技術解説(フィリップス・ジャパン)
2026年3月号
腹部領域におけるMRIの最新技術
SmartSpeed Precise:ALL in ONE-GO コンセプトに基づく高速化・高画質化・高安定性AI
上田 優*1 / 小原 真*1 / 内海 一行*2 / 米山 正己*1 / ヴァン カウテレン マルク*1[*1 (株)フィリップス・ジャパン プレシジョンダイアグノシス事業部 MRクリニカルサイエンティスト *2 (株)フィリップス・ジャパン プレシジョンダイアグノシス事業部MR ビジネスマーケティング]
フィリップスは,2023年に高速化AI画像再構成技術「SmartSpeed AI」1)を臨床導入した。その後,蓄積されてきた臨床フィードバックを踏まえ,2025年にDual AIデザインの「SmartSpeed Precise」を発表した。SmartSpeed Preciseは,2つのAIを連結させただけではなく,サンプリングから画像再構成までのイメージングチェーン全体を再設計し,高速化に加え,鮮鋭度向上とリンギングアーチファクト抑制といった画質の最適化をねらいとした設計となっている。本稿では,フィリップスの高速化技術の系譜を概説した上で,SmartSpeed Preciseの技術的要点と設計思想を整理し,腹部領域における臨床応用例を供覧する。
■コイル感度と画像のスパース性を利用した高速化プラットフォームの開発
フィリップス高速化プラットフォームの中核は,1999年に開発した「Sensitivity Encoding(SENSE)」2)である。k空間のアンダーサンプリングで生じる折り返しアーチファクトをコイル感度情報に基づき展開し,撮像時間の短縮を図る。その発展として,2017年には,画像のスパース性を利用した高速化技術compressed sensing(CS)をSENSEに統合した「Compressed SENSE(C-SENSE)」を発表した。ランダムアンダーサンプリングかつ反復画像再構成が必要となるCSの融合では,同じく反復画像再構成を使う「Iterative SENSE」3)を採用し,2つのプロセスを直列につないで処理を実施する。さらには,SENSEとCSによる展開精度を高めるために最適化されたk空間サンプリング(balanced random undersampling)を入力に用い,ノイズ状折り返しアーチファクトの展開・除去精度の最大化,g-factorノイズの最小化をめざす。結果として,当時,SENSE主体の臨床検査をさらに高速化した。
■高速化・高画質化AI:SmartSpeed AI
SmartSpeed AIは,C-SENSEの画像再構成プラットフォームを基盤とし,CSで用いられるwavelet変換とノイズ除去過程をAI(Adaptive-CS-Net4))に置換して最適化を行った高速化技術である(図1)。AIにより,従来よりもスパース性の高い変換ができるため,ノイズ状折り返しアーチファクトを効果的に除去でき,さらなる高速化と情報劣化の低減(高画質化)に寄与する。
図1 SmartSpeed画像再構成プラットフォーム
■高速化・高画質化・高安定性AI:SmartSpeed Precise
SmartSpeed Preciseは,SmartSpeed AIを進化させたDual AI技術である(図1)。第1段階のAdaptive-CS-Netが高速化を担い,第2段階のPrecise-Netでは,鮮鋭度向上とリンギングアーチファクト抑制により,最終出力画像の質向上をサポートする。ここで強調すべき点は,すでに最適化されたSmartSpeed AIプラットフォームにPrecise-Netを連結させるのではなく,入力となるランダムアンダーサンプリングから,1st AI(Adaptive-CS-Net),2nd AI(Precise-Net)で,すべてを「再」最適化し,エンドツーエンドに近い思想で最終出力画像の画質向上を図っている点である。
■SmartSpeed Preciseにおける強化ポイント
SmartSpeed Preciseのビルディングブロック(図1のサンプリングからDual AI画像処理を経て最終画像を生成するまでの一連の処理単位)から見た強化ポイントは,主に2つある。1つ目はサンプリングの「再」最適化である。Precise-Netは,そのメインタスクが鮮鋭度の向上であることから,主にk空間の高周波成分に対して機能する。そこで,k空間密度設計をやり直し,高周波成分のSNRを向上させる。
2つ目の強化ポイントはデノイズの強化である。デノイズブロックをAdaptive-CS-Netの最後に挿入し,再最適化されたサンプリングを入力として,SmartSpeed AI開発時よりも学習データを増やした結果,組織情報とノイズ情報の識別能力が高まり,過度なデノイズが生む不自然さを抑制する。結果的に,実用的なデノイズレベルを引き上げる。
これら2つの強化ポイントによって,Precise-Netへの入力の質が向上し,鮮鋭度向上やリンギングアーチファクト抑制といった安定的なパフォーマンスの発揮を支援する。このように,収集から画像生成までのイメージングチェーン全体(ALL)をDual AIデザインで統合(ONE)するAll in ONE-GOが,SmartSpeed Preciseの技術的特長である。
■臨床での実践
図2は,肝臓シングルショットT2強調像の比較である。SmartSpeed Preciseでは,ノイズ低減と鮮鋭度向上により,組織境界や微細構造が明瞭で,診断精度向上が期待される。図2↑のアーチファクトはリンギングアーチファクトの可能性があり,その抑制が示唆される。図3は,膵臓スモールFOVシングルショットT2強調像で,スライス厚1.5mmを実現し,膵管と囊胞との連続性の高精細な描出に寄与する。SmartSpeed Preciseは,SNRを保持したまま高倍速設定を可能とし,ハーフスキャンを用いずに目的TEの達成をサポートする。SmartSpeed Preciseによる鮮鋭度向上効果と相まってブラーリングを抑え,従来課題であったコントラスト低下とブラーリングを改善し,臨床応用を加速させる可能性がある。
図2 SmartSpeed AIとSmartSpeed Preciseの臨床応用例(肝臓)
(画像ご提供:熊本中央病院)
図3 SmartSpeed Preciseの臨床応用例(膵臓)
(画像ご提供:熊本中央病院)
■No hallucinationストラテジー
図4では,真の空間分解能が収集ボクセルサイズに依存することを解像度ファントムで示す。左列では,両手法とも構造の分離は可能だが,SmartSpeed Preciseでは,ノイズ低減と鮮鋭度向上により視認性が改善している。一方,右列の収集1.0mmのケースでは,Zero filling interpolationにおいて,オレンジ括弧で示す微細構造は描出されていない。これをSmartSpeed Preciseによって再構成すると,デノイズ効果によってノイズがクリーンアップされる一方で,微細構造に関しては同じく描出されていないことがわかる。この結果は,SmartSpeed Preciseがデノイズ,リンギングアーチファクト除去,鮮鋭度の向上と同時に,識別できていない構造を幻視することのないように(つまりhallucinationが起こらないように)最適化されていることを示している。すなわち,SmartSpeed Preciseは,取得データに内在する情報を前提に,ノイズ低減と鮮鋭度向上で視認性を高める設計であり,微細構造の検出能向上には,SNRを維持しつつ収集ボクセルサイズを小さくして,真の空間分解能を確保することが不可欠である。
図4 収集ボクセルサイズに依存する真の空間分解能:Zero filling interpolationとSmartSpeed Preciseの比較
SmartSpeed Preciseは,サンプリングからDual AIデザイン,画像出力まで含めたイメージングチェーン全体を最適化し,高速化,高画質化,高安定性という3要素を高次元で同時に実現することをめざした高速化AI画像再構成技術である。今後の臨床エビデンス蓄積と新たな臨床価値創出が期待される。
*AI技術は設計にディープラーニングまたはマシンラーニングを使用しており,実装後に自動的に装置の性能・精度が変化することはありません。
●参考文献
1) Peeters, H., et al. : Philips SmartSpeed no compromise. Philips, 2022.
2) Pruessmann, K.P., et al. : SENSE : Sensitivity encoding for fast MRI. Magn. Reson. Med., 42(5): 952-962, 1999.
3) Pruessmann, K.P., et al. : Advances in sensitivity encoding with arbitrary k-space trajectories. Magn. Reson. Med., 46(4): 638-651, 2001.
4) Pezzotti, N., et al. : An adaptive intelligence algorithm for undersampled knee MRI reconstruction. IEEE Access, 8 : 204825-204838, 2020.
●問い合わせ先
株式会社フィリップス・ジャパン
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