innavi net画像とITの医療情報ポータルサイト

ホーム

医療放射線防護連絡協議会が医療法施行規則改正への対応などをテーマに第41回「医療放射線の安全利用フォーラム」を開催

2020-2-27

4月の法令改正を控え,約160名の参加者による熱心な質疑応答が行われた

4月の法令改正を控え,約160名の参加者による
熱心な質疑応答が行われた

医療放射線防護連絡協議会は2020年2月23日(日),首都大学東京荒川キャンパス講堂(東京都荒川区)で第41回「医療放射線の安全利用フォーラム」を開催した。今回は,第Ⅰ部「医療法施行規則改正に伴う医療放射線安全管理者の配置や医療被ばく線量の測定管理・記録等について」,第Ⅱ部「水晶体被ばく防護対応−医療領域の水晶体被ばく防護のガイドライン−」の2つのプログラムが行われた。これは,2019年10月の医療放射線管理講習会(東京会場)が台風19号の影響で参加困難者が多く生じたためで,第Ⅰ部で同講習会の内容が提供された。

Ⅰ部では,菊地 透氏(医療放射線防護連絡協議会総務理事)の挨拶に続いて,教育講演が3講演行われた。進行役は,福士政広氏(首都大学東京健康福祉学部)が務めた。教育講演1では,大野和子氏(京都医療科学大学医療科学部)が「医療放射線安全関連法令の改正と診療用放射線の安全利用について」と題して講演を行った。今回の医療法施行規則の一部改正により,診療用放射線の安全利用のための指針作成や,安全利用のための責任者(放射線安全管理責任者)の配置などが求められるようになる。大野氏は,日本医学放射線学会が作成した指針例を基に,年1回以上の開催が必須となる研修の対象や内容,被ばく線量の管理・記録方法などについて解説した。また,これまでに同連絡協議会で行った講習会で多かった質問事項についてQA集をまとめ,過剰被ばくや患者説明などについて具体的に説明した。

菊地 透 氏(当連絡協議会総務理事)

菊地 透 氏
(当連絡協議会総務理事)

福士政広 氏(首都大学東京)

福士政広 氏
(首都大学東京)

大野和子 氏(京都医療科学大学)

大野和子 氏
(京都医療科学大学)

 

次に,井上優介氏(北里大学医学部放射線科学画像診断学)が登壇し,「医療現場における法令改正に伴う具体的な医療放射線安全管理体制の対応と医療放射線安全管理者の役割−北里大学の場合−」と題して講演した。井上氏が所属する北里大学病院では,すでに放射線診断科長を責任者とし,日本医学放射線学会作成の参考資料を基に指針の策定や安全管理体制の構築を進めているほか,2019年7月に法令改正の概要などについて第1回の研修を行っている。さらに,電子カルテ上に線量の目安を表示するなど,患者説明のための参考資料を検査依頼医に提示するシステムを取り入れるなど,法令改正への対応に取り組んでいることが紹介された。

続いて,小林 剛氏(東京都福祉保健局医療政策部医療安全課)が「医療放射線施設の立入検査−医療放射線利用の安全管理規則改定における東京都の対応−」と題し,立入検査の概要や内容について講演した。2020年4月以降は,診療用放射線に係る安全管理体制の事項を含めた立ち入り検査が行われることとなり,「放射線施設自主管理チェックリスト」の法令改正に対応した改訂作業などが進められている。小林氏は,立入検査の基本方針は「違反の摘発」ではなく「医療機関の自主改善」にあることを強調した上で,施設の規模や診療内容に合わせた助言や指導を行い,医療監視員を通して施設管理者に伝えて欲しいことを必ず尋ねるなど,監視側として,医療施設の信頼を得られるよう努力していると述べ,立ち入り検査が安全性向上につながるように努めたいとした。

井上優介 氏(北里大学)

井上優介 氏
(北里大学)

小林 剛 氏(東京都福祉保健局)

小林 剛 氏
(東京都福祉保健局)

 

 

午後からは,菊地氏を司会・進行役として第Ⅱ部が行われ,第Ⅰ部でも登壇した井上氏が,「医療放射線における放射線安全の最適化」と題して基調講演を行った。放射線被ばくの主因であるCT検査では,撮影条件の最適化にあたり,線量と臨床的価値の双方を考慮する必要がある。しかし,臨床的価値については目的とする病変ごとの評価が必要であり,その評価は困難である。そのため,診断参考レベル(DRL)を用いて,自施設の判断の妥当性を検証することが有用である。また,検査依頼医はCT検査に依存する傾向があり,個々の検査の正当化や最適化において,放射線科医と検査依頼医の間で意見が分かれることが多い。この点について井上氏は,北里大学病院では,放射線科医によるプレチェックの強化により,胸部・骨盤部追加やダイナミックCTが減少するなど,検査依頼内容が変化した事例を紹介した。また,医学教育モデル・コア・カリキュラムでの「放射線の生体影響と放射線障害」の新設や,法令改正に伴う医療施設での研修必修化による検査依頼医の知識・意識の向上に期待したいと述べた。

続いて,井上氏を座長としてシンポジウムが行われ,水晶体被ばくや整形外科領域の被ばく,皮膚障害に関するガイドラインなどについて4講演が行われた。水晶体被ばくについては,等価線量限度の見直しに伴い,その円滑な運用を図るため,線量モニタリングや医療分野の放射線防護に関するガイドラインの作成がそれぞれ進められている。前者の主任研究者を務める横山須美氏(藤田医療大学)がそれらのガイドライン作成に至る経緯について解説し,線量モニタリングに関するガイドラインについて,使用する実用量と測定部位についての課題を整理し,具体例も併せて提示することで,現場で取り入れやすいものとしたことなどを紹介した。また,後者については,大野氏が「医療領域の水晶体被ばく防護ガイドライン」と題して解説を行った。同ガイドラインは,日本放射線看護学会や日本歯科放射線学会など,関連する21学会が参画して作成され,放射線安全利用の基礎知識なども盛り込まれているほか,防護手袋や遮蔽具の使用法,検査室内での患者対応などの具体例が図や写真を多用して紹介されている。大野氏は,医療スタッフの放射線安全利用に特化した初のガイドラインであることの意義を強調し,今後の放射線安全利用推進への期待を示した。

次に,日本整形外科学会の伊藤淳二氏(青森県立中央病院)が登壇し,「整形外科領域の職業被ばく低減への対応」について講演した。整形外科領域では,選択的神経根ブロック(SRG)や椎弓根スクリュー,骨折手術,椎間板造影など,放射線透視下操作が必要な手技がある。MRIや超音波の使用により実施例が減少している手技がある半面,手技の進歩や低侵襲化などにより,逆に実施頻度が増している手技もあり,それぞれの手技における被ばく低減が課題となっている。伊藤氏は,整形外科領域での職業的被ばくに対する意識は高いものの,対策はいまだ不十分な面があるとして,さらなる取り組みと教育が必要であると述べた。

最後に,松本一真氏(兵庫医科大学)が「IVRに伴う放射線皮膚障害の防止に関するガイドラインの改訂について」と題して講演した。2004年に医療放射線防護連絡協議会が発行した「IVRに伴う放射線皮膚障害の防止に関するガイドライン」は,現在,改訂に向けた見直しが進められている。主な改訂点は,DRLなどの新しい知見の記載やIVR基準点から患者照射基準点への名称変更などである。また,血管撮影装置や線量計,防護板などに関する記載も最新の内容に更新される予定で,その一部が紹介された。

横山須美 氏(藤田医療大学)

横山須美 氏
(藤田医療大学)

伊藤淳二 氏(青森県立中央病院)

伊藤淳二 氏
(青森県立中央病院)

松本一真 氏(兵庫医科大学)

松本一真 氏
(兵庫医科大学)

 

シンポジウム終了後にはⅠ,Ⅱ部のすべての演者らが登壇し,総合討論が行われた。4月からの法令改正を控え,参加者からは具体的な質問が投げかけられ,会場も交え熱心な質疑応答が行われた。

 

●問い合わせ先
医療放射線防護連絡協議会(日本アイソトープ協会内)
TEL 03-5978-6433
FAX 052-526-5101
Email tkikuchi@jarpm.net
http://jarpm.kenkyuukai.jp

【関連コンテンツ】