技術解説(フィリップス・ジャパン)

2020年5月号

腹部領域におけるWS技術の最新動向

マルチモダリティ医用画像診断用ワークステーション「IntelliSpace Portal」

早坂 和人[(株)フィリップス・ジャパン プレシジョンダイアグノシス事業部EDIビジネスマーケティングスペシャリスト]

フィリップスの画像処理ワークステーションの取り組みは,1990年代から行われてきた。当時はCT,MRI,核医学それぞれの専用画像処理ワークステーションとして操作コンソールの補助的役割を担っていた。その後,CPUを中心としたハードウエア機能の向上やOS,開発環境の進化により,搭載可能なソフトウエアやマルチタスク処理が可能となり,各モダリティに対応したマルチモダリティ,マルチベンダー画像処理ワークステーションとして,1台で画像診断の助力となるようなものへと発展を遂げた。今回は,フィリップスの医用画像診断用ワークステーション「IntelliSpace Portal(インテリスペースポータル)」について概説する。

●ネットワーク型とスタンドアローン型

IntelliSpace Portalには,マルチユーザー環境に対応したネットワーク型と,シングルユーザーに対応したスタンドアローン型の2種類がある。どちらも日本語を含む多言語に対応した操作メニューが準備されており,一部を除き搭載可能なアプリケーションに違いはなく,主として,CT,MRI,核医学の画像を観察,処理できる。本体に搭載している基本機能には,DICOM3.0規格をフル装備したクエリ,リトリーブをはじめとする通信機能,記憶メディアから画像を取り込むimport機能,作業状態をオフラインユーザーと共有できるブックマーク機能,処理・解析結果をDICOMビューワとともに互換性の高い画像メディアを作成できるDVDマルチドライブがある。
ネットワーク型では,最大15名の同時アクセスが可能で,すべてのクライアントから制限なしに搭載アプリケーションを使用することができる。また,ユーザーグループごとに,メディアやデータハンドリングの権限を設定することもでき,不要なフォルダの開示や意図しないメディアからの情報流出を防ぐことにも役立つ。クライアントとして使用されるPCは,Windows7以上に対応しており,台数の制限なく各種アプリケーションをサーバからダウンロードしてインストールすることができる。thinクライアント方式によりクライアント側にデータが残ることがないため,院内の場所を移動して別のPCからログインした場合でも,サーバ上の作業中ファイルを呼び出して処理を続行することが可能である。その場合は,同一ユーザーが重複してログインすることがないように,システムがユーザー管理している。
シングルユーザーに対応したスタンドアローン型は,主としてMRIあるいはCTなどのモダリティのための画像処理用として,操作コンソールの補助をする目的で導入されている。単体のワークステーションであるため,設置場所を選ばず,導入コストも抑えつつ,目的のアプリケーションを導入できる。

●標準搭載画像ビューワ

標準搭載の画像ビューワは,3種類用意されている。動作が軽く,画像確認をする目的に使用する“Quick Viewer”,CT画像を主目的とした統合型ビューワである“CT Viewer”,MRI画像や核医学,DICOM XAに対応した“Multi Modality Viewer”である。CT ViewerとMulti Modality Viewerに関しては,画像解析アプリケーションの画像定義ファイルを読み込むことにより,解析結果を簡便にダイナミック観察することが可能である。これらの画像ビューワでは,シリーズ比較,シリーズ間演算,MPR,MIP,ボリュームレンダリング,仮想内視鏡,組織セグメンテーションが行える。
IntelliSpace Portalワークステーションの開発は,とどまることなく継続されており,2020年,国内にリリースするバージョンは11となった。多彩な搭載可能アプリケーションの中から,いくつか特徴あるものを紹介する。

●MRI用アプリケーション “MR Liver Health”

MR Liver Healthでは,肝臓または肝区域のボリューム解析やROI解析を行い,MRデータセットのマルチパラメトリックマップを作成することで効率的に肝臓疾患を評価できる。肝臓のVOI測定値では,脂肪含有率のT2*値範囲の定義を計算に組み込むことや,MRパラメトリックマップの縦断的評価にも対応しており,複数箇所で肝臓定量化値の結果を比較できる(図1)。

図1 MR Liver Health

図1 MR Liver Health

 

●MRI用アプリケーション “MMTT qEASL”

マルチモダリティ腫瘍トラッキング(MMTT)は,経時変化の可視化を目的とした,腹部系疾患に有用なマルチモダリティアプリケーションである。MMTTアプリケーションは,マルチモダリティのCT,MRI,PET/CT,SPECT/CTスキャンにおいて,解剖学的画像および機能画像を表示,処理,分析,定量化,操作することを目的としている。MMTTアプリケーションでは,1つまたは複数のスタディの時間的経過(複数の時間ポイント)において,イメージング,セグメンテーションと測定,ならびに腫瘍やリンパ節といった腫瘍病変の定量的かつ特性を示す情報が得られる。また,“qEASL(quantitative European Association for the Study of the Liver)”は,スキャンを高度に対比し,非造影との比較に基づいて,肝がん(EASL)用に最適化された基準が得られる。当社は,さらに3D(容積)測定を含め,ccを単位とする腫瘍容積の定量的な結果を提供し,総腫瘍体積の割合として示すことができる(図2)。

図2 MMTT qEASL

図2 MMTT qEASL

 

●MRI用アプリケーション “MR LoBI”

MR LoBI(Longitudinal Brain Imaging)は,MRデータに基づいて経時的な脳画像の評価を支援することを目的としたアプリケーションである(図3)。MR LoBIでは,セグメンテーション編集,セグメンテーション後のボリューム定量化,タイムポイント間の定量比較機能と組み合わせることで画像を表示し,病変のセグメンテーションが可能である。MR LoBIにより,長期的な比較を目的とした異なるタイムポイントのスタディ間の自動レジストレーションが可能になる。また,同一個体の脳画像のわずかな経時的変化を可視化する支援ツールがあり,疾患の進行を評価する際に使用できる。

図3 MR LoBI

図3 MR LoBI

 

●CT用アプリケーション  “CT Acute Multi Functional レビュー”

CT Acute Multi Functionalレビューは,救急CTにおいて生命を脅かす状態の検出だけでなく,病院内の関係者への迅速な情報の提供を目的とした統合型アプリケーションである。基本的な画像表示と血管観察に特化したVesselモード,骨折に対応したBoneモード,椎体観察に特化したSpineモードがあり,目的に応じた画像観察が迅速に行えるようになっている。Vesselモードでは,画像上の血管を1クリックすると,周辺情報とともに短軸像が観察できる。また,2点間を指定することにより,血管をストレッチ観察することができる(図4)。血管解析ソフトウエアのように骨除去のプロセスを必要としないため,短時間で腹部大動脈瘤の測定や石灰化付着,周辺情報など目的の情報を得ることができる。Boneモードでは,開放骨折のような状態でも骨の破片をセグメンテーションしてパーツ化することができるため,三次元での複雑な角度調整を伴った接骨シミュレーションが可能となる。Spineモードでは,頸椎から腰椎に至るまで,全脊椎の自動MPR作成と椎間板に沿ったラベル付きアキシャル画像を得ることができる。なお,自動化されたMPR作成機能では,対話形式での細かな修正も可能である。

図4 CT Acute Multi FunctionalレビューVesselモード

図4 CT Acute Multi FunctionalレビューVesselモード

 

●アップグレード

フィリップスでは,IntelliSpace Portal以前のモダリティ専用ワークステーションから最新バージョンへのコンバージョンを可能とするアップグレードプログラムがあり,ライセンスの内容を可能なかぎり保持しながら最新のハードウエアとソフトウエアへと移行することが可能である。旧式のワークステーションを,サーバ型へと更新して機能強化された状態で活用することが可能となるため,ワークフローの改善や問題解決の手段としてもご検討いただきたいと思う。

 

●問い合わせ先
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