innavi net画像とITの医療情報ポータルサイト

ホーム

国立健康危機管理研究機構とNEC,AIにより医師の電子カルテ操作を支援する技術の有効性を確認~ユーザビリティの向上と作業の負荷軽減に貢献~

2025-11-21

国立健康危機管理研究機構と日本電気(株)(以下 NEC)は,AIを活用した医師の電子カルテ操作を支援する技術を共同開発し,有効性の評価を行った。その結果,電子カルテ操作に伴うマウスの操作時間は約84%減少し(NEC確認),開発技術がユーザビリティの向上と作業負荷軽減に貢献することを確認した。本技術は,国立健康危機管理研究機構 医療情報管理部(旧国立国際医療研究センター 医療情報基盤センター)とNECの共同研究チームによる臨床課題に基づく着想と,AI技術の活用によって実現した次世代の電子カルテを支える新しい技術である。

電子カルテの画面上にタイル形式で表示された次の操作候補イメージ

電子カルテの画面上にタイル形式で表示された次の操作候補イメージ

 

背景

少子高齢化による労働力の減少が進むなか,医療現場でも人手不足が深刻化している。また,患者数の増加に加え,医療の高度化や患者サービスの多様化などにより,医療従事者への負担が増大している。このような状況において医療現場では,業務効率化への取り組みが重要になっている。一方で,診療行為に不可欠な電子カルテの入力操作は,安全性への配慮とシステムの多機能化が相まって,多くの時間を要することが課題となっている。

国立健康危機管理研究機構とNECは,医療DX推進の取り組みの一環として,2021年に「医師の思考過程を学習するスマートカルテに向けた基礎研究」を開始した。今回,本研究のテーマの一つである「操作ログからAI生成されたパーソナライズスマートメニュー」に関して,共同開発した技術の有効性を評価した。

共同開発した技術について

両者は,医師の電子カルテ操作ログをAIによって分析することで,次に実行すると予測された操作の候補を,電子カルテの画面上にタイル形式で表示する技術を開発した。本技術には,一連の操作を自然言語の文脈のように処理することで,各操作の前後の関係性を学習するTransformerモデル(注1)を活用している。これにより,従来のモデルでは単純に過去の操作履歴から利用頻度の高い操作を提示していたのに対し,個人の操作全体の流れから予測した次の操作候補を高精度に提示することができる。

評価の概要と成果

期間:2024年10月~2025年10月

内容:共同開発した技術の有効性を,国立健康危機管理研究機構において評価した。具体的には,国立健康危機管理研究機構 国立国際医療センターが有する過去2年分の電子カルテ操作ログを分析し,ユーザーにとって最適な操作候補メニューをAIモデルにより予測して評価環境の電子カルテ画面上に表示した場合の操作時間を算出した。本技術の利用有無でのユーザーの電子カルテ操作時間や内容を比較することで,業務効率化への影響を評価した。
成果:評価の結果,ユーザーの思考に沿った操作候補が提示されることで電子カルテ操作に伴うマウスの操作時間が約84%減少した。これらの成果から,開発技術がユーザビリティの向上と作業負荷軽減に貢献することを確認した。

国立健康危機管理研究機構は,先端技術を活用した革新的な研究開発に取り組んでいる。これらの研究成果の実用化を通じて,医療従事者の負担軽減による持続可能な医療体制の構築を目指し,最善の総合医療を提供していく。

NECは,本評価を通じて得られた知見をもとに,今回開発した技術を将来的に電子カルテシステム「MegaOak/iS(メガオーク アイエス)」に実装し,提供することを目指す。また,病名や診療科などの情報も参照することで予測精度の向上を図る。
今後も国立健康危機管理研究機構との共同研究を進め,場所や入力インターフェースの制約を受けない,スマートカルテの実現に向けた取り組みを推進していく。

なお,両者は本研究の成果の一部を,先般開催された「第45回医療情報学連合大会」(2025年11月12日(水)~15日(土),於:兵庫県姫路市)(注2)にて発表しており,今後は「IEEE International Conference on Bioinformatics and Biomedicine」(2025年12月15日(月)~18日(木),於:中国・武漢)(注3)においても紹介する予定。

(注1)AIが文章を理解したり作成したりするための自然言語処理分野で広く利用されるモデル。文章において,単語間の関係性を捉える機能を有しており,離れた単語同士の関係も理解が可能。
(注2)第45回医療情報学連合大会
https://jcmi45.org/index.html
(注3)IEEE International Conference on Bioinformatics and Biomedicine
https://biod.whu.edu.cn/bibm2025/

 

●問い合わせ先
国立健康危機管理研究機構 システム基盤整備局 医療情報管理部 部長 美代賢吾
TEL:03-5273-5297
E-Mail:cmii-info@jihs.go.jp

NEC 医療ソリューション統括部
E-Mail:press@med.jp.nec.com