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GPUで加速度的に進歩するAIと枠にとらわれない発想の融合が新たなものを創造して,これからのヘルスケアを支えていく大崎 真孝 氏(エヌビディア 日本代表兼米国本社副社長)

2018-7-17

大崎 真孝 氏(エヌビディア 日本代表兼米国本社副社長)

ヘルスケア分野においても,人工知能(AI)やディープラーニングといった新しい技術が活気を帯びている。この第三次AIブームの中,ひときわ注目を集めているのが,米国の半導体メーカー,NVIDIAである。同社のGPUプラットフォームが,ディープラーニング開発における事実上の標準環境となっており,ヘルスケアを含めたさまざまな領域のAIの進歩を加速させている。これからのヘルスケアを支えるためには,従来の枠にとらわれない発想と,広い視野でAIを活用することが求められている。

並列演算処理が可能なGPUがディープラーニング研究開発を加速

NVIDIAは,1993年にグラフィックス技術からスタートしました。近年はAI,特に自動運転車で一般にも知られるようになりましたが,われわれのコア技術は,コンピュータ技術を使ってあらゆるものを加速させるアクセラレーテッド・コンピューティングです。現在も事業の柱はグラフィックスのGPU技術ですが,これを科学技術計算に応用したGPGPU技術を確立し,2007年からソフトウエアプラットフォーム「CUDA」として提供を開始しました。以降,スーパーコンピュータやシミュレーションなどさまざまな分野に採用され,その延長線上にディープラーニング(AI)があります。
AI研究においてGPUが注目されたのは,2012年の画像認識コンテストImageNetでトロント大学のジェフリー・ヒントン教授のチームが,NVIDIAのGPUを採用したスーパーコンピュータで,前年まで少しずつ改善していたエラー率を一気に約10%改善したことがあります。これにより,GPUがディープラーニングに適していることが広く知られるようになり,現在では研究開発の事実上の標準環境となっています。AIは,非常に多くのデータを一挙に計算する必要があります。最大で十数個の計算コアを内蔵するCPUに比べ,GPUは最大で5120コアを内蔵し,膨大なデータを並列処理することが可能です。これがAIに最適である理由です。

同一のソフトウエアアーキテクチャを幅広い分野で用いるAI時代に最適な開発戦略

NVIDIAの開発戦略は,ひとつのGPUアーキテクチャに大きく投資し,それをグラフィックスからスーパーコンピュータ,ロボット,自動運転,医療分野などを含めたあらゆるAIに適応させることです。製品としては,グラフィックス向けのGPU「GeForce」,スーパーコンピュータ向けの「Tesla」,AI用の「DGX」,自動運転車用の「DRIVE」やロボットに組み込まれる「Jetson」など,さまざまな形で提供されますが,内部のGPUアーキテクチャは同一です。これにより開発効率が上がるとともに,同じGPUソフトウエアがすべての製品に載ることになります。
AIは,サーバ上のビッグデータで学習した内容を端末側のコンピュータに渡して自律的に動き,またその端末側のコンピュータで新たに得たデータをビッグデータに上げることで進化します。NVIDIAは,その両方で同じソフトウエアアーキテクチャを用いるという,AIの時代に最適な仕組みをつくりました。だからこそ,ソフトウエアにも非常に多くの投資をしています。NVIDIAの従業員1万2000人のうち8割がエンジニアで,そのうちの半数以上がソフトウエア部門です。また,ソフトウエアの開発者を支援する,エンジニアを育成するという活動にも力を入れています。現在,CUDAは世界中の約1000の大学講座で教えられており,そこで学んだ人たちが,いまのコンピューティング,AI技術を支えているのです。
もちろん最先端のGPUを開発することがNVIDIAの使命ですが,ソフトウエア環境を提供する活動も非常に重要です。われわれ自身は,NVIDIAを半導体メーカーとは思っておらず,プラットフォーマーであり,ある意味ではソフトウエア企業であると考えています。

既存の画像診断機器で最新コンピューティング技術を利用できる「プロジェクトClara」

ヘルスケア分野の取り組みに関しては,CUDA提供開始から毎年のようにイノベーションを起こしてきました。特にメディカルイメージングの領域は,グラフィックス技術を含めた並列演算処理に強みがあるNVIDIAの得意分野であり,CTの逐次近似再構成や超音波のビームフォーミングなどの技術にGPUが採用されています。
そして2018年,「プロジェクトClara」を発表しました。これは,NVIDIAのGPUサーバを従来のメディカルイメージング機器に接続し,画像の再構成処理や画像診断支援装置としてシステムに組み込むプロジェクトです。ポイントは,従来の画像処理部分とAIによる演算部分を切り分けることにあります。日進月歩で進化するAIと,画像処理部分では進化のスピードが異なるため,これを切り離すことで既存のメディカルイメージング機器でも最新のコンピューティング技術の恩恵を受けることができます。サービスとしては,医療機関内の小型サーバやクラウドを介して,AIを使った画像解析結果を提供するような方法をイメージしています。すでに,世界中の医療機器メーカーとプロジェクトをスタートしていますので,今後の発表にご期待ください。
また,スタートアップ企業を支援する「インセプション プログラム」の世界約2800社のパートナーのうち約300社がヘルスケア領域の企業です。この活動では,スタートアップ企業の技術やサービスを開発するための支援や,彼らの技術を発信するカンファレンスの開催,ビジネスマッチングなどを行っています。われわれは,AI技術からソフトウエアまで精通しているからこそ,AI開発に取り組みたい大手企業とAI技術を持つスタートアップ企業をマッチングすることが可能です。同時に,GEヘルスケアやキヤノンメディカルシステムズといった医療機器メーカーとの協業も,今後ますます伸ばしていきたいと考えています。医療機器とAIという異文化が結び付くことで,新しい価値が生まれると確信しています。

枠にとらわれない発想が新しいものを生むAIの時代

日本企業の強みは,ヘルスケア分野も含めて,やはりものづくりにあります。いま一度,日本のものづくりを世界に知らしめるためには,AIとの融合が必要であると日本企業の方々は考えています。NVIDIAの日本のスタッフは,プラットフォーマーとして日本企業を支援し,再びものづくりの日本を世界に示すため,力を尽くしていきます。
しかし,米国や中国と比べ,日本にはAIのエンジニアが少ないのが現状です。日本のインセプション パートナーは,全分野を合わせてわずか100社ほどで,そのリソースを市場で奪い合っている状況です。エンジニアが少ない理由は,データサイエンス,コンピュータサイエンスの教育の機会が非常に少ないことがあります。そのため,東京大学をはじめ多くの教育機関への支援にも力を入れています。
AIには,従来のサービスや技術の効率を上げることと,新たなものを生むことの2つが期待されます。なかでもヘルスケア分野はAIの得意領域であり,医用画像だけでなく創薬やゲノム,高齢者ケアなどさまざまな領域で,今後大きな役割を果たすと確信しています。また,画像診断機器が世界で最も多い日本は,AIに使えるデータ量が多く,AIの研究開発にとても有利な環境です。高齢化が進行し,世界一とうたわれる保険制度が崩れようとしているいまこそ,コンピューティングを用いて,新しい仕組みをつくっていくチャンスだと思います。
AIの時代には,分野を越えた異質な技術が結び付くことで,破壊的イノベーションが起こり,新たなものを創造する大きなチャンスがあります。それはヘルスケア分野も同様です。医療現場が持つ技術,知識を生かすためにも,医療とコンピューティング企業の接点を増やしていきたいと考えています。いま,人間が想像できることは,さまざまな技術により高い確率で実現できる可能性があります。従来の枠にとらわれない発想と広い視野で,これからのヘルスケアを想像していただきたいと思います。

 

(おおさき まさたか)
大学卒業後,1991年に日本テキサス・インスツルメンツ株式会社に入社。大阪でエンジニアと営業を経験した後,米国本社に異動し,ビジネスディベロップメントを担当。2014年,エヌビディアに入社。エヌビディア日本代表として,エヌビディア製品やソリューションの市場およびエコシステムの拡大を牽引し,日本におけるAIコンピューティングの普及に注力している。首都大学東京で経営学修士号(MBA)を取得している。

 

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