技術解説(シーメンスヘルスケア)

2017年4月号

Cardiac Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点

心筋血流SPECT撮像における“IQ・SPECT”の活用

清水たけし(ダイアグノスティックスイメージング事業本部分子イメージング事業部)

短時間あるいは低投与量の心筋血流イメージングを可能とする“IQ・SPECT”は,SPECT汎用機を使用しながら,心臓に特化した撮像を効率的に行えるようにデザインされている。従来法の収集では20分ほどかかる検査を,約1/4の時間に短縮して撮像しようとすると,何らかの形で高感度撮像をする必要が発生する。IQ・SPECTの場合,対象臓器である心臓を拡大収集しつつ,トランケーションを回避することにより,汎用機の大視野を活用できるデザインとなっている(図1)。

図1 IQ・SPECTの基本概念

図1 IQ・SPECTの基本概念
関心領域を拡大収集し,さらにトランケーションを回避することにより汎用機を臓器専用機として使用

 

■構 成

IQ・SPECTは,次に挙げる3つの特長からなる。1つ目の特長は,単位時間あたりに対象臓器から収集される情報量を増加させるため,視野の一部領域を拡大するSMARTZOOMコリメータ(以下,SMARTZOOM)という多焦点コリメータが採用されていることである。図2に示すように,低エネルギー高分解能平行多孔コリメータ(以下,LEHR)と SMARTZOOMでの胸部ファントムの撮像を比較した場合,SMARTZOOMでは視野の中心部にある心筋模型部が拡大されることがわかる。どちらの場合も,胸部ファントムの全体が撮像でき,トランケーションは見られない。2つ目の特長は,心臓を中心として半径28cmの軌道を取って回転するように設計されていることである。SMARTZOOMを用いた場合,視野内の拡大率は,検出面の座標位置によって異なる。視野内の拡大率を活用するためには,被写体と検出器の距離を置いて収集する必要が発生する。これらを考慮し,IQ・SPECTでは心臓が常に拡大率が4倍のところにあるような回転軌道が取られる。3つ目の特長は,共役勾配法(ordered subset conjugate gradient method)に基づく高速画像再構成法の採用である。SMARTZOOMが,平行線でなく特徴的な幾何学的配置であるため,より正確な生データの収集が必要となり,さらに従来型のSPECT再構成法で行われていた近似モデルでは不十分で,実測値に基づく演算が行われるようになった。新たに加わった補正項としては,vector mapによるコリメータ孔の向きの補正,コリメータ孔の形状に基づいた三次元点拡がり応答関数の適用,重力によるガントリのたわみ補正が挙げられる。さらに,従来型の画像再構成とは異なり,補正は生データに直接加えず,再構成内で演算されるというデータ不可侵の原則を採用し,生データのPoisson分布に影響を与えない取り扱いとなっている。新たな投影演算子が膨大に増えたことにより,処理時間の最適化が必要となり,補正項が多くても収束が速い再構成法が必要となった。また,その逆も真であり,収束が速い再構成法を使用するためには,より正確な生データの入力が必要となったとも言える。

図2 SMARTZOOMによるトランケーションを回避した拡大収集の例

図2 SMARTZOOMによるトランケーションを回避した拡大収集の例

 

■物理的な減弱の仕組み

SMARTZOOMによる収集機序のため,IQ・SPECTで撮像した心筋血流画像は,LEHRの画像と比較すると異なった様相を呈する。図3 aにLEHRで近接撮像したファントム画像を提示する。心臓インサートの心尖部に相当する部位から放出される光子は,図3が示すコリメータ孔のジオメトリに従って,組織厚と飛程距離による減弱が最小の状態で検出されるが,心基部から発せられる光子は,通過する組織厚と飛程が増し,より減弱の影響を受けることがわかる。図3 bのIQ・SPECTの場合,これらの物理的な影響が強調され,心基部での減弱がさらに大きくなり(図3 b),相対的に心尖部が高集積になって描出される(図3 b)。

図3 水平長軸断面で幾何学的に見た減弱の仕組み

図3 水平長軸断面で幾何学的に見た減弱の仕組み

 

■胸部擬人ファントムによる検討

このような減弱の仕組みは,性別による体格の違いや欠損の有無に影響し,特徴的な心筋血流分布を示すことになる。図4に,前璧中隔および下側壁に欠損のあるファントムを用い,LEHRとIQ・SPECTで撮像し,減弱補正の有無で比較した結果を示す。減弱補正を行わない場合,LEHR,IQ・SPECT共に4時方向の集積低下の規模が大きく,欠損の評価が困難になった(図4 )。しかし,減弱補正を施すことにより,このような集積低下は改善し,IQ・SPECTとLEHRで類似した画像が見られ,集積が正しく反映された画像となった(図4 ←)。

図4 LEHRあるいは,IQ・SPECTで撮像した胸部擬人ファントムの再構成画像の比較

図4 LEHRあるいは,IQ・SPECTで撮像した胸部擬人ファントムの再構成画像の比較

 

■正常データベース概要

IQ・SPECTで見られる集積パターンは,減弱補正を施さない仰臥位撮像において多く見られ,真の虚血による分布異常と物理的な減弱の鑑別には,正常分布を参照することが有効と考えられた。このため,日本核医学会のワーキンググループによってIQ・SPECTのデータベースが新たに構築された1)。完成した標準データベースは201Tlによる心筋血流検査で,異常所見のない159症例で構成されている2)。Okudaらの報告によると,仰臥位収集で減弱散乱補正を行った正常の分布は性差がほぼ見られず,既知の異常症例を用いて検証を行ったところ,男女共有のデータベースでも正しく評価できることが示された。また,完成したデータベースはアジア人の標準的な分布として,広く使用できるであろうと考えられている2)

■臨床例を用いたスコアリング

図5では,正常例において収集および再構成条件に適切なデータベースを用いてスコアリングを行った結果を示す。左側と中央は,それぞれIQ・SPECTによる5分撮像データを減弱散乱補正なし(図5 a),補正あり(図5 b)で再構成したもの,LEHRにて20分撮像された(図5 c)同一患者の症例を示す。それぞれ視覚的印象の違った画像となっているが,スコアリングに関しては同等のものとなった。IQ・SPECTでは,収集時間を従来法の1/4程度にしても有効な検査が実施できたと言える。

図5 正常データベースの適応

図5 正常データベースの適応
異常所見のない症例において,IQ•SPECTとLEHRでそれぞれ撮像した心筋血流展開像を比較(上段)。検査結果を正常データベースと参照させた欠損スコアリングでは,それぞれ同等の結果が得られている(下段)。

 

IQ・SPECTでは,従来法の約1/4の収集時間で心筋血流の画像化が可能であり,低投与量時代の到来に伴う検査条件の再考に貢献できるのではないかと考えられる。不均一な分布が見られる症例も,正常データベースを参考にして読影することにより,物理的な減弱に起因するものか,あるいは真の血流低下であるかの鑑別に役立つことが期待できる。

●参考文献
1)Nakajima, K., et al. : Normal values and standardization of parameters in nuclear cardiology ; Japanese Society of Nuclear Medicine working group database. Ann. Nucl. Med., 30, 188〜199, 2016.
2)Okuda, K., et al. : Creation and characterization of normal myocardial perfusion imaging databases using the IQ・SPECT system. J. Nucl. Cardiol., 2017(Epub ahead of print).

 

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