Zio Vision 画像の本質を診る(ザイオソフト)

第82回日本医学放射線学会総会が,2023年4月13日(木)〜16日(日)にパシフィコ横浜(神奈川県横浜市)で開催された。学会共催ランチョンセミナー29「医用画像処理のnext stage 〜放射線科と執刀医の共通理解」(ザイオソフト株式会社)では,高瀬 圭氏(東北大学大学院医学系研究科放射線診断学分野)が座長を務め,原田耕平氏(札幌医科大学附属病院放射線部)と守瀬善一氏(藤田医科大学医学部岡崎医療センター外科学講座)が講演した。

2023年7月号

医用画像処理のnext stage 〜放射線科と執刀医の共通理解

講演1:術前シミュレーションのための腹部撮影テクニック

原田 耕平(札幌医科大学附属病院放射線部)

術前シミュレーションに必要な解剖学的情報を提示する手術支援画像を詳細に作成するには,元画像を適切に撮影することが重要である。診療放射線技師は,術前検査が患者のQOLに大きく影響することを認識し,目的を達成できる検査の施行に努めるべきである。本講演では,肝胆膵領域の術前シミュレーションのための撮影テクニックについて述べる。

肝 臓

1.目的と撮影プロトコール
肝臓は,動脈,門脈,静脈の走行に個人差・バリエーションが多いため,手術支援画像では血管の解剖学的位置情報を確認することが主目的となる。動脈,門脈,静脈のコントラストが最も高くなる撮影法を検討するとともに,2mm以上の血管はエネルギーデバイスで焼灼しながら切離することが難しいため,できるだけ描出するように心がける。
術前3D-CTの撮影プロトコール1)は,肝臓の血行動態を踏まえて設定する。造影剤600mgI/kgを30秒注入,生理食塩水で後押しを行い,ボーラストラッキング法を用いてCT値150HU上昇で5秒以内に早期相を撮影し,その20秒後に門脈相を撮影,さらに20秒後に肝静脈相を撮影する。1 phaseあたり5〜6秒の撮影時間を想定している。
本プロトコールは,通常の肝胆膵の3 phaseダイナミックCTプロトコールと比べると,各phaseの撮影タイミングが早くなっている。この違いは門脈と肝実質のコントラストに影響する。両プロトコールの門脈と肝実質のCT値差を計測したところ,術前3D-CTは113.2HU,通常の3 phaseダイナミックCTは61.6HUであった。このCT値の違いによって,3D作成の際に血管の描出に大きな差が生じることになる。
さらに,画像再構成技術を活用し,手術支援画像ではノイズ低減を優先して,逐次近似再構成やDLR(Deep Learning Reconstruction)の強度を高く設定することで血管の描出能を向上できる。ただし,極端に強度を上げると空間分解能が低下するため注意が必要である。

2.検査の工夫
当院では,検査は基本的に呼気停止で行い,撮影前に呼気停止練習を行っている。位置ズレが生じた場合には,ワークステーションの非剛体補正処理を活用する。
肝術前3D-CTの撮影条件(例)は,管電圧:120kVp,管電流:AEC SD 14@5mm,撮影時間:5秒/1 phase,撮影スライス厚:0.5mm×80である。SD 14はFBPでの値のため,DLRで再構成すればSD値は抑制される。なお,体格が大きい被検者では線量が頭打ちになるため,管球回転速度を下げたり,ヘリカルピッチを小さくしたりすると撮影時間が長くなるが,インターバルを短くすることでタイミングを外さずに撮影することができる。
当院ではキヤノンメディカルシステムズ社製CTを使用しており,3D作成用画像再構成では,逐次近似応用再構成の「AIDR 3D Standard」や,DLR再構成の「AiCE Body sharp standard」を使用している。

3.手術支援画像の作成
本講演で提示する肝術前の手術支援画像は,ザイオソフトのワークステーション「REVORAS」を用いて作成している。肝動脈は早期動脈相,門脈は門脈相,肝静脈/肝実質/腫瘍は肝静脈相のデータを用いて別々に3D画像を作成する。また,別日に胆道造影検査を行い,胆管の3D画像も作成する。
次に,各パーツの3D画像を用いてフュージョン画像を作成する(図1)。肝動脈と門脈,胆管は束になって走行しており,グリソン鞘と呼ばれる。また,門脈と肝静脈のフュージョン画像も作成する(図2)。肝臓のvolumetryでは,肝機能に直接影響しない門脈,肝静脈,下大静脈,腫瘍は除外して計測する。こうして得られた手術支援画像を用いて,肝切除シミュレーションが行われる。

図1 グリソン鞘(動脈+門脈+胆管)のフュージョン画像

図1 グリソン鞘(動脈+門脈+胆管)のフュージョン画像

 

図2 門脈+肝静脈のフュージョン画像

図2 門脈+肝静脈のフュージョン画像

 

膵 臓

1.目的と撮影プロトコール
膵臓の切除術は,膵頭十二指腸切除術と膵体尾部切除術が圧倒的に多いため,これらを念頭に置いて術前3D-CT撮影,手術支援画像の作成を行う。撮影では動脈と静脈の描出が重要で,より細い血管の描出が求められる。
当院では血管の分岐形態を一目で把握できるようにするため,腹腔動脈(celiac)系,上腸間膜動脈(SMA)系,門脈系を分けてフュージョン画像を作成している。特に,胃や十二指腸,上行結腸,横行結腸の静脈が集まる胃結腸静脈幹(GCT)の情報は重要であり,しっかりと描出できるプロトコールを検討する。
膵臓の撮影プロトコール1)は,造影剤600mgI/kgを25秒注入とし,動脈相を早期・後期の2回撮影して,その15秒後に門脈相(5秒間)を撮影する。門脈相は上腸間膜静脈(SMV)からの灌流を待つ必要があるため,肝臓プロトコールよりもタイミングが少し遅くなり,開始60秒前後での撮影となる。

2.手術支援画像の作成
膵頭十二指腸切除術の手術支援画像では,下膵十二指腸動脈(IPDA)の描出が重要である。IPDAはSMA背側から分岐しており,空腸動脈と共通幹を成す場合もあるため,詳細に描出する(図3 a)。また,celiac根部が細く描出される場合があるが,これは正中弓状靭帯により圧迫され血流が遮断されている状態である(図3 b)。手術では圧迫を開放する必要があるため,必ず描出する。
膵体尾部切除術の手術支援画像では,腫瘍が総肝動脈(CHA)や左胃動脈(LGA)に接している場合は術式を変更する必要があるため,celiacの分岐や,腫瘍との位置関係を明確にすることは非常に重要である(図4 a)。また,SMA背側から分岐するIPDA系の動脈と膵十二指腸動脈アーケードがつながっていることを確認できる画像を提示することで,執刀医は安心して手術を行うことができる(図4 b)。

図3 膵頭十二指腸切除前における観察ポイント

図3 膵頭十二指腸切除前における観察ポイント

 

図4 膵体尾部切除前における観察ポイント

図4 膵体尾部切除前における観察ポイント

 

胆道系

胆道系の悪性腫瘍には,胆囊がん,胆管細胞がん,胆管がんがある。進行すると肝浸潤を来たすため,肝合併切除の可能性がある胆囊がんや,肝内に発生する胆管細胞がんの術前シミュレーションでは,肝術前3D-CTを撮影する。一方,胆管がんは発生部位によって術式が異なるため,腫瘍の発生部位によって撮影プロトコールを変える必要がある。肝門部領域胆管がんの術式は肝切除,中部胆管がんは肝切除の可能性があることから肝術前3D-CTを撮影し,下部胆管がんは膵頭十二指腸切除を行う可能性が高いため膵術前3D-CTを撮影する。
手術支援画像の作成では,肝門部領域胆管がんは,肝内胆管や右肝動脈に浸潤すると拡大右葉切除になることが多いため,グリソン鞘を描出することが重要である(図5)。執刀医からは,肝門部胆管や右肝動脈などの解剖情報と,肝門部胆管の分岐位置といった詳細な情報が求められる。

図5 肝門部胆管がん術前のグリソン鞘の描出

図5 肝門部胆管がん術前のグリソン鞘の描出

 

まとめ

術前シミュレーションの撮影は,手術を安全・正確に行うための検査であり,診療放射線技師としてできることはすべて行うべきである。術前3D-CTは,疾患と手術の種類を理解して,目的の手術に合致した撮影法を選択すること,また,検査目的を達成するために最適な撮影タイミングを考え,自施設の装置性能を理解し設定することが重要である。

●参考文献
1)原田耕平,他:肝悪性腫瘍切除術前3DCTにおける門脈総撮影タイミングの最適化. 日本放射線技術学会雑誌, 72(11):1098-1104, 2016.

 

原田 耕平

原田 耕平(Harada Kohei)
1995年 城西医療技術専門学校卒業。内科専門病院などを経て,2007年 札幌医科大学附属病院放射線部入職,2022年より同院放射線部係長。2013年 札幌医科大学大学院医学研究科,博士(医学)。

 

 

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