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新型コロナウイルス感染症診療におけるモバイルデバイスの活用草深 裕光(社会医療法人 蘇西厚生会 松波総合病院 副院長)

2022-7-1

草深 裕光(社会医療法人 蘇西厚生会 松波総合病院 副院長)

医療や介護の現場において,タブレットやスマートフォンなどの利用が進んでいる。本シリーズでは,毎回,モバイルデバイスを有効活用している施設の事例を取り上げる。シリーズ第16回は,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療におけるモバイルデバイスの活用について,松波総合病院の草深裕光氏が報告する。

はじめに

新型コロナウイルスに対する感染対策の基本は,接触・飛沫予防策であり,COVID-19患者だけでなく,発熱や上気道炎症状がある患者,濃厚接触者など,COVID-19が疑われる場合も同様である。さらに,COVID-19では,発症前から感染性があることや無症状陽性者の存在が知られており,感染リスクの低減には,接触自体の回避が有用であり,オンライン化がキーワードとなる。

オンライン環境の構築

オンライン化には,インターネット接続,デバイス,アプリケーション(App)を含むシステム構築に加え,活用場面に応じた運用を検討する必要がある。当法人でのオンライン化対象(図1)は,入院患者やその家族,外来患者,外部関係者,職員などで,場所,内容も多様であり,システム構築に当たっては,基幹ネットワークの活用(VLAN),iPhone/iPadと“FaceTime”(アップル),“Webex”(シスコシステムズ)の組み合わせを基本に,“FileMaker”(Claris)を用いて必要なAppを開発している。また,COVID-19の急拡大により即時の対応が求められる一方,業者への依頼,機器の入手は容易でなく,既存インフラや汎用デバイス,App,Webの活用に加えて,Appの院内開発,運用マニュアルなどの情報共有による迅速なスタートを優先している。
現時点で,新型コロナ関連で使用中のiPadは,オンライン面会4,オンライン診療4,栄養指導1 ,発熱外来10,AI問診10,COVID-19専用病棟29(患者用25,スタッフ用4) の合計58台である。

図1 COVID-19診療におけるオンライン化の対象

図1 COVID-19診療におけるオンライン化の対象

 

オンライン化

2020年4月以後,最初にオンライン化へ取り組んだのは,発熱外来とCOVID-19入院病床であった。発熱外来では,AI問診“Ubie”(Ubie)による来院前問診,スマホ問診とFaceTime診察,COVID-19専用病床では,AppとiPadを組み合わせたオンラインケア(図2)である。また,オンライン面会・面談は,iPadと面会場所を確保するための予約システム(FileMaker)とともに運用し,面会禁止に対応した。
オンライン診療・栄養指導は,iPadとFaceTime/Webexの組み合わせで開始した。当院には,150人以上の医師が在籍し,インターネット接続,電子カルテ入力,一般診察との混在,医師や端末の特定困難などから,デバイスはiPadを選択した。ただし,診察日にiPadを確保する必要があり,予約App(図3)を開発し運用している。また,会議や委員会,カンファレンスは,Webexミーティングへ順次移行した。

図2 オンラインケア用App for iPad

図2 オンラインケア用App for iPad

 

図3 オンライン診療の予約App

図3 オンライン診療の予約App

 

iPhoneの導入

当院では,2021年1月のPHS公衆サービスの停波に先行し,2年ほど前から代替器の検討を進めてきた。さらに,電子カルテ(看護支援)端末のPDAが生産中止となり,同年3月の電子カルテ更新に伴い代替が必要となった。この代替条件を満たし,MDM(Mobile Device Management)が可能で,OSの継続利用,FileMakerで開発したAppが活用できる点から,iPhoneが最適と判断,同年2月から,iPhone 8を800台,順次導入した。iPhoneは,すべての医師,各部署管理者などを配布対象とし,PDA代替に80台を配置した。この80台には,ジャケットを装着,NFC,バーコード認証,患者,注射薬認証,バイタイルサイン入力,カルテ記載,写真撮影と登録が可能である(図4)。

図4 iPhone 8:電子カルテ(看護支援)端末

図4 iPhone 8:電子カルテ(看護支援)端末

 

iPhone基本設定

携帯キャリアは,無料通話とパケット付きでソフトバンクと契約,MDMは“LANSCOPE”(エムオーテックス)を使用,クラウドPBXとFMC(Fixed Mobile Convergence)機能を持つ“ConnecTalk”(ソフトバンク)を導入し,iPhoneからの内線・外線通話を可能とした。外線発信は,交換機経由限定とし直接ダイアルによる外線発信は制限している。iPhone上の連絡先は,“電話帳配布”App(ソフトバンク)を使用して,最新版への更新が可能である。また,インターネットには,公衆回線(4G)経由以外に,OSのアップデートやテレビ会議用に医局などの専用回線を増強し,Wi-Fi接続を可能にした。なお,Wi-Fi接続先やAppは,ユーザーによる追加,変更ができない。

iPhoneの活用

iPhoneから,病院代表電話番号を表示して外線発信が可能となり,交換手の通話中対策に有用で,医師はiPhoneから検査結果や病状説明が可能となり,ストレスが軽減した。また,全員参加の医局会やオンライン会議用の個人端末としても活用している。
COVID-19診療では,入院だけでなく発熱外来,ワクチン接種,濃厚接触者への対応など新たな業務が発生するため,速やかに運用を決定,周知した上で実施し,修正していく必要がある。これらのプロセスにおいて,従来の紙,電子メール,基幹系PCでは,確認に時間を要し,コミュニケーションエラーが生じやすい。 そこで,病院公式Appとして“Dr.JOY”(Web/スマートフォン対応)を選択,グループチャットによる議論と意思決定に加えて,関係者への周知に使用することで,コミュニケーションの改善や迅速な情報共有に役立っている。COVID-19が院内発生すると,濃厚接触者の同定,スクリーニング検査,就業制限の実施に加えて,診療制限や入退院,手術などの予定変更,患者や家族への説明を行う必要がある。また,COVID-19の発生は,通常勤務帯とは限らず,院外の医師への連絡が必要となるため,iPhoneの持ち帰りとDr.JOYの確認を依頼している。
COVID-19ワクチン職域接種では,武田・モデルナのワクチンが使用されたが,解凍後のワクチン保管(2〜8℃)は一般用冷蔵庫であり,温度管理に課題があった。そこで,LPWA(Sigfox:京セラコミュニケーションシステム)通信可能な温度計と“FileMaker Cloud”,“Claris Connect”(Claris)をプラットフォームとし,温度を遠隔モニタリングする「IoT温度管理システム」(図5)を開発した。庫内温度は iPhoneで確認でき,温度範囲の逸脱,計測値の未送信,電池残量低下は,管理担当者に SMS で通知され,ワクチンの損失を防止している。なお,Claris Connectから法人向け有料SMS送信サービスの「メディア SMS」に接続してSMS送信することで,キャリアやデバイスにかかわらず,大量送信や長文にも対応できた。

図5 IoT温度管理システム

図5 IoT温度管理システム

 

終わりに

今後も,変化の激しいCOVID-19に対して,モバイルデバイスの活用に加え,Appを自院で開発することで,新たなニーズに迅速に対応していきたい。

 

(くさふか ひろみつ)
1984年名古屋大学医学部卒業。新生会第一病院,名古屋掖済会病院を経て91年から名古屋記念病院,2019年から松波総合病院内科,副院長。イノベーション推進本部長,情報・システム統括部長,FMDセンター長,データセンター長,診療支援部部長を兼務。Fellow of the American College of Physicians(FACP),J-SUMMITS副代表。

 

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