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線量管理システム「DoseChecker」の導入と運用経験について 
岩田 雄一(小清水赤十字病院医療技術部放射線技術課)小清水赤十字病院 × DoseChecker(ジェイマックシステム)

2019-10-29

被ばく線量管理ケーススタディ

導入の目的

当院は北海道の東,世界遺産知床を擁するオホーツク地方に位置し,近隣町村と合わせて2万人程度の医療圏にて地域医療を支える小さな施設で,2名の診療放射線技師と助手1名で日々の業務を行っている(図1)。
さて,医療法施行規則の一部改正により診療用放射線安全管理の指針が提示され,2020年4月から医療被ばくの線量記録と管理が義務づけられることになった。
被ばく線量が比較的高いと考えられる装置が対象で,その中にCTが含まれている。日本におけるCTの普及率は人口あたり世界一とも言われていることを考慮すると,多くの施設がその対象となり,当院もご多分にもれず,何らかの方法での対応が必要となった。当院のCT検査件数は1日あたり10件前後と,そう多くはないので手書きによる記録も可能だが,限られたマンパワーで複数モダリティを担当する多忙な現状,また,医療放射線安全管理責任者を診療放射線技師が担当することが決まっており,それに付随する業務量の増加,何より一般撮影装置などほかのモダリティにおいても同様の管理が推奨されており,今後それが義務化されると,業務負担が非常に大きくなることが予想されたので,線量管理システムにて効率的な記録・管理を行うべきだと考え導入を決めた。

図1 放射線技術課のスタッフ(左から,河村康広係長,杉本友恵助手,筆者)

図1 放射線技術課のスタッフ
(左から,河村康広係長,杉本友恵助手,筆者)

 

選定の経緯

線量管理システムの要件として求めたのは,(1) 医療法施行規則に定められた形式で記録ができること,(2) 診断参考レベル(diagnostic reference level:DRL)との比較が容易なこと,(3) 一般撮影などほかのモダリティからのデータが取り込め,将来的な拡張性があることで,これらについては,どのメーカーのシステムも十分に条件を満たしていた。当院ではジェイマックシステム社の「DoseChecker」を選択することとしたが,大きな決め手となったのがコストパフォーマンスの高さであった。線量記録・管理が義務化になったとは言え,運用による採算性を見込めないので,病院への経済的負担の緩和を考えると,導入コストを抑え費用対効果を高めることが必要条件となった。
DoseCheckerは,線量記録に必要な条件をクリアしつつ,機能をシンプルな構成とすることで安価での提供を可能にしており,経済的な観点からも環境構築が容易に実現できる。このコンセプトは,当院のニーズを十分に満たすものであった。
また,当院では以前からジェイマックシステム社製のPACSを使用しており(2019年8月にクラウド化),その実績と信頼性の高さも選定に至った大きな理由の一つである。

運用方法

2019年8月1日よりPACSの更新とともにDoseCheckerの運用を開始しており,今回は,CTのみを対象とした。画像データとRadiation Does Structured Report(以下,RDSR)をCTより出力し,簡易PACSサーバで受け取り,画像データはクラウドサーバへ,RDSRは簡易PACSサーバに保存しDoseCheckerでデータベースを管理するというシンプルなフローとなっている(図2)。

図2 当院の運用フロー

図2 当院の運用フロー

 

今回の規則改正では,被ばく線量を記録することだけではなく,それを管理することが求められているので,DRLを活用し各検査の最適化を実施しなければならない。その際に必要となるのが,被検者の体重情報である。DRLにおける標準体格の指標とされているので,当然その範囲のデータを抽出し比較検討を行わなければならない。
体重情報の取得方法についてだが,当院ではオーダリングシステムが導入されており,Modality Worklist Management(MWM)連携にてCT側に取得可能ではあるが,現時点で,オーダリングシステムによる患者体重の管理は行われていない。最新の情報が望ましいので検査直前に計測を行うが,PCへの入力作業が煩雑で看護師の業務負担増加が懸念され,オーダリングシステムでの運用を見送ることとした。
代替の方法として,検査を受ける患者に必ず手渡す「検査確認カード」に体重を記載し,それを診療放射線技師が受け取り,CT側に手入力する方法で運用している(図3)。例外として,透析患者については,ドライウエイトが設定されており,体重の変動による再入力の機会が少ないので,オーダリングシステムを活用することとした。

図3 検査確認カード a:病棟用で裏面に数値を記載 b:外来用

図3 検査確認カード
a:病棟用で裏面に数値を記載 b:外来用

 

次に,比較検討を行うには,蓄積された線量データをDRLで提示されている検査部位に則したカテゴリに分ける作業が必要だが,それについては当院ではCT検査の撮影プロトコールに基づいて選別を行っている。そのほか,体重,年齢,ファントムタイプ,スキャン方法の条件をプリセットとして登録し,データ抽出作業を簡略化している。

評 価

現時点で運用開始より2か月しか経過しておらず,十分な評価ができるほどの経験値が得られていないが,(1) 線量記録,(2) DRLとの数値的な比較,(3) 箱ひげ図や散布図・ヒストグラム表示による詳細な線量分布の把握,(4) 外れ値の検出機構,(5) 患者用レポート出力への対応といった被ばく線量の比較検討と最適化,患者への情報提供を行うのに必要な機能がそろっており,今後の安全管理業務の一助として十分に機能してくれると考えている。また,基本的な機能に特化した分,インターフェイスがシンプルで直観的,動作も機敏でストレスなく使用でき,使い勝手の心地良さを感じているところである。
DoseCheckerの機能とは異なるところの問題点として,肝臓ダイナミック検査における撮影範囲の相違が挙げられる。DRLでは,撮影範囲が肝臓のみとされているが,当院の撮影プロトコールでは,単純撮影(肝〜骨盤腔),動脈相,門脈相(肝のみ),平衡相(肝〜骨盤腔)を撮影している。特に,dose length product(以下,DLP)については撮影範囲によって数値が異なるため,当院の場合だと,DRLの線量よりも大きな値が算出されることとなる。RDSRに記述されている照射情報のみでは,そのギャップを埋めることができなかったので,この問題解決のために肝臓ダイナミック撮影については,市販のデータベースソフトウエア“FileMaker Pro”(クラリス・ジャパン社)を使用し,DRLに準拠した撮影範囲でのDLP算出システムを作成した。前後のデータの撮影範囲の差分を比較して門脈相のDLPを取得し,それに撮影回数を乗じて算出するシンプルな計算方法で,算出された数値は本来のDLPの近似値となってしまうが,比較検討には問題のないレベルと判断している。このように,基本性能以外のオプション的な解析については,市販の表計算ソフトウエアや統計解析ソフトウエアを利用して自ら対応することで,コストを抑制することも可能である。
今後は,一般撮影装置をFPD化する計画があり,それに合わせて一般撮影の線量記録を行う予定で,現在,その準備を進めている。
最後になるが,先述したとおり,DoseCheckerの最大の魅力は「コストパフォーマンスの高さ」にあると考えている。それぞれの施設の経済状況などで安全対策への理解度は異なるがコスト抑制は共通のテーマであり,そのような状況において,このシステムの存在価値は高いのではないかと考える次第である。

 

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(月刊インナービジョン2019年12月号 決定版!! 被ばく線量管理ケーススタディ)
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