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島津製作所,NEDOと開発の乳房専用PET装置「Elmammo(エルマンモ)」薬事承認取得,発売開始〜被検者の負担を軽減,診断精度を向上〜

2014-9-4

図1:乳房専用PET装置 Elmammo(エルマンモ)

図1:乳房専用PET装置 Elmammo(エルマンモ)

NEDOが,2006年度から(株)島津製作所などと共に4年間実施したプロジェクト※1の成果をもとに,島津製作所は乳房専用PET※2装置「Elmammo(エルマンモ)※3」を製品化し,8月19日に薬事承認(製造販売承認)を取得した。9月4日より販売を開始,年間10台以上の販売を目指す。

Elmammoは,直径185mmの検出器ホールに乳房を入れるだけで検査でき,乳房を挟むマンモグラフィや従来の乳房専用PET装置のように被検者に痛みを与えることがない。また,全身用PET/CT装置と比較し,解像度を約2倍,感度を約10倍に向上。これまでの全身用PET/CT装置では難しかった小さな乳がんの診断が可能になった。

さらに,装置デザインも,より安心・安全な受診に配慮した上に,女性の意見を採り入れた。
本装置は,抗がん剤効果確認などへの利用が見込まれるほか,乳がん診断薬,治療薬の開発にも寄与し,乳がんの対策に貢献することが期待される。

検査イメージ

検査イメージ

 

1.概要

乳がんは近年特に,罹患率・死亡率が増加傾向※4にあり,精度の高い乳房検査法が求められている。
乳がん診断の一手法として,放射性薬剤を用いた全身用PET/CT装置が利用されているが,小さな乳がんに集積した薬剤分布を全身用PET/CT装置で捉えるには,感度と解像度の点で限界があった。そこで,これらの課題を克服できる小型センサーを開発し,このセンサーを組み込んだ乳房専用のPET装置を完成させた。これにより,全身用PET/CT装置よりも高精度な乳がん診断を支援する。

図2:ファントム模型による画像の比較

図2:ファントム模型による画像の比較

 

2.製品の特長

痛みのないやさしい検査の実現

本装置は,寝台部上部に直径185mmの検出器ホールが一つ開いているシンプルな構造であり,検査時にはうつ伏せで片側の乳房をホールに入れて撮像する。マンモグラフィとは異なり,乳房を挟む必要がないため痛みがない。
島津製作所は本装置を製品化するにあたり,女性に安心して検査を受けてもらうことにこだわり,寝台の高さを乗り降りと介助のしやすさを考慮した670mmとし,寝台周りにやさしいカーブを施した。うつ伏せでも姿勢を保ちやすいようにマットに硬軟ダブル素材を採用し,顔を乗せる部分にはくぼみを設けるなど,構造についても工夫している。

高感度な検出器で精度向上

本装置では,乳房の周りに円周状に近接して検出器を配置。検出器にはガンマ線に対して高い発光効率を持ったLGSO(ケイ酸ルテチウムガドリニウム)シンチレータ※5を使用している。
この装置は,上記のように,効率のよい検出素子を,より乳房に近接させることで高感度化し,全身用PET/CT装置よりも精度の高い検査を行うことができるようになった。

高精細な3次元画像の取得

画像解像度を上げるため,ガンマ線を受ける検出素子を小さくし,本装置では1.44mm×1.44mmという「臨床用PET装置として世界最小サイズ(2014年9月現在)」のシンチレータ(図3検出器)を採用することで,空間分解能1.5mm以下の高い解像度を実現し,乳房における薬剤分布の詳細な観察を可能にした。本装置では,片側5~7分間の検査中,乳房の痛みがないため被検者が静止し続けることが容易で,またうつ伏せ体位で検査できることで呼吸による体動の影響を受けにくいことも鮮明な画像を得られることに貢献している。
このようにして,本装置では高精細な3次元断層画像が得られる。MRIなどの形態画像との対比や融合によって,乳がんの解剖学的な位置関係を観察でき,またPET画像と病理データとの比較などにも利用が見込まれている。

図3:検出器外観

図3:検出器外観

 

3.今後の展開

(株)島津製作所では,乳房専用PET検査の保険適用を受けて,全身用PET/CT装置を保有する病院や施設に対して「Elmammo」の販売を進め,乳房画像診断分野における地位を確立していく。また,現在では,全身用PET/CTと同日に使用することが,保険適用条件となっているが,将来は本装置単独の利用で,乳がん診断に寄与することを目指す。現状,乳がん手術前に投与される抗がん剤などの効果は,長い時間をかけないと判定できず,患者の精神的体力的な苦痛の原因となっているが,今後は乳房専用PETにより,早期に薬剤の効果判定を可能とすることで,効率的な治療ができることが期待される。さらに,将来の治療薬,検査薬の開発に寄与し,乳がんの早期診断・治療にも貢献したいと考えている。

 

※1「分子イメージング機器研究開発プロジェクト/悪性腫瘍等治療支援分子イメージング機器開発プロジェクト/悪性腫瘍等治療支援分子イメージング機器の開発」(2006~2009年度)
※2 陽電子放射断層撮影装置
※3 2014年1月プロトタイプとして薬事承認取得しているが,外観デザインを一新し,薬事一部変更手続きを取得。
※4 乳がんの罹患率・死亡率:
乳がんの発生は,20歳過ぎから認められ30歳代後半ではさらに増え,40歳代後半から60歳代前半にそのピークを迎える。女性のがん罹患データでは,乳がん以外のがん罹患者数の伸びが緩やかであるのに比べて乳がん罹患者数は著しく増加している。乳がんの10年生存率は,0期で95%,IIIa期では58%,IV期では25%にまで落ち込む。乳がんはまさにその早期発見・治療が命を守ることにつながるため,精度の高い診断法が求められている。
※5 シンチレータ:放射線の入射により、光を発する物質。

 

●問い合わせ先
(株)島津製作所 医用機器事業部 グローバルマーケティング部 販売促進グループ
TEL 075-823-1271
http://www.med.shimadzu.co.jp/

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