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富士フイルム,肝臓領域における術中向けソリューションを新開発AI*1技術で肝臓内部の構造把握を支援 外科手術のワークフローの効率化を目指す

2025-12-10

富士フイルム(株)は,外科手術中の肝臓内部構造の把握を支援する,AI技術を活用した2つの技術「肝臓3D画像連動AI技術」と「超音波画像重畳AI技術」を新たに開発した。これらの技術により,肝臓の外科手術におけるワークフローの効率化と均てん化への寄与を目指す。
「肝臓3D画像連動AI技術」は,内視鏡映像内の肝臓に合わせて,手術前に作成した肝臓の3D画像を同じ向きに自動で回転させ,同一モニター上で参照できるようにすることで,肝臓の表面からは観察することが難しい肝臓内部の血管構造や腫瘍の位置などの把握をサポートする技術。「超音波画像重畳AI技術」は,「腹腔鏡下手術」や「ロボット支援下手術」の際に行われる術中超音波検査において,腹腔鏡やロボットの内視鏡映像内の超音波プローブの位置や方向を解析し,超音波画像を内視鏡映像上に重畳表示することで,直感的な超音波画像の理解をサポートする技術である。同社が開発したARマーカー(Augmented Reality Marker:拡張現実技術を活用するための目印)付き超音波プローブと組み合わせて使うことで,術中超音波検査の手技を支援する。今後,富士フイルムは,これらの技術を搭載したソフトウェア製品を早期に発売することで,肝臓領域における外科支援市場に新たな価値を提供する。

肝臓3D画像連動AI技術

肝臓3D画像連動AI技術

手術中に観察する肝臓の内視鏡映像(左)と,手術前に作成された肝臓の3D画像(右)を同一のモニター上で同じ向きに自動で回転・表示

 

超音波画像重畳AI技術

超音波画像重畳AI技術

手術中の肝臓の内視鏡映像に重ねて,腹腔鏡下のプローブによって得られる超音波画像を表示

 

肝臓がんは,国内で毎年約35,000人が罹患し,がんの中でも罹患数,死亡数が多い疾患の一つ*2。肝臓の手術は解剖学的に難しく,手術時間が長時間(6~7時間)に及ぶことがある。肝臓がんの切除手術では,より良い予後のため,腫瘍部位を確実に取り除きながらも,なるべく多くの肝臓を残すことが重要である。しかし,肝臓の内部は複雑に血管が入り組んでおり,肝臓内部の構造や腫瘍部位を肝臓の表面から確認することが困難。安全で確実な手術を行うために,医師は手術前にCTやMRIなどの画像から肝臓の立体的な構造を再現することで,肝臓の体積,腫瘍の大きさ・位置,血管の走行などを3次元的に把握しながら手術のシミュレーションを行う。
このように手術前にシミュレーション画像を作成する技術が確立されている一方で,実際の手術中においては,医師は手術台から離れたパソコン上で事前に作成したシミュレーション画像を見るなどしており,手術中にその場で簡単にそれらの画像を確認できる方法が求められてきた。
また,近年では,患者への負担が少ない,腹部に小さな穴をあけて行う「腹腔鏡下手術」やロボットを使った「ロボット支援下手術」の手術件数が増えている*3。そうした手術では,肝臓の表面からは見えない血管や腫瘍の位置を確認するために,術中超音波検査が行われているが,医師は手術中に観察する内視鏡映像と,超音波画像を同時にそれぞれ別の画面で見る必要があった。さらに,超音波画像に映った血管や腫瘍が,内視鏡映像のどこにあるかを頭の中でイメージしながらプローブを走査する必要があり,術者には高度な技術や豊富な経験が求められる。そのため,手術中に超音波プローブ走査や画像の確認をより簡便に行える技術が望まれていた。

今回開発した「肝臓3D画像連動AI技術」を活用することにより,簡便に3D画像を確認できるようになり,手術中の3D画像の操作の手間を減らすことで,医師の手術におけるワークフロー効率化への貢献が期待される。
もう一つの「超音波画像重畳AI技術」は,同社が開発したARマーカー付き超音波プローブと組み合わせて使うことで,術中超音波検査の手技をサポートする技術。ARマーカーを用いて,腹腔鏡やロボットの内視鏡映像内の超音波プローブの位置や方向を解析し,超音波画像を内視鏡映像上に重畳表示することで,直感的な超音波画像の理解を支援する。本技術を活用することにより,見やすさ・ユーザビリティが向上し,術者の習熟度に依らない,手技の均てん化が期待される。

富士フイルムは,AI技術ブランド「REiLI」のもと,医療画像の診断支援,医療現場のワークフロー支援,そして医療機器の保守サービスに活用できるAI技術の開発を進めるとともに,医療機関にとって最適な提供方法・利用環境を実現することで,検査の効率化と医療の質の向上,人々の健康維持増進に貢献していく。

*1 AI(人工知能)技術のひとつであるディープラーニングを設計に用いた。導入後に自動的にシステムの性能や精度が変化することはない。
*2 国立研究開発法人国立がん研究センター / https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html
*3 伊藤心二, ロボット支援下肝切除術の現状, 肝臓64巻12号, 2023

1. 主な特長

(1)肝臓3D画像連動AI技術
手術中に観察する内視鏡映像から肝臓の向きを解析し,事前に作成した肝臓の3D画像を内視鏡映像と同じ向きに自動で回転・表示する。肝臓の表面からは観察することが難しい肝臓内部の血管構造や腫瘍の位置などの把握をサポートする。

手術中に,手術台から離れたパソコン上で事前に作成したシミュレーション画像をみる従来のワークフローと,内視鏡映像とシミュレーション画像を自動連動させて同一モニター上で確認する本技術を用いたワークフローを比較した様子

図1 同一のモニター上で手術前に作成した肝臓3D画像と内視鏡映像を表示

 

手術中の内視鏡映像から肝臓の向きを解析し,事前に作成した肝臓の3D画像を内視鏡映像にあわせて表面や裏面を観察している様子

図2 内視鏡映像に合わせて肝臓3D画像の向きを自動で回転・表示

 

(2)超音波画像重畳AI技術
超音波プローブの先端と末端(黄色枠内)に印字されているARマーカーを用いて超音波プローブの位置や方向を解析し,超音波画像を内視鏡映像上に重畳表示(赤枠内)することで,直感的な超音波画像の理解をサポートする。従来は位置情報を取得する際は,磁気センサーや光学式センサーなどの外部機器が必要であったが,本技術ではARマーカーを活用することで,このような外部機器を必要とせず,超音波プローブの位置を解析することができる。

術中超音波検査中に,内視鏡映像と超音波画像を別の画面で確認する従来のワークフローと,超音波画像を内視鏡映像上に重畳表示する本技術を用いたワークフローを比較した様子

図3 超音波画像を内視鏡映像上に重畳表示することで,直感的な超音波画像の理解をサポート

 

●問い合わせ先
富士フイルム(株)
メディカルシステム事業部
TEL 03-6271-3561