X線動態画像セミナー(コニカミノルタ)

第2回X線動態画像セミナー[2020年3月号]

臨床研究報告

X線動態解析による肺機能評価:カニクイザルを対象とした基礎的検討

宮武 秀光(滋賀医科大学救急集中治療講座)

宮武 秀光(滋賀医科大学救急集中治療講座)

われわれは,X線動態画像システムによる肺血流の評価と肺塞栓の検出について,カニクイザルを用いて検討したので報告する。

本検討の目的

近年,災害に伴う肺塞栓が循環器診療において一つのトピックとなっている。肺塞栓の診断は造影CTがゴールドスタンダードであるが,被ばくやアレルギー,腎機能低下といったリスクがあり,またCTなどの設備が整った施設でしか施行できない。一方,X線動態画像システムは,低侵襲で肺の動きや血流,心臓の動きを動画像で評価できる。そこで,われわれは,カニクイザルを用いて,X線動態画像システムによる臥位と立位での肺血流の評価および肺塞栓の検出が可能であるか検討した。

検証結果

1.カニクイザルによる実験
本検討では,5匹のカニクイザルを用いて,挿管して台に固定し,スワンガンツカテーテルの挿入により肺血流閉塞モデルを作成した。その上で,X線動態画像システムで正常モデルと肺塞栓モデルの両肺の画素値を比較した。
検討に当たっては,縦に90°回転し臥位と立位が撮影できる寝台を開発し,呼吸停止下に8秒の撮影を施行した。解析方法としては,撮影画像の肺野の上下左右にROIを設定し,心電図1周期中における各部位の画素値の平均と最大変化量を測定した。また,SPSSを用いて正常モデルと肺塞栓モデルの左右の肺の画素値の差を解析したほか,カラーマップも作成した。
正常モデルにおける画素値を見ると,グラフでは周期性を持った変化が描出でき,呼吸性変動を除去すると心電図と同周期で変化を抽出している。さらに,臥位と立位における画素値の変化を見ると,臥位では上肺野と下肺野の変化に大きな違いはないが,立位では上肺野の変化の幅が減少し,下肺野の幅が有意に増加した。統計的に解析すると,正常モデルでは,臥位と比べ立位で画素値変化率が低下し,上肺野は左右どちらも立位で有意に画素値が低下していた。このことから,立位では,下肺野に血流が行き,上肺野の血流が減少していることが明らかになった(図1)。

図1 臥位と立位における肺野の画素値の変化

図1 臥位と立位における肺野の画素値の変化

 

一方,肺塞栓モデルでは,閉塞した左肺の画素値の変化幅が減少し,閉塞していない右肺の画素値の変化幅が有意に増加している。また,カラーマップ上では,左下肺野の方が右下肺野よりも赤色に染まっておらず,黒く抜けていた。統計的解析を行うと,正常例では左右差がないが,肺塞栓モデルでは閉塞側の画素値変化量が低下し,非閉塞側の画素値変化量は増加した(図2)。

図2 正常モデルと肺塞栓モデルとの画素値変化率の比較

図2 正常モデルと肺塞栓モデルとの画素値変化率の比較

 

以上の結果から,(1) 肺野の画素値の変化は,心電図と同じ周期を示しており,(2) 立位は臥位と比較して上肺野の画素値変化量は減少,下肺野の画素値の変化量は増加し,(3) 肺塞栓部位の画素値の変化量は減少し,閉塞していない部位の変化量は増加した,と言える。
画素値の変化量は血流量と相関しているが,その原因として肺動脈の圧の上昇や肺動脈の径の増加のいずれかが,画素値の変化に影響を及ぼしていると考えられた。

2.血管ファントムによる実験
そこで,追加実験として,内腔を生理食塩水で満たした人工血管と耐圧チューブに肺動脈圧センサを接続し,手動で圧を加えて画素値を測定した。その結果,人工血管では,画素値と圧の相関が認められたが,耐圧チューブでは認められなかった。このことから,X線動態画像システムの画素値の変化は,圧ではなく血管拡張を反映していると考えられた。

まとめ

今回の検討から,肺の画素値の変化量は,肺動脈血流と相関していると考えられる。そして,X線動態画像システムは従来の造影CTや肺血流シンチグラフィと比較して,早期に,低侵襲かつ低コストで,病院外の各所で肺塞栓の診断ができる可能性があり,災害医療で効果を発揮できると考えられる。
今回の実験で使用したカニクイザルは一般的に動脈硬化を認めない。人間の場合は動脈硬化に限らず多様な要因が影響を及ぼすため,今後の臨床研究が期待される。
X線動態画像システムは,既存の検査法と比較し簡便で低侵襲の肺血流評価法であり,肺塞栓などの血流低下を起こす疾患の検出に有用である。今回の検討を踏まえ,われわれは現在,人間を対象とした心不全,肺塞栓におけるX線動態解析の前向き研究を厚生労働省に申請している。

TOP