Zio Vision 画像の本質を診る(ザイオソフト)

第24回日本心不全学会学術集会が,2020年10月15日(木)〜17日(土)までWeb開催された。ザイオソフト株式会社/アミン株式会社は,17日に学会共催のランチョンセミナー30「心アミロイドーシスを画像で診る」をオンラインで開催した。セミナーでは,井手友美氏(九州大学大学院医学研究院循環器内科学)を座長として,尾田済太郎氏(熊本大学大学院生命科学研究部画像診断解析学),高潮征爾氏(熊本大学大学院生命科学研究部循環器内科学)が講演した。

2020年12月号

心アミロイドーシスを画像で診る

講演2:ECVを循環器診療に生かす〜心筋症診断に新しいストラテジーを

髙潮 征爾(熊本大学病院循環器内科)

当院では,造影CTによる心筋の細胞外容積分画解析(CT-ECV)を心筋症診断に用いている。本講演では,CT-ECVの臨床的意義と活用について,症例を交えて解説する。

心アミロイドーシス評価におけるNative T1とECVの臨床的意義

心臓MRIのT1マッピングおよびECVによる心筋症の評価では,Native T1とECVが共に高値の場合,心アミロイドーシスが強く疑われる。T1値は鉄やスフィンゴ糖脂質などの脂質で低下する特徴があり,ファブリー病ではNative T1値が低下することから,Native T1とECVを併せて評価することで,心筋症の鑑別診断も可能になっている1)
『2020年版心アミロイドーシス診療ガイドライン』2)の診断フローチャートでは,心アミロイドーシスを念頭に置くべき患者のスクリーニング検査の一つに心臓MRIが挙げられており,びまん性の心内膜側の造影遅延,T1マッピングおよびECVの上昇が心アミロイドーシスを疑う所見であると示されている。
トランスサイチレン型心アミロイドーシス(ATTR-CM)を対象に,心臓造影MRIで評価したNative T1とECVの臨床的意義を検討した論文3)が報告されている。対象は,野生型134人,変異型81人,無症状キャリア12人の計227人で,Native T1とECVを計測した。ECVは,野生型が約60%,変異型が約63%であった。Native T1とECVの間には正の相関傾向が認められ,ECVが50%を超えると相関はやや緩やかになるもの,ECVが30〜40%の比較的早期の症例では,Native T1とECVに強い相関(R=0.735)があることが報告されている。またECVは,左室肥大や心エコー,6分間歩行距離,バイオマーカーの心機能悪化を示す指標と明らかに相関しており,ECV上昇が左室肥大や病態進行と相関することが示された。さらに,ECVは予後評価にも有効であることが報告されている。Native T1とECVのそれぞれについてカットオフ値を2群に分けて予後を評価すると,ECVの方が明確に予後予測が可能であり,ECV 59%以上の症例は予後不良であることが示された。
当院にて,野生型ATTR-CM56人を対象にECVを計測した結果,平均値は57.6%(最小値:30.7%,最大値:90.6%)で,おおむね40〜60%強であった。また,先行研究と同様に,心筋トロポニンTやLV mass,EFの低下,ピロリン酸シンチグラフィにおける核種の心臓への取り込みを定量的に評価したH/CL ratioなどの病態進行を示すパラメータと相関が認められた。
以上から,左室肥大がありECVが高値(40%超)の場合は,必ず心アミロイドーシスを念頭に置く必要がある。一般的にECVの評価はMRIで行われているが,臨床ではさまざまな理由でMRIを実施しにくい場合がある。そこで,MRIに代わってCTでECVを評価するCT-ECVを活用することができる。

CT-ECVを用いた心アミロイドーシス診断

CT-ECVが有効な状況としては,TAVI前評価,冠動脈評価やカテーテルアブレーション前の造影CTが挙げられ,CT-ECVが高ければ心アミロイドーシスを疑う必要がある。
当院で用いているATTR-CMの効率的なスクリーニング方法“Kumamoto Criteria”4)では,(1) 高感度心筋トロポニンT(hs-cTnT)≧0.0308ng/mL,(2) 左室後壁厚≧13.6mm,(3) Wide QRS(≧120ms)をそれぞれ満たした場合に1点とし,合計が2点または3点の場合には心アミロイドーシスを強く疑い,ピロリン酸シンチグラフィの施行を推奨している。0点,1点の場合でも,図1に示す心アミロイドーシスを疑うred flag所見5)〜7)(特に両側手根管症候群の既往)や,既知のトランスサイレチン遺伝子変異がある症例では心アミロイドーシスを疑い,ピロリン酸シンチグラフィの検討を推奨している。
当院で野生型ATTR-CMと診断した症例について調査した8)。野生型ATTR-CMと診断した129人は,平均年齢78歳,男性が85%で,47%が心房細動(AF)を合併している。54%に手根管症候群の既往があり,hs-cTnTの平均値は0.056ng/mLである。
われわれの野生型ATTR-CMの診断契機としては,心不全や左室肥大だけでなく,頻脈性不整脈,大動脈狭窄症(AS),伝導障害などもあり,これらは術前評価に実施したCT-ECVがきっかけとなった症例も少なくない。特にTAVIを検討するような高齢AS患者においてATTR-CMの合併が多いことが指摘されており,そのような症例にTAVIが有効であるか議論されている9),10)

図1 心アミロイドーシスを疑うred flag5)〜7)

図1 心アミロイドーシスを疑うred flag5)〜7)

 

症例提示

症例1:TAVIプロトコールCTによりCT-ECVでATTR-CM合併を疑った症例11)
症例1は80歳代,女性で,1年前に心不全で入院歴があり,2回目の心不全を契機に高度のASが認められ,TAVIの方針で精査目的の入院となった。既往症としてAFがあるが,手根管症候群の既往はなかった。BNPは367.1pg/mL,hs-cTnTは0.0593ng/mLと共に高値だった。心電図では,AFで若干のpoor R progressionであり,伝導障害やQRSの延長は認められなかった。心エコーでは左室駆出率は64%と保たれており,心室中隔(IVS)/左室後壁(PW)厚が13mm/15mmと左室肥大を認め,大動脈弁における最大通過血流速度が3.8m/s,平均圧較差が32mmHg,大動脈弁口面積が0.52cm2で,AS重症度としてはparadoxical low flow low gradient severe ASであった。
TAVIプロトコール造影CTでは,左室心内膜に全周性に造影遅延が認められ,ECVは50%であった。ECVの正常値は25〜28%であることから心アミロイドーシスが強く疑われ,ピロリン酸シンチグラフィを実施したところ陽性であり,ATTR-CM合併ASと診断された。
このようにAS症例に対してTAVI前に実施する造影CTにCT-ECVを組み合わせることで,ATTR-CMの合併を評価するアルゴリズムが提唱されている12)。この論文では,ECVが上昇するに従い骨シンチグラフィで心臓への集積が増加すると報告されており,ECV 31%以上では心アミロイドーシスが疑われることから骨シンチグラフィやMタンパクの評価を推奨している。このようにCT-ECVで心アミロイドーシス合併を評価することは,臨床的に非常に有用であると考えている。

症例2:完全房室ブロックに対してペースメーカー植え込み後にCT-ECVでATTR-CMを疑った症例
症例2は80歳代,男性で,心不全を含む内科的疾患に罹患したことがなかったが,腰部脊柱管狭窄症の術前心電図で完全房室ブロックが認められたため入院となった。手根管症候群の既往はない。hs-cTnTは0.0249ng/mLと軽度に上昇しており,入院翌日に恒久的ペースメーカーの植え込みを実施している。心エコーでは,IVS/PWが12.7mm/13.3mmと厚いが,心室の輝度も高く,右心室も肥厚していることからATTR-CMが疑われた。
そこで冠動脈評価目的に実施した冠動脈CTにCT-ECVも併せて評価したところ,冠動脈狭窄は認めなかったが,心内膜側を中心にびまん性の造影遅延が認められ,ECVは39%と軽度高値であった(図2)。ピロリン酸シンチグラフィも陽性で(図3),ATTR-CMと考えられた。
本症例は,術前に腰椎MRIを撮像したところ,アミロイドーマによる脊髄の狭窄が認められた。手術で切除した黄色靭帯による病理診断では,アミロイド沈着が認められ,免疫組織化学染色を行ったところ前駆タンパクがTTRであることを確認し,ATTR-CMと診断した。ペースメーカー植え込み直後であり,MRIが実施できない症例に対してCT-ECVは心筋症評価に有用である。また,右室心筋生検を避けたい場合に,こういった組織から病理診断できることも留意しておくとよい。

図2 症例2のCT-ECV解析

図2 症例2のCT-ECV解析

 

図3 症例2のピロリン酸シンチグラフィ

図3 症例2のピロリン酸シンチグラフィ

 

まとめ

昨今,がん治療に関連した心筋障害が注目されている。当院の末田らは,MRI-ECVと同様に,CT-ECVも心筋障害の評価に有用である可能性を報告している13)。乳がんや消化器がんの経過観察で撮影する造影CTにECV評価も追加することで,経時的な心筋障害の推移も評価できる可能性があり,現在,研究を進めている。
肥大心でECV/T1値が高値の症例は,まず心アミロイドーシスが疑われる。ECVでは診断だけでなく病態進行の評価も可能であり,普段の心臓造影CTにECVを追加することで,特に心アミロイドーシスの評価に活用できる。実臨床で実施しやすいCT-ECVによる心筋性状評価は,今後さらに注目されていくだろう。

●参考文献
1)Messroghli, D.R., et al., J. Cardiovasc. Magn. Reson., 19(1) : 75, 2017.
2)2020年版心アミロイドーシス診療ガイドライン.
https://www.j-circ.or.jp/old/guideline/pdf/JCS2020_Kitaoka.pdf
3)Martinez-Nahorro, A., et al., JACC Cardiol. Imaging, 12(5) : 810-819, 2019.
4)Marume, K., Takashio, S., et al., Circ. J., 83(8) : 1698-1708, 2019.
5)Ruberg F.L., et al., J. Am. Coll. Cardiol., 73(22) : 2872-2891, 2019.
6)Witteles, R.M., et al., JACC Heart Fail., 7(8) : 709-716, 2019.
7)Maurer, M.S., et al., Circulation, 135(14) : 1357-1377, 2017.
8)Yamada, T., Tahashio, S., et al., ESC Heart Fail., 7(5) : 2829-2837, 2020.
9)Scully, P.R., et al., Eur. Heart J., 41(29): 2759-2767, 2020.
10)Ternacle, J., et al., J. Am. Coll. Cardiol., 74(21): 2638–2651, 2019.
11)Oda, S., Takashio, S., et al., Amyloid, 26(2) : 97-98, 2019.
12)Scully, P.R., et al., JACC Cardiol. Imaging, 13(10) : 2177-2189, 2020.
13)Sueta, D., et al., Eur. Heart J. Case Rep., 4(4) : 1-2, 2020.

 

髙潮 征爾(Takashio Seiji)
2004年 熊本大学医学部卒業。研修医,医員を経て,2014年 国立循環器病研究センター心臓血管内科部門心不全科。2016年 熊本大学循環器内科,2019年より助教,アミロイドーシス診療センター副センター長。

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