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PHRやAI問診などモバイルデバイス向けアプリを用いた患者サービスの向上榊原 祥裕(公益財団法人 操風会 岡山旭東病院 IT推進センター,情報システム室)

2022-3-1

榊原 祥裕(公益財団法人 操風会 岡山旭東病院 IT推進センター,情報システム室)

医療や介護の現場において,タブレットやスマートフォンなどの利用が進んでいる。本シリーズでは,毎回,モバイルデバイスを有効活用している施設の事例を取り上げる。シリーズ第15回は,岡山旭東病院の榊原祥裕氏が,患者サービス向上を目的としたモバイルデバイス向けアプリの活用の取り組みについて解説する。

はじめに

当院は早い段階からICTの利活用を積極的に推進してきた。2003年に初代電子カルテを導入して,2年後には一部を除きペーパーレス運用に切り替えている。2012年3月に2代目電子カルテ(富士通「HOPE EGMAIN-GX」)に更新。2019年11月には,3代目の電子カルテ(富士通「HOPE EGMAIN-GX V8」)に更新した。1年後の2020年11月には,近くにあるグループ病院と光専用線で結んで,電子カルテの統合も実現している。ここ数年はICTを活用したスマートフォン向けのサービス提供に注力しており,いくつか事例を紹介したい。

PHRアプリで自分の医療情報を閲覧可能に

スマートフォン向けサービス第1弾として,2019年9月に導入したのがPHRである。PHRとはPersonal Health Recordの略で,患者さんが自らの医療情報を収集して,一元的に保存する仕組みを指す。「医療情報は患者さんのもの」というのがPHRの基本コンセプト。当院が導入したのはクラウドPACSを手掛けているNOBORIのPHRサービスである。専用のスマートフォンアプリをダウンロードして,名前,生年月日などの基本情報を登録。一度受付窓口で本人確認をした上で電子カルテとひも付け処理をすると,自動的に電子カルテから予約情報,検査結果,処方情報,画像情報がNOBORIのクラウドサーバに送信され,スマートフォンで自由に閲覧することができるようになる(図1)。2021年12月末時点の登録者数は約950人。まだPHRという概念が十分普及していないが,実際に使用している患者さんの評価は良好である。
家族の情報も登録して,操作が難しいお年寄りの代わりに情報を管理してあげることも可能である。また,NOBORIのPHRサービスが導入されていない医療機関を受診した際に,診察室にインターネット接続可能な端末があれば,15分という時間限定で医療情報を医師に見てもらうことができる機能もあり,今後の地域医療連携にもPHRが重要な役割を果たしてくれると考えている。

図1 NOBORIのPHRサービス

図1 NOBORIのPHRサービス

 

紙の問診票からタブレットによるAI問診へ

日々多くの初診患者が来院される中,外来診療での問診業務にかかわる職員の負担は大きいと感じていた。(1) 受付で患者に問診票を手渡す。(2) 患者は問診票に手書きで記入を行う。(3) 問診票を受付に返却し,受付は記入内容を確認し読めない字がないかなどチェックする。(4) スキャン取り込みを行う。(5) 看護師はスキャン画像を見て診察医師への割り振りを行う。(6) 診察室で医師(または医師事務作業補助者)はスキャン画像を見ながら電子カルテに問診内容を入力する,という作業が必要であった。これらを少しでも効率化したいと考えて導入したのが,Ubieが提供するAI問診システム「Ubie」である。タブレット端末に表示される問診内容に患者さん自身がタップしながら回答していくと,AIが自然言語処理にて問診結果をカルテはり付け可能なテキストにしてくれる仕組みである(図2,3)。

図2 AI問診Ubie(問診入力)

図2 AI問診Ubie(問診入力)

 

図3 AI問診Ubie(問診結果)

図3 AI問診Ubie(問診結果)

 

2020年1月に紙の問診票をすべて廃止して,全診療科対象に5台のタブレット端末での運用を開始。当初は診療科によって問診精度にバラツキが見られたが,複数医療機関で共同利用するクラウド型のAIサービスであることもあり,問診精度は急速に上がってきている。どうしてもタブレットに抵抗のあるお年寄りにはコンシェルジュや受付職員が寄り添って対応しているが,意外にも紙に手書きするよりタブレットの方が楽という意見も多く聞かれている。
AI問診の導入により,受付でのスキャンが不要になったり,医師や医師事務作業補助者が従来スキャンされた問診画像を見ながら文字起こしをしていた作業が不要になったりするなど,随所で効率化されたことにより,導入前後で初診の診察待ち時間が7%,病院滞在時間が11%短縮されるという結果が出ている(表1)。

表1 AI問診導入前後の時間比較

表1 AI問診導入前後の時間比較

 

来院前問診機能で問診を自宅ですませてから病院へ

2020年6月にはAI問診の拡張機能である来院前問診(現在のスマートフォン問診)を導入。病院ホームページに来院前問診のページを用意していて,手持ちのスマートフォンなどで事前に問診を行うことができる。内容は病院で使っているAI問診と同じで,最後に専用の番号が表示される。その番号をメモするか,スクリーンショットを撮影して病院の受付で提示すると,電子カルテの患者番号とひも付けされて,電子カルテから閲覧することが可能になる仕組みである。
当院では外来の患者さんが朝の受付開始時間前に集中することもあり,患者さんには待っている間にスマートフォンで来院前問診をやってもらい,受付の混雑緩和や問診用タブレット待ちの回避に役立っている。

病院公式アプリを作成して患者サービスをスマートフォンに集約

2021年7月に,病院公式アプリ「旭東San」をリリースした(図4)。病院側にはアプリ開発のノウハウが不足していたため,地元の企業とコラボレーションして開発を行った。メインの機能は外来待ち状況で,すでに待合に複数設置している外来待ち状況表示用のサイネージの映像信号を分岐してクラウドサーバに配信して,アプリから見られるようにした。混雑する待合で長時間待つ必要もなく,院内の好きな場所や駐車場などでリラックスして待つことができ,待合の混雑緩和を図れて感染対策にもなっている。
さらに,アート案内の機能を使うと,アートと医療の融合をコンセプトにしている当院自慢のアート作品の数々をアプリから楽しむことができるようにもなっている。院内にある100以上の作品のうち,約40の作品がアプリに対応している。アート作品横のQRコードを読ませるとスマートフォン上の院内マップに現在地が表示されたり,作品概要が表示されたりするような仕組みもあり,アート作品を求めて院内を散策しながら,待ち時間を快適に過ごしてもらう工夫もしている(図5)。
すでに紹介したNOBORIのPHRサービス,AI問診Ubieのほかにも,自宅で動画を見ながらリハビリできるWebサービス「リハサク」やオンライン診療など,既存のサービスをアプリ内に集約している。そのほか,ドック予約,イベント申し込み,治療法の説明,病院オリジナルYouTube動画など,従来バラバラになっていたサービスをアプリに集約することで,患者さんの利便性を向上させている。病院公式アプリという患者サービス提供のための土台は完成したので,今後はコンテンツを拡充させながら,さらなる患者サービスを追求していきたい。

図4 公式アプリの旭東San

図4 公式アプリの旭東San

 

図5 アート案内と院内マップ

図5 アート案内と院内マップ

 

(さかきばら よしひろ)
1998年に徳島大学総合科学部(英語学専攻)を卒業。富士通株式会社の医療担当SEを経て,2003年より岡山旭東病院勤務。2018年より情報システム室室長。2021年よりIT推進センターCIO,法人本部IT戦略室長。上級医療情報技師。岡山県医療情報技師会会長を務める。

 

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