技術解説(シーメンスヘルスケア)

2021年4月号

循環器領域におけるCTの技術の到達点

Innovation Pathway of「SOMATOM CT」in Cardiac Imaging─これまでの軌跡,これからのCT

藤原 知子[シーメンスヘルスケア(株)CT事業部]

2020年は,ドイツのヴュルツブルク大学でレントゲン博士がX線を発見してから125年というアニバーサリーイヤーであり,X線発見以降一貫してX線管や放射線機器の開発・販売を行ってきたSiemens Healthineers(以下,シーメンス)にとっても節目の年であった。シーメンスの前身となるライニガー・ゲバート&シャール社は,X線発見の3日後には,後にレントゲン博士が購入されるX線管(図1)の製造を始めており,X線発見より80年後の1975年には,医療機器メーカーとして初めてのCT装置*を世に送り出した。さらに,X線発見から110年後の2005年,CT検査にさまざまな革新的進化をもたらすことになる世界初のDual Source CT(以下,DSCT)をリリースした。それまでのSingle Source CTでは超えることのできなかったハードウエア時間分解能(ハーフ再構成)100msの壁を大きく越えたことで,βブロッカーフリーの心臓CT検査が実現された衝撃は記憶に新しい1)

図1 シーメンスの前身となるライニガー・ゲバート&シャール社が開発した最初のX線管 a:X線管を購入されたレントゲン博士の記念写真 b:本社(東京,大崎)に展示されているレプリカ (https://www.siemens-healthineers.com/jp/press-room/press-releases/pr-roentgen2020.html)

図1 シーメンスの前身となるライニガー・ゲバート&シャール社が開発した最初のX線管
a:X線管を購入されたレントゲン博士の記念写真
b:本社(東京,大崎)に展示されているレプリカ
https://www.siemens-healthineers.com/jp/press-room/press-releases/pr-roentgen2020.html

 

■‌ 現在の到達点─近年のホットトピックを中心に

初代のDSCTを発表してからすでに15年以上経った今でも,その時間分解能を超えるのはDSCTの後継機のみであり,その実力はさまざまなエビデンスが示すところである。近年,循環器領域では,冠動脈狭窄の状態(形態評価)だけでなく,心筋虚血の有無(機能評価)について,つまり「血行動態的に有意な冠動脈狭窄を検出する必要性」に注目が集まる中で,低侵襲に心筋血流予備能(以下,FFR)が計測できるFFR-CTへの関心が高まっている。FFR-CTが計算によるシミュレーションである以上,必然的に入力データ(冠動脈CTデータ)のクオリティが重要となり,解析エラーの主たる原因となっているモーションアーチファクトを抑制できるDSCTの時間分解能の高さがリジェクト率の低さに表れている2),3)
また,「慢性冠動脈疾患診断ガイドライン(2018年改訂版)」において,負荷心筋血流イメージングモダリティとしてCTが追加されており,負荷CTパーフュージョン(以下,CTP)についても関心が高まっている。ダイナミック負荷CTPを含んだ包括的心臓CT検査の有用性については,これまで単施設からの報告で示されていたが,AHA2020(米国心臓病協会年次学術集会)において,多施設前向きデザインで観察した初めての研究(AMPLIFiED study:Assessment of Myocardial Perfusion Linked to Infarction and Fibrosis Explored with DSCT study)の報告がなされた。DSCTを使用する国内6施設(三重大学医学部附属病院,東北大学病院,神戸大学医学部附属病院,高崎総合医療センター,鹿児島医療センター,済生会松山病院)と,中国1施設(北京協和医院)が参加した日本発の国際共同前向き観察研究であり,冠動脈CTAにダイナミック負荷CTPを追加することで,血行動態的に有意な狭窄の検出能が患者レベル,血管レベル共に有意に上昇した4)
また,PROTECTION-VI(PROspective multicenter registry on radiaTion dose Estimates of cardiac CT angIOgraphy iN daily practice in 2017) study5)によると,被ばく低減や造影剤低減に有効な手法であるlow kV imagingについて,120kVに比べて80kV以下では,被ばく線量は68%,造影剤量は25%低減されていたと報告されている。さらに,同studyにおけるlow kVの使用頻度が,シーメンスのCTではほかのベンダーと比べて有意に高いことが示されている。low kV imagingの普及に関しては一朝一夕に成せるものではなく,「SOMATOM CT」においては画質を担保するための大容量X線管の開発はもとより,どのような対象に,どの管電圧を適用し,必要な画質を得るための管電流とのバランスを提案するための自動管電圧最適化機構(Auto Tube Voltage Selection)“CARE kV”が,その普及の大きな一助となっているのは間違いないだろう。従来,造影剤の投与量に依存しないとされていたアレルギー様反応についても,近年の研究では投与量(⽤量・濃度)が少ない⽅がその発⽣も有意に少ないという報告6)があり,造影剤量を低減するために有効なlow kVの活用に関しても,ますます注目が集まるのではないかと考える。

■‌ これからのCT

いわゆる「装置スペック」として認識されるような技術革新が進む一方で,SOMATOM CTは,同時に“CT検査全体のワークフロー”革新も意識している。自動化技術を導入することは,“標準化”“最適化”に対して効果を発揮するだけでなく,“働き方改革”や“タスクシフト”にもつながると考えている。
SOMATOM CTにおいては,すでにさまざまな人工知能(AI)技術が採用されており,撮影前(「FAST 3D Camera」による自動患者ポジショニング),撮影中(“FAST Planning”による自動撮影範囲設定など),撮影後(“Inline Anatomic Range”による対象部位ごとの軸位に合わせた自動MPR画像再構成など)と,CT検査におけるすべてのフェーズでワークフローの効率化をサポートしている。
2020年4月に国内で販売を開始したIntelligent CT「SOMATOM X.cite(以下,X.cite)」にも多くのAI技術が搭載されているが,その最大の特長は,AI技術による検査ガイド機能“myExam Companion”である(図2)。近年は,CT技術の高まりと検査数増加による業務負荷の上昇を背景に,個々の患者の状態や検査目的に応じて最適な検査を提供することが課題になっている。myExam Companionは,そのような状況においても一貫性のある検査クオリティを提供するツールとなる。例えば,心臓検査においては,患者の年齢,腎機能,心拍数,不整脈の有無など,いくつかの質問に答えることで熟練のオペレータの思考回路をたどるように最適なプロトコール選択が行われ,一貫性のある結果へ導くように設計されている(図3)。
Precision Medicine(個別化医療)時代において,個々の患者に最適な検査を提供する上でも,患者ポジショニングから撮影,そして画像再構成や後処理に至る一連のワークフローで“標準化”“最適化”をめざした開発を今後も続けていきたい。

図2 2020年4月に国内で販売を開始したIntelligent CT SOMATOM X.cite myExam Companionをはじめ,多くのAI技術が搭載されている。

図2 2020年4月に国内で販売を開始したIntelligent CT SOMATOM X.cite
myExam Companionをはじめ,多くのAI技術が搭載されている。

 

図3 Intelligent CT SOMATOM X.citeに搭載されたmyExam Companion 心臓検査であれば,患者の年齢,腎機能,心拍数,不整脈の有無など,いくつかの質問に答えることで最適なプロトコール選択が可能になる。

図3 Intelligent CT SOMATOM X.citeに搭載されたmyExam Companion
心臓検査であれば,患者の年齢,腎機能,心拍数,不整脈の有無など,いくつかの質問に答えることで最適なプロトコール選択が可能になる。

 

〈謝辞〉
今回の主題であるCardiac Imagingからは離れますが,現在もまだ世界中で未曽有のパンデミックの終息が見えないなか,シーメンスのタブレット端末を起点とするモバイルワークフローCTをお使いいただいている先生から「このCTで助かった」とおっしゃっていただきました。「患者にもスタッフにも優しいCT」として開発されたCTが,くしくもこのコロナ禍において感染症対策としてゾーニングサポートを行うことで,先生方のお役に立てたことを非常にうれしく思います。最後にこの場をお借りし,新型コロナウイルス感染症拡大の中,日々医療の最前線でご尽力いただいている医療従事者の方々に心より感謝申し上げます。

*2021年3月自社調べ

●参考文献
1) Brodoefel, H., et al. : Dual-source CT : Effect of heart rate, heart rate variability, and calcification on image quality and diagnostic accuracy. Radiology, 247(2), 346-355, 2008.
2) Eftekhari, A., et al. : Fractional flow reserve derived from coronary computed tomography angiography : Diagnostic performance in hypertensive and diabetic patients. Eur. Heart J. Cardiovasc. Imaging, 18(12): 1351-1360, 2017.
3) Nørgaard, B.L., et al. : Clinical Use of Coronary CTA-Derived FFR for Decision-Making in Stable CAD. JACC Cardiovasc. Imaging, 10(5): 541-550, 2017.
4) Kitagawa, K., et al. : Multicenter Study of Diagnostic Performance of Noninvasive Coronary Angiography and Dynamic Myocardial Perfusion Imaging Using Dual Source Computed Tomography : The AMPLIFiED Study.Circulation, 142 : A12914, 2020.
5) Stocker, T.J., et al. : Application of Low Tube Potentials in CCTA : Results From the PROTECTION VI Study. JACC Cardiovasc. Imaging, 13(2 Pt 1): 425-434, 2020.
6) Park, H.J., et al. : Relationship between Lower Dose and Injection Speed of Iodinated Contrast Material for CT and Acute Hypersensitivity Reactions : An Observational Study. Radiology, 293(3): 565-572, 2019.

 

●問い合わせ先
シーメンスヘルスケア株式会社
コミュニケーション部
〒141-8644
東京都品川区大崎1-11-1
ゲートシティ大崎ウエストタワー
TEL:0120-041-387
https://www.siemens-healthineers.com/jp/

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