイル3.0T
認証番号:229ABBZX00123000

●参考文献
1)Puntmann, V.O., Carerj, M.L., Wieters, I., et al. : Outcomes of cardiovascular magnetic resonance imaging in patients recently recovered from coronavirus disease 2019(COVID-19). JAMA Cardiol., 15 : 1265-1273, 2020.
2)Han, Y., Chen, T., Bryant, J., et al. : Society for Cardiovascular Magnetic Resonance (SCMR)guidance for the practice of cardiovascular magnetic resonance during the COVID-19 pandemic. J. Cardiovasc. Magn. Reson., 22 : 26, 2020.
3)Nikki van der Velde, H. Carlijne Hassing, Brendan J. Bakker, et al. : Improvement of late gadolinium enhancement image quality using a deep learning-based reconstruction algorithm and its influence on myocardial scar quantification. Eur. Radiol., 2020(Epub ahead of print).

 

●問い合わせ先
GEヘルスケア・ジャパン株式会社
〒191-8503
東京都⽇野市旭が丘4-7-127
TEL:0120-202-021(コールセンター)
www.gehealthcare.co.jp

TOP