技術解説(シーメンスヘルスケア)

2019年7月号

企業における医療向けAI技術の開発動向

Siemens HealthineersのAI画像診断支援技術開発の取り組み

昨今の人工知能(AI)ブームに先立ち,Siemens Healthineersでは長期にわたりAI技術開発を行っている。1990年代より機械学習を応用し始め,今日までに約40のAI技術を応用したアプリケーションが製品としてリリースされ,医療現場で活用されている。今後も,撮影・計測技術,画像処理技術,個別化医療技術,そして患者の集団単位や地域に焦点を当て分析するような技術まで,幅広いAI技術の応用を検討している。本稿では,画像処理技術として,ディープラーニングによってアルゴリズム構築した画像診断支援アプリケーション開発の取り組みを紹介する。

●画像診断支援アプリケーション開発の取り組み

異常部の自動検出や臓器の自動計測は,医療分野におけるディープラーニングの応用事例として取り上げられる代表的な機能である。年々,CTやMRIによる画像検査数の増加に対して読影医の数が不足しており1),患者1人あたりに費やすことができる読影時間の減少が問題視されている。また,読影時間が50%減少すると,誤診率が16.6%上昇したという報告がある2)。病変などの異常や臓器の自動検出/自動計測技術は,このような問題の解決に役立つ機能として期待されるため,Siemens Healthineersでもさまざまな疾患や臓器に対し開発している。
肺,心臓や大動脈などの異常を検査するために胸部CT撮影が多く行われている。読影医は各臓器の異常を見逃さないように,異常の疑いがある臓器だけではなく,画像内に含まれる各臓器を確認する必要がある。Siemens Healthineersは,胸部CT画像からさまざまな臓器(肺,心臓,大動脈など)を一度に解析するソフトウエアを開発している。例えば,肺における結節の検出と計測,肺気腫率の計算,心肥大の評価を行うために心臓の体積の計測,冠動脈の石灰化部分の検出,9か所における大動脈径の計測が自動で行われる(図1)。最終的には,診断レポートの作成に有用な定量レポートも出力される。このような技術によって,オペレータによらない定量的かつ標準化された結果を得ることができ,結果として診断の質の向上と高効率化の実現をめざす。

図1 胸部CT画像に対するAI画像診断支援ソフトウエアの解析結果例 肺気腫の領域をスキャンした結果(左モニタ)と肺結節の検出結果(右モニタ)

図1 胸部CT画像に対するAI画像診断支援ソフトウエアの解析結果例
肺気腫の領域をスキャンした結果(左モニタ)と肺結節の検出結果(右モニタ)

 

また,前立腺がんに対する診断支援ツールも開発している。PSA検査など,スクリーニング検査によって前立腺がんの疑いがある場合,鑑別診断の手段の一つとして,MRIによる画像診断が行われている。マルチパラメトリックMRI画像よりPI-RADSスコアリングを行うことによって,患者の予後に影響があるような“臨床的に意義のあるがん”を検出する3)。このマルチパラメトリックMRI画像に対し,前立腺病変を自動的に検出し,PI-RADSスコアを提案する診断支援ツールを開発している(図2)。

図2 マルチパラメトリックMRI画像に対するAI画像診断支援ソフトウエアの解析結果例 赤いランドマーク,あるいは右下の画像のヒートマップが病変部を示す。

図2 マルチパラメトリックMRI画像に対するAI画像診断支援ソフトウエアの解析結果例
赤いランドマーク,あるいは右下の画像のヒートマップが病変部を示す。

 

●クラウドプラットフォームによるアプリケーションの提供

本稿で紹介したようなAIアプリケーションだけでなく,さまざまなアプリケーションをクラウド型プラットフォームである「teamplay Cloud Platform」を経由してユーザーに提供する環境を整えている。このプラットフォームは,ほかのメーカーによって開発されたアプリケーションも利用できるマーケットプレイスとしての機能も持つ。したがって,各施設に対して高価なワークステーションなどを導入する必要がなく,ユーザーは必要な時に必要なアプリケーションに対してライセンスを購入し,ベンダー問わずさまざまなアプリケーションを簡単に活用することができる。

●Siemens HealthineersがAI技術によりめざす方向性

Siemens Healthineersは,AI技術によって医療に貢献する方向性として,(1) 医療サービスの効率化と生産性の向上,(2) 医療サービスを受ける患者の満足度の向上,(3) 医療の質の向上の3つを掲げている。医療に携わる方々のパートナーとなり,人々のクオリティ・オブ・ライフの向上に貢献するため,Siemens Healthineersは日々新たな価値を追究している。

*本内容は,技術開発の取り組みの紹介であり,製品化が確定したものではございません。

●参考文献
1)The Royal College of Radiologists(2017): UK workforce census 2016 report.
2)Berlin, L. : Faster Reporting Speed and Interpretation Errors ; Conjecture, Evidence, and Malpractice Implications. J. Am. Coll. Radiol., 12・9, 894〜896, 2015.
3)井村千明 : 前立腺MRI撮像技術撮像法前立腺MRI撮像テクニックのアップデート. INNERVISION, 31・6, 68〜70, 2016.

 

【問い合わせ先】
コミュニケーション部
TEL 0120-041-387
https://www.siemens-healthineers.com/jp/

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