技術解説(フィリップス・ジャパン)

2014年4月号

Head & Neck Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点

頭頸部領域CTにおける画質向上と線量適正化機構の技術開発─逐次近似再構成法とCT自動露出機構

藤岡 泰祐(ヘルスケア事業部)

フィリップスでは,2013年より“Innovation and You”をブランドラインとし,より患者に着目し,臨床での実用性が高く,かつ経済的に有用である製品開発を進めてきた。フィリップスのCT部門では,これらに基づき,Image Qualityの向上とRadiation Doseの適正化について進達させてきた。本稿では,その中でも脳神経外科領域に特化した製品開発について紹介する。

■モデルベース逐次近似画像再構成技術:IMRの脳神経外科領域での有用性

“Iterative Model Reconstruction(IMR)”は,統計学的ノイズモデルに加え,最先端のシステムモデルを用い,Cost Functionと呼ばれる評価関数を考慮した逐次近似画像再構成法である(図1)。IMRは,体幹部対応のIMR Body,心電同期撮影に対応したIMR Cardiovascular,頭頸部領域に対応したIMR Neuroの各検査部位固有のモデルを搭載した全身領域対応の逐次近似画像再構成法として,2013年12月より製品の出荷が開始された。
IMRは,最大90%のノイズ低減,密度分解能2mm@0.3%@10.4mGyを達成し,従来に比べ2.7倍の低コントラスト描出能の向上に成功している。IMRの画像ノイズ特性は,従来のFBP法のようなスライス厚やX線量に依存しない非線形となる。これより,結果としてこれまでの画像ノイズとスキャンパラメータの関係が成立しないVirtually Noise-Free Imagingを実現することができる。
なお,IMRでは,逐次近似演算の際にユーザーが出力画像に求める分解能レベルとノイズレベルを考慮し,画質の最適化を行えるようCost Functionのツールとして,画質の方向性をつかさどるImage Definition(3択肢)と,画像ノイズレベル(3段階)を任意に設定することが可能である。これにより,目的に応じた分解能を得ることが可能となり,かつ画像ノイズを大幅に低減し,計算コストの効率化と画質選択の幅を持たせることを実現した1)
また,これまで最重要課題とされてきた再構成時間2)については,インテル社と共同開発した計算アーキテクチャや,GPU(Graphic Processing Unit)上における演算処理によって高速化を実現した再構成ユニット“HyperSight IMR”を製品化したことで,ほとんどの全身検査において3分弱での演算時間を達成し,広くルーチン使用を可能とした。

図1 IMR概念図

図1 IMR概念図

 

頭部単純CT撮影においては,非常に低いCT値差の検出が求められるため,画像ノイズを限りなく少なくする必要があることはよく知られている。そのため,従来のFBP法においてはスライス厚を厚くする,ほかの部位に比べ高い線量を必要とする,などの措置を講ずる必要があった。脳神経外科領域におけるIMRのクリニカルベネフィットは,Virtually Noise-Free Imagingによって,頭部単純CTにおいて目的に応じた任意のスライス厚を画像ノイズの影響を受けずに提供でき,かつ線量低減を図ることのできる可能性があることである(図2)。

図2 IMR臨床画像(頭部単純CT)

図2 IMR臨床画像(頭部単純CT)

 

■頭頸部に特化したCT自動露出機構の開発:Brain Area Dose Right Index

CT自動露出機構(CT-AEC)は,一般的に体軸方向に対して画像ノイズレベルを一定に保ち,かつ被検者ごとの画像ノイズ格差が発生しないようにする機構である。したがって,CT-AECを複数部位にまたがって使用する場合,おのおのの部位において求められる画像ノイズレベルが異なったとしても,ある特定の部位に合わせた画像ノイズレベルをCT-AECに設定せざるを得ない。この場合,どちらか一方の部位が線量過多となる,またはノイズ過多となる可能性がある。
これらを防ぐには,一般的に部位ごとに撮影を行い,画像ノイズレベルの適正化を図る必要があるが,救急撮影時の検査時間延長や,隣接する部位におけるヘリカルスキャンのOver RangingによるDose Length Product(DLP)の増加が懸念される。
頭頸部領域においても,交通外傷などの救急CT撮影などにて複数部位にまたがった撮影を施行する場合がある。フィリップスでは,CT-AECの線量レベル決定方式としてDose Right Index3)と呼ばれる方式を採用しているが,2013年に頭頸部領域における1回撮影において,CT-AECの画像ノイズレベルを各部位に合わせて設定できる可変型画像ノイズレベル設定技術“Brain Area Dose Right Index”を搭載した。これにより,1スキャンの頭頸部撮影において,頭部のDose Right Indexと頸部のDose Right Indexをそれぞれ指定することが可能である。また,Brain Area Dose Right Indexの指定範囲は,位置決め撮影画像より解剖学的位置を認識し,自動的に設定される(図3)。このBrain Area Dose Right Indexにより,1スキャンの頭頸部撮影における一方の部位が線量過多となる,またはノイズ過多となることを防止することができるため,部位ごとに撮影を行い,画像ノイズレベルの適正化を図ることが不要となり,救急撮影時の検査時間延長やOver RangingによるDLPの増加を懸念する必要がなくなる。
本可変型画像ノイズレベル設定技術は,頭頸部領域だけでなく,体幹部領域にも搭載されており,胸腹部撮影時の画像ノイズレベルの適正化をより簡便に図ることのできるものである。これを“Liver Area Dose Right Index”と呼ぶ。

図3 Brain Area Dose Right Index

図3 Brain Area Dose Right Index

 

本稿では,フィリップスのCTにおける脳神経外科領域の最新技術について紹介した。フィリップスのCT部門では,画質と線量の適正化という相反する2つの事象を両立し,患者へのさらなる貢献を目標とした技術開発に邁進している。今後もより患者に着目し,臨床への実用性が高く,かつ経済的に有用である製品開発を進めて参りたい。

 

●参考文献
1)Köhler, T., et al. : Noise properties of maximum likelihood reconstruction with edge- preserving regularization in transmission tomography. Proc. Fully 3D, 263〜266, 2009.
2)Sotthivirat, S., et al. : Image recovery using partitioned-separable paraboloidal surrogate coordinate ascent algorithms. IEEE Trans. Image Process., 11, 306〜317, 2002.
3)http://clinical.netforum.healthcare.philips.com/us_en/Explore/White-Papers/CT/Patient-centered-CT-imaging-New-methods-for-patient-specific-optimization-of-image-quality-and-radiation-dose

 

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