Philips INNOVATION and VALUE(フィリップス・ジャパン)
2025年11月号
MR Neuro imaging forum 2025
中枢神経領域における臨床報告やAPT-CEST研究を紹介しフィリップスMRの最前線を共有
株式会社フィリップス・ジャパンは,2025年8月29日(金)に中枢神経領域を中心に同社MRの最新情報を提供する「Neuro imaging forum 2025」をホテルモントレ姫路(兵庫県姫路市)で開催した。座長を山田 惠氏(京都府立医科大学放射線医学教室)が務め,Royal Philips担当者からのMRの最新アップデートの紹介と,ユーザー2名による臨床・研究報告が行われた。
MR開発のコンセプトと最新情報を共有
オープニングでは,Royal PhilipsでGrowth RegionのMRビジネスリーダーを務めるMegha Kalani氏が挨拶に立った。Kalani氏は,世界的なトレンド・課題として技術進化による計算コストの低下とAIの社会実装,地球温暖化,医療従事者不足などを挙げ,これらを踏まえてフィリップスではAI技術を活用したMRソリューションの開発を加速していくと述べ,開発コンセプトや最新の状況について紹介した。
次いで,Royal PhilipsのHans Peeters氏(PD MR R&D Clinical Science)が国内でも2025年春にリリースされたSmartSpeed Preciseについてプレゼンテーションした。Peeters氏は,1999年に開発されたパラレルイメージング「SENSE」から続く高速化技術の歩みを紹介した上で,SmartSpeed Preciseの仕組みついて解説し,画質向上や撮像時間短縮への貢献について説明した。
座長:山田 惠 氏 |
Megha Kalani 氏 |
Hans Peeters氏 |
「MR 7700」の有用性とMulti Nucleiの取り組み
東 美菜子 氏
(宮崎大学)
ユーザー講演では最初に,宮崎大学医学部病態解析医学講座放射線医学分野の東 美菜子氏が「MR 7700が実現する超高精細・超高速の画像診断」と題して発表した。宮崎大学医学部附属病院に2025年1月に導入されたMR 7700は,多核種(Multi Nuclei)イメージングも可能な研究用システムであり,同院ではナトリウム(23Na)核種による検討を進めている。
●SmartSpeed AI
SmartSpeed AIは,サンプリング時にDeep Learning「Adaptive-CS-Net」を用いることで,データの損失を抑えてノイズを除去することができる。東氏は,脳神経領域におけるSmartSpeed AIは,Compressed SENSE(C-SENSE)と比べて微小血管や赤核の視認性が向上するほか,single shotの画質向上においても有用性が高いことから,同院では,single shotとSmartSpeed AIを併用した短時間撮像を急性期脳梗塞のT2強調画像やMRA,撮像シーケンスの多い眼窩領域で活用していると述べた。
また,東氏は,Synthetic MRIとSmartSpeed AIを融合した「SmartQuant Neuro 3D」にも触れ,1mm isotropicのデータを約3分で取得できることから,同院では脳腫瘍術前検査の造影前後に撮像し,腫瘍周囲T2延長域の定量評価などの検討を進めていることを紹介した。
●SmartSpeed Precise
SmartSpeed Preciseは,SmartSpeed AIによる高精度なデノイズにより超解像処理を効率良く実施することで高精細な画像の取得を図る(図1)。東氏は膠芽腫の症例を示し,C-SENSEと比べSmartSpeed Preciseの方が腫瘍内部の構造がよりシャープに,T2延長域の辺縁も明瞭に描出されることを説明。同様に,髄膜腫でも腫瘍内のフローボイドやfeederの視認性が向上すると述べた。また,下顎腺様囊胞がんの症例では,造影脂肪抑制T1強調画像で認められた神経の腫大と増強効果が,TSE-DWIにSmartSpeed Preciseを併用することで明瞭化することを紹介し,脳神経領域のDWIにおける有用性の高さを示した。
さらに,SmartSpeed Preciseは画質向上だけでなく時間短縮にも有用であるとし,パーキンソン症候群などで黒質を評価するNeuro melanin imagingを例に説明した。撮像時間短縮の可能性について検討したところ,SmartSpeed AIにより従来画像(7分30秒)と同等以上の画質を4分30秒で取得できたことから,日常診療での活用をめざして検討を進めていること紹介した。
図1 SmartSpeed Preciseによる画質向上
SmartSpeed Preciseでは,single shotによる7秒スキャンで十分なコントラストと鮮鋭度,リンギングアーチファクトが低減された画像が得られている。
●Multi Nuclei imaging
同院では,多核種イメージングによるナトリウム画像の検討を進めており,その取り組みの概要と将来性が紹介された。
ナトリウム画像の撮像には通常,radial UTEが用いられるが,同院ではSpiral scanと3D UTEを組み合わせたシーケンスであるFLORET(W.I.P.)の活用を検討している。FLORETは,らせん状にデータを収集するSpiral scanを採用することで,データを間引くことなく高速化とSNRの維持を両立し,より効率的に3D isotropicデータを取得できる可能性がある手法である。
東氏は,FLORETによる解剖構造の描出性や撮像効率の向上が期待され,臨床的な実用性の観点からも今後の応用に大きな可能性があると述べた。
APT-CEST研究と臨床応用へのブレイクスルー
栂尾 理 氏
(佐賀大学)
ユーザー講演2題目として,佐賀大学医学部放射線医学講座の栂尾 理氏が「APT-CEST imaging:最新の進歩と今後の展望」を発表した。CESTは2000年に報告され,2019年にフィリップスが初めて臨床用シーケンス「3D APT」を製品化している。
●CESTの概要と臨床応用
CESTはプロトン交換というコントラストメカニズムにより,バルク水の信号低下(CEST効果)を介して低濃度溶質を間接的かつ高感度に検出するものである。簡易的なCEST効果のマッピング(MTR asymmetry)の一つであるAPT強調画像では,生体内の可動性タンパク・ペプチドに含まれるアミドプロトンを検出でき,腫瘍の質的診断やpHマッピングに応用できる。栂尾氏は,APT-CESTの製品化には,Parallel transmission-based techniqueと3D Fast Spin-Echo DIXON法の2つの高度な技術が必要であり,フィリップスによる製品化は臨床研究に新たな可能性をもたらす革新であると評した。
そして栂尾氏は,APT強調画像の臨床応用として,グリオーマではグレードが上がるに従って信号が増強することや(図2),腫瘍の増大と治療関連効果(放射線壊死)を高い精度で鑑別することを示した最近のメタアナリシスを紹介した。ただしin vivoにおけるCESTイメージングは非常に複雑であるとして,それを克服するための方法を解説した。
図2 ATP強調画像によるグリオーマの悪性度評価
Astrocytoma,IDH-mutant,grade 2,3,4では,gradeが高くなるほど信号が高くなっている。
●MT/Spill overの影響の補正
充実成分では,Magnetization transfer(MT)とSpill overが強くなるとCEST効果が過小評価されることが課題となるが,これは異なるMTの組織に対して同一のMTR asymmetry解析を行っているためである。そこで栂尾氏らは,後処理で液体の信号を抑制する方法を考案した。さらに,MT/Spill over補正をより理論的に行うために,4つのコンパートメントに分けて補正する方法を考案し,ISMRM 2025で発表した。
●APTとNOEの分離
超急性期脳梗塞では,正常組織に比べて梗塞部でAPT強調画像の信号が低下すると一般的に考えられているが,栂尾氏らの検討では約4割の症例においてAPTの信号低下を同定できなかった。栂尾氏は,組織内のCEST効果を正確に測定するために,APTと核オーバーハウザー効果(NOE)を分離する必要があると述べ,その方法を解説。APTとNOEの分離により,脳腫瘍のCEST効果の正確な評価や脳虚血によるpH低下領域の評価が可能になると紹介した。
●CEST MR fingerprintingの研究
MR fingerprinting(MRF)は,パラメータをランダムに変化させ,各ピクセルの信号変化を辞書とマッチさせて定量化マップを得る手法であるが,CEST MRFはパラメータ数が多く辞書が複雑になるため,ニューラルネットワークを用いて辞書マッチングを代替する方法としてDRONEがある。ほぼリアルタイムに推定が可能で,計算コストの削減,速度向上,スケーラビリティ,高ロバスト性といったメリットがある。栂尾氏は,DRONEによるCEST MRFのpHマップで虚血コアとペナンブラ,正常組織を明確に分離する定量評価の可能性について検討した文献を紹介し,in vivoでのマルチパラメトリックな定量評価や,今後の臨床応用に期待を示した。
最後にフィリップス・ジャパンMRビジネスマーケティングマネージャーの奥秋知幸氏が挨拶し,「フィリップスはコンセプトに基づきハードウエア・ソフトウエアの両面で開発スピードを加速させている。臨床研究が活発な日本のマーケットはフィリップスの中でも重要視されており,日本から本社へ積極的にフィードバックするとともに,最新の情報,製品をいち早く日本に導入できるように努めていく」と述べ,イベント参加への謝意を示した。
