Philips INNOVATION and VALUE(フィリップス・ジャパン)

2025年12月号

先進の3.0T MRIとワークステーションが地域医療向上をめざす大学病院における心臓MRIの高度化と効率化を促進 ─ 解析の自動化によるワークフロー改善と迅速なアウトプットで心筋症診療を支援

宮崎大学医学部附属病院

宮崎大学医学部附属病院

 

宮崎大学医学部附属病院は,地域貢献,地域活性化を大学病院としての役割と位置づけ,診療・教育・研究を展開している。医学部の「血液・血管先端医療学講座」では,地域医療向上のため,研究を通じて県内の心アミロイドーシス診療の地域連携を確立してきた。その研究や診療において重要な役割を果たしているのが,MRIや画像解析ワークステーションである。
同院では2025年2月に,フィリップス社製の3.0T研究用システム「MR 7700」を導入し,それに合わせてワークステーションを「Advanced Visualization Workspace 15」(以下,AVW 15)に更新した。心筋症の診療や研究における心臓MRIの位置づけやワークステーションの重要性,AVW 15の初期使用経験について,血液・血管先端医療学講座/循環器内科の鶴田敏博教授,放射線科副科長の中田 博講師,放射線部の圓﨑将大主任に取材した。

鶴田敏博 教授

鶴田敏博 教授

中田 博 講師

中田 博 講師

圓﨑将大 主任

圓﨑将大 主任

 

地域医療の向上をめざす寄附講座が取り組む心筋症研究

東九州地域(大分県・宮崎県)には血液や血管に関する医療機器を製造する企業が集積していることから,産学官が連携を深め,産業を生かした地域活性化とアジアに貢献する医療産業拠点づくりをめざし,2011年に「東九州メディカルバレー構想特区」が策定された。その翌年に宮崎県と延岡市の寄附講座として設置されたのが血液・血管先端医療学講座である。講座では,研究開発拠点づくりの推進や地域医療の向上をめざし,血液・血管に関する研究や医療機器の開発支援,医療者と企業のニーズ・シーズマッチングのほか,次世代医療機器の開発をとおした人材育成に取り組んでいる。
鶴田教授は,県内の基幹病院と協力し,心筋症の研究を行ってきた。中田講師らと行った共同研究では,心アミロイドーシス患者を対象に心エコーと心臓MRIによる評価を比較し,早期検出の可能性について報告している。鶴田教授は,「研究では,心エコーのストレイン解析と心臓MRIのnative T1,ECVを用いて,セグメントごとの比較を行いました。心筋を区域分けして評価することでアミロイドの沈着の偏在性がわかり,病変の早期検出につながる可能性があります。そのためには画質の優れたMRIと,高い再現性・信頼性のあるワークステーションによる心筋の性状評価が重要です」と述べる。

心臓MRIによる性状評価が心筋症の早期発見に貢献

同院では,2015年にハートセンターを設置し,循環器診療に力を入れてきた。循環器系の画像検査も年々増加し,特に心臓MRIの増加は顕著で,2024年度は約150件実施している。心筋症における心臓MRIの位置づけについて,鶴田教授は次のように説明する。
「欧州心臓病学会の心筋症ガイドラインでは初期評価における活用が示されるなど,その位置づけは高まっています。高齢者に多いトランスサイレチン型心アミロイドーシスは,新たに疾患修飾薬が導入されたことで患者紹介が増えているのですが,その早期の検出にはピロリン酸シンチグラフィよりも組織性状を評価できるMRIが有用です。2025年5月から疾患修飾薬の処方において心筋生検が必須ではなくなり,低侵襲な検査を提供するために画像診断の役割がますます重要になる中で,MRIの活用が問われています」
また,心エコーでは評価困難な疾患修飾薬の効果判定においても,MRIによる性状評価が必要となるだろうと鶴田教授は指摘する。

MR 7700とAVW 15の導入で増加する検査に対応

同院では長らく,フィリップスの画像診断ワークステーション「IntelliSpace Portal」を活用してきたが,MR 7700導入に合わせてワークステーションもAVW 15に更新した。MR 7700は,多核種イメージングも可能な3.0Tシステムで,「SmartSpeed AI」や「SmartSpeed Precise」による高精度なデノイズと超解像処理により高精細画像の取得を支援する。一方,AVW 15は,IntelliSpace Portalを基に,解析時間の短縮やワークフロー改善をめざして設計された。解析の自動化や迅速な解析結果の提供が特長で,心臓MRI向けには新たなユーザーインターフェイス「MR Cardiac Suite」を搭載している。
同院では診療放射線技師が心臓MRI解析を行い,その結果を参照して放射線科医が読影し,レポート・画像・解析結果が依頼医に送られる。読影を担う中田講師はMR 7700の画像について,「モーションアーチファクトや肺との境界部分の磁化率アーチファクトが軽減され,側壁側の描出能が大幅に向上しています。循環器内科医からも心臓全体が評価できるようになったとの声が上がっています」と述べる。また,圓﨑技師は,「ワークステーションにも体動補正機能があり,マッピングの精度向上に貢献しています。AVW 15更新後は,より呼吸の動きなどの体動に対応できるようになったと感じています」と話す。
画質や解析精度について鶴田教授は,「画像はノイズが抑えられ,native T1のSD値が小さくなり,バラツキが低減し,より納得感のある結果を得られています」と評価しており,実際,更新後は心臓MRI検査が増加傾向にある。中田講師は「特に心筋炎は早急に診断し治療を開始したい疾患です。以前は心臓MRIの結果を待たずに治療を開始することもありましたが,現在は詳細な解析結果を迅速に提供することで治療方針の決定に寄与するようになりました」と述べており,心臓MRIの位置づけが高まっていることがうかがえる。

〔Advanced Visualization Workspace 15による心臓MRI解析〕

図1 AVW 15による心機能解析画面 刷新されたインターフェイスとAuto pre-processing機能により,精度を維持しながら効率化を促進。

図1 AVW 15による心機能解析画面
刷新されたインターフェイスとAuto pre-processing機能により,精度を維持しながら効率化を促進。

 

図2 AVW 15による心筋Mapping解析画面 セグメンテーションされたT1,T2,T2*map解析に加えて,当日採血データが不要なSynthetic ECV機能を搭載。

図2 AVW 15による心筋Mapping解析画面
セグメンテーションされたT1,T2,T2*map解析に加えて,当日採血データが不要なSynthetic ECV機能を搭載。

 

トレースの自動化とデータの引き継ぎで技師の負担を軽減

放射線部では3台の3.0T MRIが稼働しており,日中は技師4名で撮像から解析までを行っている。心臓MRI解析は心機能解析とT1マップ,ECV解析をルーチンで行っていることから,AVW 15のワークフロー向上に期待していたと話す圓﨑主任は,「心筋の自動トレースと,そのトレース結果をさまざまな解析に引き継げることで技師の作業負荷が軽減されました」と述べる。AVW 15では,MRIからデータを受信すると即座にバックグラウンドで自動解析を実行する。機械学習を利用した畳み込みニューラルネットワークとモデルベースのセグメンテーションを組み合わせることで,高精度なトレースの実現を図っている点が特長だ。
圓﨑主任は,「検査が終わってアプリケーションを開くとトレースが完了しているため,すぐに解析を始められます。トレース精度が向上し,手直しの手間も軽減され,ベテランから新人まで偏りの少ない解析に有用です。また,トレースデータは各解析に引き継げるため作業時間が大幅に短縮しました」と話す。以前は解析に30分〜1時間ほど要していたが,現在はトレース結果の確認,解析,結果送信までが数分で終わるようになり,臨床科への迅速な結果の提供につながっている。
操作性については中田講師も評価しており,「フィリップスの『Spectral CT 7500』で撮影したデータはレトロスペクティブに解析が可能なため,読影中に偶発的に見つかった肺動脈血栓塞栓症の肺灌流解析などに活用しています。検査後に気づいた画像所見を後追いで解析でき,操作もわかりやすく診断の精度向上が期待できます」と述べる。
AVW 15では,新たにMR心筋ストレイン解析も導入した。心臓MRIのグローバルストレインの定量化が可能になったため,今後はセグメントごとのストレインを心エコーと比較することも予定しているという。

3.0Tシステム「MR 7700」検査室でのスタッフ集合写真

3.0Tシステム「MR 7700」検査室でのスタッフ集合写真

 

Synthetic ECVの活用も視野に画像診断で大学病院を支える

AVW 15には,ヘマトクリット値なしにECVを推定するSynthetic ECVも新たに実装された。圓﨑主任は,「Synthetic ECVでも通常のECVと近似値が得られる印象です。解析で使用する血液データは心臓MRI検査当日の採血ではないケースもあるため,Synthetic ECVを周知して活用してもらいたいと思います」と述べる。
宮崎県の心アミロイドーシスの現状について研究を続ける鶴田教授は,「宮崎県内の複数施設のデータを同一に扱えるようになれば統計解析の信頼性も向上します。native T1の基準値を統一し,多施設でデータを解析する方法をフィリップスに相談しながら検討したいと考えています」と話す。
血液・血管先端医療学講座では現在,心アミロイドーシス研究でのノウハウを活用し,ファブリー病の地域連携の確立をめざしている。MR 7700とAVW 15が,大学病院の最先端の研究と地域に根ざした診療をこれからも支えていく。

(2025年9月26日取材)

 

宮崎大学医学部附属病院
〒889-1692
宮崎県宮崎市清武町木原5200
http://www.med.miyazaki-u.ac.jp/home/hospital/

 

   

 

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