技術解説(シーメンスヘルスケア)

2026年3月号

腹部領域におけるMRIの最新技術

自由呼吸下ダイナミックを可能とするGRASPの技術とその先

三津田 実 / 市場 義人[シーメンスヘルスケア(株)MR事業部]

上腹部領域において,EOBを用いた造影MRI検査の有用性は確立されているが1),息止めが困難な患者やtransient severe motion artifact(TSM)による動脈相での息止め不良2),3)により,検査の安定性はいまだ課題である。自由呼吸下での肝臓ダイナミックを可能とするGRASP(Golden-angle RAdial Sparse Parallel MRI)4)を用いて,TSMが見られた患者においても安定した動脈相が得られるという報告もある5)
本稿では,GRASPの特長と,呼吸ゲーティングなどの技術について概説し,他部位への応用についても紹介する。

■CSとラジアルサンプリングを組み合わせたGRASP

GRASPは,圧縮センシング(compressed sensing:CS)とラジアルサンプリングを組み合わせた,完全自由呼吸下でダイナミック撮像が可能な技術である(図1,2)
データ圧縮技術の一つであるCSは,すでにMRIの画像再構成技術としても多く活用されており,撮像時間の短縮に貢献している。GRASPにおいては,プロトコールによって10〜40倍速程度の高速化を実現し,高い空間分解能と時間分解能の両立が可能となっている。
データ収集をk-space上で放射状に行うラジアルサンプリングは,k-spaceの高周波領域のデータ収集タイミングが分散する一方,画像コントラストに影響するk-space中心の低周波領域で重点的なデータ収集が行われており,モーションアーチファクトの影響を受けにくい
特性を持つ。また,データの埋め方は,スポーク間隔を111.25°に設定するGolden-angle手法を採用している。Golden-angleでデータを埋めることにより,同じ位置にデータを上書きすることなく,データ取得本数の増加に伴いk-spaceのデータ密度を増やすことが可能となる。ダイナミック撮像のように,時間分解能が短い,つまりスポーク数が少ない場合,Golden-angleはスポークの角度の偏りが少なく,k-space内でのバランスが良くなる。加えて,SNRのロスを少なくするため,再構成に使用するスポーク数はフィボナッチ数が採用されている6)
ラジアルサンプリングでは,ストリーク状のアーチファクトが発生することが知られているが,前述のGolden-angleによる偏りの低減と,CS内でのiterative reconstruction(繰り返し処理)および,使用コイルの信号に対して荷重係数を加えることで,アーチファクトを低減する工夫がなされている。
画像再構成は,任意の時間分解能を選んで設定することができる。さらに,一度画像再構成したデータであっても,後から時間分解能を変更した画像データを再構成し直すことも可能となっている。

図1 GRASP-VIBEでのダイナミック検査 pre,動脈相,門脈相,遅延相まですべて一つのシーケンスで収集を行う(Continuous radial scan)。任意の時相,時間分解能,phase数で再構成が可能となっている。

図1 GRASP-VIBEでのダイナミック検査
pre,動脈相,門脈相,遅延相まですべて一つのシーケンスで収集を行う(Continuous radial scan)。任意の時相,時間分解能,phase数で再構成が可能となっている。

 

図2 GRASPを用いた肝臓ダイナミック撮像 GRASPを使用することで,自由呼吸下にてモーションアーチファクトのない動脈相が得られている。 (画像ご提供:大阪府済生会吹田病院様)

図2 GRASPを用いた肝臓ダイナミック撮像
GRASPを使用することで,自由呼吸下にてモーションアーチファクトのない動脈相が得られている。
(画像ご提供:大阪府済生会吹田病院様)

 

■「Self-Navigation」を使用した呼吸同期機能「Liver Gating」

ラジアルサンプリングは,モーションアーチファクトの影響を受けにくい特長はあるものの,上腹部では呼吸に起因する体軸方向の上下動の影響で,画像にボケが生じてしまうケースがある。GRASPでは,Self-Navigationを使用した呼吸同期機能(Liver Gating)を使用することで,呼気データのみを抽出し,モーションアーチファクトをさらに低減することが可能である5)(図3)。GRASPのデータはラジアルサンプリングを行っており,各スポークにk-space中心のデータが含まれているため,kz方向のプロジェクションデータを一次元フーリエ変換(1D-FT)して,呼吸変化に応じた信号変化量をとらえることで,呼気データのみを抽出している。

図3 Self-Navigationを用いた呼吸同期機能(Liver Gating) kz方向のプロジェクションデータを1D-FTし,呼気時相のみを使用した画像再構成を行う。

図3 Self-Navigationを用いた呼吸同期機能(Liver Gating)
kz方向のプロジェクションデータを1D-FTし,呼気時相のみを使用した画像再構成を行う。

 

■造影剤到達を自動検出する「Auto Bolus Detection」

GRASPを用いた上腹部ダイナミックの一般的な撮像条件であれば,5〜10秒程度の時間分解能でmulti-arterial phaseのデータ取得を行っていることが多い。さらに,画像全体の信号値の変化から,造影剤の到達を自動検出し,最適な動脈相のタイミングを自動決定するAuto Bolus Detectionという機能も有している7)。動脈相の撮像は,施設によってさまざまな手順で行われている。動脈相の撮像時間を毎回固定して行う手法や,リアルタイムに画像をモニタリングしながら造影剤が目的部位に到達したタイミングで本スキャンを撮像する手法,また,事前に少量の造影剤を用いて最適な時間を確認するテストボーラス法などが挙げられる。Auto Bolus Detectionを用いることで,オペレータや患者要因に左右されにくく,動脈相タイミングの標準化,安定化が期待できる。

■GRASPの上腹部以外への応用

このように,GRASPは自由呼吸下で安定した上腹部ダイナミック検査を行うことをモチベーションに開発された技術であるが,近年は,動きに強く,時間分解能および空間分解能が高いという特性を生かし,全身のさまざまな部位で応用がなされている。
呼吸や蠕動,嚥下の影響のある骨盤や頸部領域などでは,時間分解能10〜15秒程度でsub-millimeterでのダイナミック撮像も可能となっている。高い空間分解能であるため,撮像後に任意断面のMPRも作成可能となる(図4)。また,GRASPでは,いわゆるview-sharingを使用しておらず,時間軸方向のデータのコンタミネーションがない。それを生かし,例えば,近年盛んに行われている乳腺ultra-fast dynamicや,dynamic contrast enhanced-MRIによるkinetic解析への有用性なども報告されている8)〜10)

図4 GRASPを用いた膀胱ダイナミック撮像 高い時間分解能および空間分解能を実現。MPRでの多方向からの観察も可能となっている。 (画像ご提供:東京医科大学病院様)

図4 GRASPを用いた膀胱ダイナミック撮像
高い時間分解能および空間分解能を実現。MPRでの多方向からの観察も可能となっている。
(画像ご提供:東京医科大学病院様)

 

臨床の検査においても多くの施設で普及しつつあるGRASPであるが,これをさらに発展させた拡張技術の報告も増えている。非同期自由呼吸下で呼吸時相や心時相ごとのデータ取得が可能な「XD-GRASP」や,ディープラーニングと組み合わせ,高速再構成や定量評価への統合などが提唱されている11),12)
今後,このようなさらなる技術開発により,診断や治療に役立つ技術としてつながっていくことを期待する。

●参考文献
1) 日本肝臓学会編 : 肝癌診療ガイドライン 2021年版. 金原出版, 東京, 2021. 
2) Davenport, M.S., et al. : Comparison of acute transient dyspnea after intravenous administration of gadoxetate disodium and gadobenate dimeglumine : Effect on arterial phase image quality. Radiology, 266(2): 452-461, 2013. 
3) Murakami, T., et al. : Diagnosis of hepatocellular carcinoma using Gd-EOB-DTPA MR imaging. Magn. Reson. Med. Sci., 21(1): 168-181, 2022. 
4) Feng, L., et al. : Golden-angle radial sparse parallel MRI : Combination of compressed sensing, parallel imaging, and golden-angle radial sampling for fast and flexible dynamic volumetric MRI. Magn. Reson. Med., 72(3): 707-717, 2014. 
5) Yoon, J.H., et al. : Evaluation of transient motion during gadoxetic acid-enhanced multiphasic liver magnetic resonance imaging using free-breathing golden-angle radial sparse parallel magnetic resonance imaging. Invest. Radiol., 53(1): 52-61, 2018. 
6) Winkelmann, S., et al. : An optimal radial profile order based on the golden ratio for time-resolved MRI. IEEE Trans. Med. Imaging, 26(1): 68-76, 2007. 
7) Grimm, R., et al. : Automatic Bolus Analysis for DCE-MRI Using Radial Golden-Angle Stack-of-stars GRE Imaging. Proc. Intl. Soc. Magn. Reson. Med., 21 : 696, 2013. 
8) Fan, Y., et al. : Predicting lymphovascular invasion in rectal cancer : Evaluating the performance of golden-angle radial sparse parallel MRI for rectal perfusion assessment. Sci. Rep., 13(1) : 8453, 2023. 
9) Oyama, K., et al. : Optimal temporal resolution to achieve good image quality and perform pharmacokinetic analysis in free-breathing dynamic contrast-enhanced MR imaging of the pancreas. Magn. Reson. Med. Sci., 22(4): 477-485, 2023. 
10) Honda, M., et al. : Ultrafast MRI and diffusion-weighted imaging : A review of morphological evaluation and image quality in breast MRI. Jpn. J. Radiol., 43(11): 1761-1777, 2025. 
11) Feng, L., et al. : XD-GRASP : Golden-angle radial MRI with reconstruction of extra motion-state dimensions using compressed sensing. Magn. Reson. Med., 75(2): 775-788, 2016. 
12) Pei, H., et al. : DeepGrasp4D : A General Framework for Highly-Accelerated Real-Time 4D Golden-Angle Radial MRI Using Deep Learning. Proc. Intl. Soc. Magn. Reson. Med., 32 : 40,2024. 

 

●問い合わせ先
シーメンスヘルスケア株式会社
コミュニケーション部
〒141-8644
東京都品川区大崎1-11-1 ゲートシティ大崎ウエストタワー
TEL:0120-041-387
https://www.siemens-healthineers.com/jp/

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