Intelligent CT『SOMATOM X.cite』Exciting Report

2021年5月号

遠賀中間医師会おんが病院 地域医療の中核病院が実現したAI技術搭載CTによる検査・診断環境の改善─ “myExam Companion”などによる撮影の自動化で検査の標準化とスループットの向上を実現

放射線科のスタッフ。左から1人目が山下 礼技師,3人目の黒色のユニフォーム姿が小池真生子部長。

放射線科のスタッフ。左から1人目が山下 礼技師,3人目の黒色のユニフォーム姿が小池真生子部長。

 

Siemens Healthineers(以下,シーメンス)が2020年春に満を持して日本の臨床現場に送り出した「SOMATOM X.cite」。“Intelligent CT”のキャッチフレーズが与えられたこの最新装置は,人工知能(AI)技術を用いて検査・診断環境に革新を起こそうとしている。本シリーズでは6回にわたり,その現場を取材する。Scene 1では,アジア第1号機を導入した福岡県の遠賀中間医師会おんが病院における検査の標準化とスループットの向上による改善事例を紹介する。

地域完結型医療の中核施設としてCTの共同利用も推進

北九州市に隣接する遠賀郡と中間市の地域医療を提供する遠賀中間医師会。同医師会が2008年4月に設立したのが遠賀中間医師会おんが病院である。遠賀郡と中間市の高齢化率は,2015年の時点で全国平均を上回る30%を超えており,高齢者の多くは住んでいる地域から離れた場所で受診するのは難しい。こうした背景から同院では,慢性期医療を提供する遠賀中間医師会おかがき病院とともに診療所などと連携し,地域完結型の医療を実践している。
地域完結型医療の中心的な役割を果たす急性期病院として,同院は開院時から医療機器,設備を充実させている。特に,放射線科では,世界初のDual Source CT「SOMATOM Definition」を開院に合わせて導入。その1年後に小池真生子部長が着任した。小池部長は,放射線科の特色について,「CT・MRIの共同利用を推進し,地域の医療機関から検査を受け付けています。また,画像診断管理加算2の算定施設であることから,迅速かつ正確な診断をできる体制としています」と述べている。
SOMATOM Definitionは,放射線科を支える装置として10年以上にわたり活用されたが,その間に新たな臨床ニーズも生まれてきた。そこで,更新機種として白羽の矢が立ったのが,「SOMATOM X.cite」であった。

高い基本性能にAIを組み合わせたSOMATOM X.cite

更新に当たっては,従来施行していたdual energy CTや心臓CTが可能であることに加え,被ばく低減技術の搭載,高画質などを条件に検討が進められた。また,高齢化率の高い地域の特性上,体動や息止めが困難な被検者も多いことから,スループットの良さも重要な要件となった。一方で,経営の視点からは,イニシャルコストとランニングコストを抑えることが求められた。そして,これらの要件を満たす装置として浮上したのが,SOMATOM X.citeである。
シーメンスの最新鋭のSingle Source CTであるSOMATOM X.citeは,ハイエンドDual Source CT「SOMATOM Force」に搭載されたX線管「Vectron」と検出器「Stellarinfinity Detector」を採用。82cmのガントリ開口径を有し,被ばく低減技術“Tin filter technology”も搭載されている。
これら最高レベルの基本性能に加え,AI技術を用いて開発された全自動撮影を実現したことが,SOMATOM X.citeの最大の特長である。全自動撮影技術の一つが,検査ガイド機能の“myExam Companion”だ。検査者が被検者の性別や年齢,体格など検査に関する質問項目に答えることで,自動的に最適な撮影プロトコルが提案される。このほかにも,ポジショニングを自動化する「FAST 3D Camera」や,撮影後に目的に応じて画像再構成や解析処理を自動で行う“ALPHA(Automatic Landmarking and Parsing of Human Anatomy)Technology”といったAI技術が備わる。
放射線科の山下 礼技師は,SOMATOM X.citeが候補に挙がった時の印象について,「AI技術を搭載した今までにない装置として,とても興味を持ちました」と述べている。また,小池部長は,次のように説明する。
「選定の過程では,経営への影響を考慮して低価格の装置も候補になりましたが,当院はSOMATOM Definitionを導入したことで,共同利用や紹介検査数を増やしてきました。高性能なCTにすることが集患につながり,結果として経営にも寄与すると考えました」
こうしてSOMATOM X.citeの採用が決まり,2020年8月から稼働し始めた。

myExam CompanionなどのAI技術が煩雑な作業を省略

放射線科では,SOMATOM X.citeの導入から7か月が経過した2021年3月時点で,1日20件程度の検査を行っている。また,撮影部位としては体幹部が多いという。
実際の検査では,最初にベッドサイドでタブレット端末を用い,myExam Companionの質問に回答してプロトコルを設定する。プロトコルの確定後には,FAST 3D Cameraがベッド上の被検者の位置や体型をキャプチャする。この際,患者に動きがあった場合などは範囲認識がリアルタイムに追従する。また,事前設定された体位と異なっているとFAST 3D Cameraが認識するとアラートを発する。さらに,位置決め撮影の範囲を認識しているため,ベッドを動かすと撮影開始位置で自動に停止することが可能である。
続く本撮影でも,位置決め画像を基に自動で撮影範囲を設定する機能“FAST Planning”が作動するため,検査者の負担を軽減し,時間短縮も図れる。そして,撮影後の画像再構成では,ALPHA Technologyによる自動処理も可能である。

myExam Companionはタブレット端末および本体コンソールで設定可能

myExam Companionはタブレット端末および本体コンソールで設定可能

 

検査の標準化とスループットの向上を実現

まさに聡明なCTであるSOMATOM X.cite導入の成果は,目に見えて現れている。山下技師は,その一例として,「myExam Companionによって,経験の浅い診療放射線技師でも最適なプロトコルが自動的に設定できるので,高いレベルで検査の標準化を図れました」と述べている。さらに,検査時間が短縮したことで以前は勤務時間外に行うことも多かった3D画像の作成なども,検査の空き時間を利用して作業できるようになり,速やかに読影に必要な画像を提供できている。
また,検査の自動化は,被検者との接触機会を低減できるため,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連の検査でも有用だという。
一方,読影する立場から小池部長は,画質の向上と画像再構成時間の短縮を評価している。
「高画質化により的確な診断を行えるようになりました。加えて,撮影が終わるとほぼ同じタイミングで画像再構成が完了し,検査後すぐに読影を始めることができます」
特に,画像診断管理加算2を算定している同院にとって,スループットの高さがもたらす効果は大きい。
高画質を得るための検査の標準化とスループットの向上は,放射線科のスタッフに大きなメリットを与え,診療の質を高めることにも寄与している。それは,被検者の負担軽減にもなり,速やかに検査結果を確認できることは連携先の医療機関にも恩恵をもたらす。そして,結果として同院にとって地域からの信頼を高めることにもつながり,経営面にも好影響を及ぼすと言える。

SOMATOM X.citeの症例画像〔自動処理された3D画像(a)とCPR画像(b)〕

SOMATOM X.citeの症例画像
〔自動処理された3D画像(a)とCPR画像(b)〕

 

2020年8月に稼働したSOMATOM X.cite(拡大画像は天井に設置されたFAST 3D Camera)

2020年8月に稼働したSOMATOM X.cite
(拡大画像は天井に設置されたFAST 3D Camera)

 

AI技術を活用しより良い診断を提供

同院の検査環境を大きく変えたSOMATOM X.cite。小池部長は,「これからの画像診断にAI技術は重要です。今後もSOMATOM X.citeを活用して,より良い診断を患者さんに提供していきます」と述べる。
SOMATOM X.citeは,これからもその聡明さで地域医療の重責を担う同院を支えていくに違いない。

(2021年3月10日取材)

 

myExam Companion Use Case

遠賀中間医師会おんが病院▶心臓CT

心拍数が変動しても常に最適なプロトコルを自動設定
遠賀中間医師会おんが病院の放射線科では,日常検査の中でmyExam Companionを適用しているが,なかでも心臓CTで威力を発揮しているという。前機種では被検者の息止め練習を観察した上で,ガントリ上部のモニタに表示される心拍数を確認しながら,撮影条件を決めていた。そのため,撮影業務が煩雑になってしまっていた。さらに,診療放射線技師にも経験の積み重ねが求められていた。しかし,SOMATOM X.citeでは,息止めのアナウンスが開始されると,myExam CompanionがECG波形を自動的に解析し,プロトコルが設定される。小池部長は,「放射線科には,入職3年目の若手から約30年の豊富な実績を持つベテランまで7名の診療放射線技師がいますが,経験に依存することなく,精度の高い画像を確実に取得できるようになりました」と,myExam Companionのメリットを実感している。

 

一般社団法人 遠賀中間医師会 遠賀中間医師会おんが病院

一般社団法人 遠賀中間医師会 遠賀中間医師会おんが病院
住所: 福岡県遠賀郡遠賀町大字尾崎1725-2
TEL:093-281-2810
URL:https://www.onga-hp.jp
病床数:100床
診療科目:16科

 

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