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生成AIなどのサービスを強化し医療の課題解決に貢献するためにお客様と会話して,声を聞く 
瀧澤 与一 氏(アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 執行役員 パブリックセクター技術統括本部長)

2024-3-15

瀧澤 与一 氏(アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 執行役員 パブリックセクター技術統括本部長)

グローバルでクラウドコンピューティングサービスを展開するアマゾン ウェブ サービス(AWS)は近年,医療機関のユーザーを増やしている。さらに,生成AIをはじめとした人工知能(AI)・機械学習(ML)のサービスを充実させており,文書作成の自動化による医療従事者の業務改善を支援するといった取り組みを加速させている。今後は,医療が抱える課題を解決するために,お客様との会話を通じて新たなイノベーションを実現し,より良い医療,患者体験の向上に貢献したい。

ナショナルセンターなど国内でもAWSユーザーが拡大

AWSは2006年に開始したクラウドコンピューティングサービスです。世界中の多様な業界がAWSを採用しており,日本でも数十万のユーザーが私たちのサービスを利用しています。その中でも,私たちは,医療をはじめとしたヘルスケアを重要な事業領域として位置づけています。特に近年,医療をはじめとしたヘルスケアにおけるAWSの利用が広がっており,ユーザー数も増えています。
例えば,国立がん研究センターをはじめとしたナショナルセンターもユーザーです。また,国立病院機構の「国立病院機構診療情報集積基盤(NCDA:NHO Clinical Data Archives)」もAWSを用いています。大学の事例では,藤田医科大学がPHR(Personal Health Record。個人が自ら保有し利活用する保健医療情報)基盤である「Fujita Healthcare Platform」をAWSで構築しています。2023年10月に開設された同大学の羽田クリニックでも,電子カルテと医療情報基盤をAWS上で稼働させました。これら以外にも,日本医師会の日医標準レセプトソフトのクラウド版「WebORCA」(日本医師会ORCA管理機構社)が,AWSを基盤に提供されているほか,オンライン診療事業者の多くが利用しているなど,日本国内でも豊富な実績があります。
さらに,私たちはクラウドだけでなく,AIのサービスにも力を入れています。社会全般でAIの活用が広がっていますが,医療においても今後普及が期待されています。特に,従来のディープラーニングに加え生成AIが登場したことで,医療での実装が急速に進んでいくと予想されています。医療におけるAIの活用として,例えば,画像診断では,ディープラーニングでトレーニングしたAIが医用画像から病変の候補を検出して,医師の診断を支援するといったことが,すでに行われています。また,生成AIについては,医療での応用について検討,実証を進めている状況です。医療分野は,各種の規制やガイドラインがあるため,今後は,法令順守やプライバシーの保護も含めて課題を解決して,どのように活用していくべきか,AIの可能性を模索しているところだと思います。

生成AIによる文書作成の自動化などで医師など医療従事者の業務を支援 

このような状況を踏まえ,私たちは生成AIの医療への応用を推進していくために,日本においても事業体制を整え,イノベーションを支援していきます。私たちは,生成AIが医療機関や医療従事者の抱える課題を解決できると考えています。例えば,現在進められている医師の働き方改革にも生成AIを役立てることができます。医師や看護師は,書類作成のために多くの時間を割いており,これが長時間労働の要因の一つになっていると言われています。そこで,生成AIを用いて書類を自動作成することができれば,時間短縮が可能になります。
生成AIによる書類の自動作成については,すでに実証実験に取り組んでいます。これは,藤田医科大学病院において,電子カルテの記載内容から退院サマリーを自動生成するというもので,生成AIサービスである「Amazon Bedrock」を使用しています。生成AIでは,トレーニングされた基盤モデルが重要となりますが,Amazon Bedrockは,目的に応じて最適なモデルを選択,使用することが可能です。藤田医科大学病院との実証実験では,Amazon Bedrockに電子カルテのデータを取り込み,退院サマリーを生成するためのプロンプトを与えて出力をさせて,良い手応えを得ています。私たちは,このようにAmazon Bedrockを利用することで,生成AIに関する専門的な知識がなくても容易に医療現場で業務改善をできるようにしていきたいと考えています。
一方で,海外においてもAWSの生成AI導入事例が増えています。フィリップス社は生成AIにより,医師の意思決定の支援に加え診断精度の向上,業務の自動化につながるサービスを展開しています。また,米国の医療情報システムベンダーである3M Health Information Systems(3M HIS)社は,臨床での文章作成において,生成AIを用いたソリューションを提供しています。これによって医師の業務の効率化や臨床能力の向上を図れます。
3M HIS社のソリューションには,医師と患者の会話を文章化し,要約して診療録を作成する会話型AIと生成AIを組み合わせた「AWS HealthScribe」が採用されています。AWS HealthScribeは,音声から話者が医師か患者かを特定して,会話の内容を分析して,SOAPで要約します。また,要約の正確性を容易に検証したり,医学用語を認識して文書作成や意思決定を支援したりできます。
このAWS HealthScribeは,診療録を作成する専用のシステムではなく,電子カルテベンダーがこれを用いて音声認識による診療録作成機能を実装させることができるというサービスです。今のところ日本での提供は未定ですが,デモンストレーションでは多くの方から高い関心を集めています。今後は,ニーズなどを探りながら日本での展開を検討しています。

データの活用を促進するためのサービスを提供

私たちは,AIを医療をより良くするためのテクノロジーとして,今後普及をさせていきたいと考えています。AIの開発には,データが重要となります。しかし,現状は,日本だけでなく世界を見ても医療に関するデータを十分に活用できているとは言えず,システムごとにデータが分散してしまっています。この分散しているデータを集積,分析して,新たな知見を得たり,AIの開発に利用したりできれば,医療が抱える多くの課題の解決を加速させることが可能です。
こうした状況を踏まえて,私たちは,医療機関や医療情報システムベンダーの抱える課題の解決に向けて,データ活用を促進するためのサービスを提供していきます。すでに海外では,前述したAWS HealthScribe以外にも,データの相互運用性を確保する「AWS HealthLake」,ゲノムなどのオミクスデータを保存・分析する「AWS HealthOmics」,大量の医用画像をクラウドで保存する「AWS HealthImaging」の提供を開始しています。

より良い医療,患者体験の向上に貢献するため,お客様と会話し,声を聞く

これからの日本は,超高齢社会が進むことで患者数が増加する一方,少子化に伴う生産年齢人口の減少による医療従事者の人材不足が深刻化していくと予想されています。このような状況の中,従来の枠組みの延長線上で医療を継続していくことは困難になると思いますが,テクノロジーの力で変えていくことができるはずです。医師の労働時間を短くしても,今までと同じ,あるいは従来以上の医療サービスを提供し,患者と向き合う時間を増やすことができれば,患者体験も向上します。これを私たちのテクノロジーで実現できれば,ビジネスも成長していきます。生成AIやクラウドなど,私たちのテクノロジーに対する医療現場のニーズは非常に多くあります。ニーズが多いことは,私たちのサービスを拡充する大きなチャンスになります。
私たちはこれまで,医療従事者などのお客様の声を聞き,多くのイノベーションを実現してきました。そして,私たちのテクノロジーを用いて,医療に変革をもたらしているお客様も多くいます。そのようなお客様を増やしていくことが,医療を改善し,患者体験を向上させ,ひいては社会全体をより良くしていくことにつながるはずです。これからもお客様と会話し,声を聞いていきたいと思います。

 

(たきざわ よいち)
国内大手システムインテグレータで20年間,大規模なシステム設計・プロジェクトマネジメント,キャリアグレードネットワーク,セキュリティ,クラウドなどの技術開発を経験した後,2014年にソリューションアーキテクトとしてAWSにジョイン。2015年にエンタープライズソリューション本部長,2019年にスペシャリストチームの本部長を経て,2021年よりパブリックセクター技術統括本部長。2023年より同執行役員。中央省庁,自治体,教育機関,ヘルスケアを含む公共のお客様のクラウドによる変革をサポート。独立行政法人情報処理推進機構(IPA)クラウドサービスのセキュリティ対策(ISMAP)に係る管理基準WG委員などを務める。著書に「Amazon Web Services企業導入ガイドブック」など。