X線動態画像セミナー(コニカミノルタ)

第2回X線動態画像セミナー[2020年3月号]

臨床研究報告

X線動態解析を用いた術後肺機能予測の試み

花岡  淳(滋賀医科大学呼吸器外科)

花岡  淳(滋賀医科大学呼吸器外科)

肺がん患者の低肺機能症例が増加しており,肺がん根治手術施行に対する厳重な適応・危険因子の評価が重要になっている。本講演では,胸部X線動態解析による血流分布を用いた術後肺機能予測の妥当性の検証について報告する。

X線動態解析を用いた術後肺機能予測の妥当性検証

術後肺機能予測は,術前スパイロメトリーと切除区域数から計算で求められる。ただし,閾値付近の症例では精度を上げる必要がある。肺血流シンチグラフィの血流比を加味することで予測精度は向上するが,手間やコスト,被ばく,緊急性に欠けるといった課題がある。
そこでわれわれは,原発性肺がんの根治手術を施行した症例を対象に,胸部X線動態解析による血流比を加味した術後肺機能予測の妥当性を検証した。

1.対象と方法
対象は,当科で原発性肺がんに対して根治手術を施行した34例とした。
X線動態撮影では,心周期で変化する血管内血流量に応じて変化する画素値計算から左右の血流比を算出した。
スパイロメトリーは,術前と術後1,3,6か月目に測定し,1秒量(FEV1)を評価した。術後予測肺機能について,区域計算による予測値と,それにX線動態画像の血流比,肺血流シンチグラフィの血流比を加味した予測値を算出し,FEV1実測値とのPearsonの相関係数(R)を算出した。

2.検証結果(図1)
まず,X線動態画像と肺血流シンチグラフィの左右血流比の相関を検証したところ,R=0.90(p<0.01)と非常に高い相関が得られた(n=22)。
術後1か月のFEV1実測値との相関は,区域計算がR=0.91,X線動態画像がR=0.92,シンチグラフィがR=0.88と高い相関が認められた(すべてp<0.01)。同様に,術後3か月は0.94,0.93,0.94,術後6か月は0.94,0.94,0.91と,いずれも非常に高い相関が得られた(すべてp<0.01)。

図1 術後予測肺機能の検証結果(1か月後)

図1 術後予測肺機能の検証結果(1か月後)

 

3.考察
X線動態画像で得られた血流分布を利用した術後予測FEV1は,実測値と高い相関が見られた。ただし,3つの手法の予測精度に大きな差は見られず,これは対象症例の血流分布のバラツキが小さかったためと想定された。
X線動態画像はシンチグラフィと比べ,単純撮影と同時に機能情報を得られ,簡便で短時間かつ低被ばくの検査であるといった利点がある一方で,手技の確立や体動の影響への対応が求められる。今後の課題としては,症例数を増やし,術側や切除肺別の予測精度の検討,血流分布が不均一な症例の評価,ほかの肺機能指標での評価を行う必要があると考える。

血流評価の有用性が期待される症例

1.術後肺炎の評価(図2)
症例は,左上葉肺がんで切除術を行った慢性閉塞性肺疾患(COPD)で,術前CTで右肺にすりガラス状陰影が認められていた。術後1か月に倦怠感・息苦しさの訴えがあり,胸部単純X線写真を撮影したが所見は認められず,CTですりガラス状陰影の拡大を認め,肺炎の増悪と考えられた。同時に撮影したX線動態画像でも,CTの陰影部分に一致して血流低下が認められた。術後6か月で改善が見られ,1年後にはほぼ回復していた。胸部単純X線写真ではわからない所見も,X線動態画像の血流解析で術後肺炎を評価できた。

図2 術後肺炎の評価

図2 術後肺炎の評価

 

2.術側残存肺の過膨張の影響の確認
症例は,左上葉肺がんで切除術を行ったCOPD症例。術前から左側の血流が少し低下しており,術後は左下葉の血流がかなり低下した状態が継続していた。ワークステーションにてCTデータから肺葉ごとのボリュームを計測したところ,残存した術側下葉が術前は896mLだったのに対し,術後6か月では1255mLと約1.5倍に過膨張していた。過膨張したことによって,相対的に血流量が下がったと考えられた。

まとめ

今回の検討から,X線動態画像の血流分布は,肺血流シンチグラフィの血流分布を反映していた。また,区域計算による術後肺機能予測にX線動態画像の血流比を加味することで,より精度の高い予測ができる可能性が示唆された。
X線動態画像は,より簡便に撮影,血流評価をすることができ,今後期待できる有用な方法であると考える。

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