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LINK-Jが「AI×Life Scienceシンポジウム」を開催

2017-5-19

日本のトップレベルの研究者が登壇

日本のトップレベルの研究者が登壇

ライフサイエンス・イノベーション・ネットワーク・ジャパン(LINK-J)は2017年5月17日(水),日本橋三井ホール(東京都中央区)において,「AI×Life Scienceシンポジウム」を開催した。LINK-Jは,ライフサイエンス分野の人と情報の交流プラットフォームとして,研究者などの有志,三井不動産(株)が2016年6月に設立。日本橋を拠点としてライフサイエンス分野のベンチャー企業向けオフィスやカンファレンスルームなどを用意して,「集まる」「つながる」「育つ」「はばたく」ための交流・連携の場を提供している。今回は,理化学研究所(理研)革新知能統合研究センター(AIPセンター),産業技術総合研究所(産総研)人工知能研究センター(AIRC),慶應義塾大学慶應メディカルAIセンター(K-MAIC)が共催。医療などのライフサイエンス分野において,今後応用が進む人工知能(AI)について,最新動向と今後の展望など,情報を共有する機会として設けられた。

プログラムは,基調講演「AIを活用したライフサイエンス・イノベーション~新産業創造のための総説・俯瞰~」が3題,講演「AIの医療での実践」が4題,講演「AIとライフサイエンスの今後の展望」が3題,さらに講演者によるパネルディスカッション「『AI×LSビジネス』創出における機会とリスク:そこで必要なマネジメントと制度,そして人材について考える」で構成された。

開会に当たり,LINK-Jの理事長である岡野栄之氏(慶應義塾大学医学部長)が主催者として挨拶した。岡野氏は,LINK-Jの活動内容を紹介し,今回のシンポジウムも含め,大学や研究機関,企業が集まり,交流することで,新しい価値を創造できると述べた。続いて,安西祐一郎氏(日本学術振興会理事長/人工知能技術戦略会議議長)が来賓として挨拶した。安西氏は,安倍晋三内閣総理大臣の指示により設置された人工知能技術戦略会議が策定した。AIの産業化ロードマップについて説明。医療分野では,AIを活用するための診療データの整備やロボット技術との組み合わせたAI技術の開発,創薬支援などを進めると述べた。

岡野栄之 氏 (LINK-J理事長/慶應義塾大学)

岡野栄之 氏
(LINK-J理事長/慶應義塾大学)

安西祐一郎 氏(日本学術振興会)

安西祐一郎 氏
(日本学術振興会)

 

 

次に,基調講演「AIを活用したライフサイエンス・イノベーション~新産業創造のための創設・俯瞰~」が行われた。岡野氏が座長を務め,まず辻井潤一氏(産総研AIRCセンター長/東京大学名誉教授/マンチェスター大学教授)が登壇した。辻井氏は,「創薬,医療,生命科学へのAI技術の貢献:AIRCの研究から」をテーマに,産総研に2015年に設置されたAIRCの活動を紹介。“AI Embedded in the Real World(実世界に埋め込まれたAI)”と“AI which cooperates with Human(人と協力するAI)”という考えの下で行っている技術開発の概要を説明した。

次いで,杉山 将氏(理研AIPセンターセンター長/東京大学大学院新領域創成科学研究科複雑理工学専攻教授)が,「新産業創造へ向けた理研AIPセンターの取組」をテーマに基調講演を行った。理研AIPセンターでは,京都大学iPS細胞研究所とAIを用いた再生医療の研究を行っているほか,国立がん研究センター,東北メディカル・メガバンク機構と協力し高齢者ヘルスケアでのAIの活用に取り組んでいる。杉山氏はこれらの活動を報告するとともに,次世代のAIの基盤となる技術開発などを紹介した。

3番目には「AIを活用したライフサイエンス・イノベーション~新産業創造のための総説・俯瞰」について,北野宏明氏〔システム・バイオロジー研究機構会長(LINK-Jサポーター)〕が講演した。北野氏はシステムバイオロジーを説明した後,医学・生理学などにおけるアプリケーションの相互運用性を向上する統合システムのプラットフィオームである“Garuda Alliance”について解説した。また,北野氏は,AIが人間とは異なる科学的発見のプロセスを有しており,AIと共同することで科学的発見に飛躍が生まれるとし,今後のライフサイエンス分野の研究にはAIが不可欠になると述べた。

辻井潤一 氏(産業技術総合研究所)

辻井潤一 氏
(産業技術総合研究所)

杉山 将 氏(理化学研究所)

杉山 将 氏
(理化学研究所)

北野宏明 氏(システム・バイオロジー研究機構)

北野宏明 氏
(システム・バイオロジー研究機構)

 

休憩を挟んだ後,講演「AIの医療での実践」へと進んだ。座長を渡部俊也氏〔東京大学政策ビジョン研究センター教授(LINK-J運営諮問委員)〕が務め,最初に山口 類氏(東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターDNA情報分析分野准教授)が,「Watson for Genomicsによるがん臨床シークエンス支援研究」をテーマに講演した。山口氏はがんのゲノム医療における臨床シークエンスについて説明し,膨大なゲノム変異を解釈する上で重要な情報を「PubMed」などにある大量の文献や特許情報などから見つけ出すことがボトルネックになっていると指摘。IBM社の「Watson for Genomics」を用いることにより速やかに医師へ情報を提供できるようになったと述べた。

渡部俊也 氏(東京大学)

渡部俊也 氏
(東京大学)

山口 類 氏(東京大学)

山口 類 氏
(東京大学)

 

 

2番目に登壇した洪 繁氏(慶應義塾大学K-MAIC/慶應義塾大学医学部坂口記念システム医学講座准教授)は,「AIの医療での実践~医療画像の機械学習による診断サポートシステムの開発と慶應メディカルAIセンター設立について~」と題して講演した。洪氏は,超高齢社会における健康寿命延伸に向け,K-MAICが取り組んでいるSS-MIX2全文検索エンジンビューア“iDoc”や,ベンチャー企業創出支援によって開発された健康管理アプリケーションソフトウエア“MeDaCa”を紹介。さらに,AIの活用事例として拡大大腸内視鏡画像を用いたコンピュータ診断補助システムについても解説した。

次いで,大田信行氏〔(株)Preferred Networks PFN America最高執行責任者〕が登壇。「AI(深層学習)は医療分野にどのような変化をもたらすか? 国立がん研究センターとの取り組み」をテーマに講演した。大田氏は,現在,社会で起きている2つの革命として,ディープラーニングと,1000ドルゲノム・ゲノム編集の登場を挙げ,同社が提供するディープラーニングのオープンプラットフォーム「Chainer」を用いて,国立がん研究センターと共同開発している統合的がん医療システムを紹介した。

さらに,4人目の講演者として,島原佑基氏〔エルピクセル(株)代表取締役〕が登壇した。島原氏は,「人工知能を活用した医療画像診断支援システム」をテーマに,“LPixel ImageJ Plugins”などを紹介したほか,2007年から国立がん研究センターと行ってきた共同研究を解説。低コストで高い判定精度を有する診断支援が可能であったと報告した。

洪  繁 氏(慶應義塾大学)

洪  繁 氏
(慶應義塾大学)

大田信行 氏(Preferred Networks)

大田信行 氏
(Preferred Networks)

島原佑基 氏(エルピクセル)

島原佑基 氏
(エルピクセル)

 

引き続き,渡部氏を座長に,講演「AIとライフサイエンスの今後の展望」が行われた。最初に,渡辺恭良氏(理研ライフサイエンス技術基盤研究センターセンター長)が登壇し,「Precision Health—個別健康の最大化」と題して講演した。渡辺氏は,現在の健康診断が,一部のデータしか取得できておらず十分ではないとし,ビッグデータやAIなどのライフサイエンス技術を用いて,精密な健康(precision health)管理ができるようにすることが重要だと述べた。その上で,ライフサイエンス技術基盤研究センターの活動を紹介し,アクシオンリサーチ(株)などと共同で進めている健康計測研究開発事業の概要を説明した。

次いで,「産学連携コンソーシアムで挑むライフサイエンス分野におけるAI戦略」をテーマに,奥野恭史氏(京都大学大学院医学研究科人間科学系専攻ビッグデータ医科学分野教授)が講演した。奥野氏は,AIは医療を高度化する技術であるとして,創薬のための技術開発と人材育成を目的に設立したライフインテリジェンスコンソーシアムについて紹介。29のプロジェクトで創薬におけるAI技術の開発を進めていることなどを解説した。

講演の最後は,渡部氏が「ライフサイエンスとヘルスケアビジネスにおける人工知能(AI)とビッグデータ」と題して発表した。渡部氏は,医療・介護におけるAI活用は,創薬,診断,治療,検査,看護などの多岐にわたると説明。一方で,AIを有効活用するにはデータが重要だと述べ,データは世界の新たな天然資源であると述べた。その上で,渡部氏は,2017年4月28日に成立した次世代医療基盤法の概要も紹介した。

渡辺恭良 氏(理化学研究所)

渡辺恭良 氏
(理化学研究所)

奥野恭史 氏(京都大学)

奥野恭史 氏
(京都大学)

 

 

すべての講演終了後には,パネルディスカッション「『AI×LSビジネス』創出における機会とリスク:そこで必要なマネジメントと制度,そして人材について考える」が行われた。渡部氏がモデレーターとなり,北野氏,山口氏,洪氏,大田氏,島原氏,渡辺氏,奥野氏がパネリストとして登壇。グーグルなど海外企業の競争に勝つための方策や,大量かつ質の良いデータを集めることの重要性,データサイエンティストといった人材の育成について意見交換したほか,国からの支援の必要性も言及した。

AIの技術開発の課題を話し合ったパネルディスカッション

AIの技術開発の課題を話し合った
パネルディスカッション

 

 

近年急速に注目を集めているAIだけに,当日は,大学や研究機関,製薬メーカーの担当者のほか,スタートアップ企業を支援するベンチャーキャピタルなどが参加した。AIは,創薬をはじめ,日本のライフサイエンス分野の産業を成長させ,医療や介護が抱える諸問題の解決に貢献すると期待される。今後,日本におけるAIの技術開発には,本シンポジウムのように関係者が情報を発信・共有し,交流を深めて,産官学が一体となり取り組んでいくことが重要である。

 

●問い合わせ先
一般社団法人ライフサイエンス・イノベーション・ネットワーク・ジャパン
TEL 03-3241-4911
http://www.link-j.org