2025-11-5
締結書を交わす
西 恵一郎 氏(左:富士通CEO室室長)と
篠原一生 氏(右:壱岐市長)
富士通(株)は,社会課題を起点とする同社の事業モデル「Uvance」から提供するデータとAIを活用するオペレーションプラットフォーム「Fujitsu Data Intelligence PaaS」を活用した病院経営ソリューションを開発し,社会医療法人玄州会(長崎県壱岐市)と実証プロジェクトを行った。2025年7〜9月に行われた実証プロジェクトの結果,施設基準未達による診療報酬の返戻防止やベッド配置の最適化を実現,年間約10%の収入増加が見込めることが示された。2025年10月28日(火)にRidgelinez(株)(東京都千代田区)で同プロジェクトに関する記者説明会が開催されたほか,本取り組みを契機とした長崎県壱岐市とのエンゲージメントパートナー協定の締結式が行われた。
説明会では,同社クロスインダストリー事業本部Digital Shiftsの永井秀美氏がプロジェクトの概要について紹介した。同ソリューションのユーザーである玄州会は,主に療養を目的とした88床の光武内科循環器科病院(長崎県壱岐市)を中心に,介護部門,在宅部門を含む3部門16事業所を展開する。2023年度の玄州会全体の収入は約23.6億円で黒字を維持しているが,人口減少や人材流出による経営環境の変化を背景に,離島医療の中核を担う病院として経営基盤の強化が不可欠な状況にあり,特に施設基準の未達による返戻金の削減や空床の解消による収入増加が課題であった。
永井氏は,これらの状況を解説した上で,課題解決のため「施設基準コントロール」と「ベッドコントロール最適化」の2つの基礎アプリケーションを開発したことを紹介した。これらのアプリでは,施設内の電子カルテシステムなどと連携して膨大な医療データを統合し,部門や業種間で分断されていたデータを連携することが可能で,施設基準コントロールアプリは,施設基準関連業務をデジタル化し電子カルテデータを用いて項目ごとの達成状況を提示する。これにより,煩雑な業務負担を軽減すると同時に,基準未達による収入減や返戻金発生リスクを事前に検知し,シミュレーションにより具体的な対応ポイントが確認できる。また,ベッドコントロール最適化アプリは,数理最適化モデルにより,ボタンひとつで患者重症度などを考慮した最適なベッド配置や該当のベッドでの入院可能期間などを提示し,病床稼働率を向上させることが可能である。さらに,これらの基礎アプリケーションに続いて,AIエージェントを活用した「Healthcares Standards Navigator」や「Hospital Admission Planner」も開発された。Healthcares Standarts Navigatorはマルチエージェント構成で,施設基準のランクアップによる収入増を目標とするシナリオの制作をAIエージェントに指示すると,職種・部門ごとの判断をオーケストラエージェントが集約し,施設全体でとるべき解決策をレポート形式で提示する。また,Hospital Admission Plannerは入院の受け入れ判断(重症度など)以降の一連の業務の自動化を実現する。永井氏は,これらのアプリケーションのデモンストレーションを通じて,病院業務の効率化や収益向上のイメージを紹介した。
永井秀美 氏
(富士通クロスインダストリー事業本部Digital Shifts)
病院経営ソリューションの全体像
続いて,同社AI戦略・ビジネス開発本部エグゼディレクターの土井悠哉氏が今後の展開について発表した。土井氏は,今回のプロジェクトについて,データを連携,活用することは施設の規模にかかわらず可能であり,また本システムは富士通製以外の電子カルテシステムや電子カルテシステム未導入の施設でも活用できるとした上で,「病院経営の背景にある課題は日本全国で共通している。今後は,本プロジェクトを中・大規模病院でも展開し,対象地域も拡大していきたい」と展望を示した。
土井悠哉 氏
(富士通AI戦略・ビジネス開発本部エグゼディレクター)
会の途中では玄州会理事長の光武孝倫氏がオンラインで参加し,医療の課題や今回の取り組みへの期待について講演した。光武氏は,現在の医療について,「医療の質」「患者のニーズ」「病院経営」がトリレンマの状態にあると提起した。その上で,医療者としては,患者を助け不安に寄り添うことに最も時間をかけたいと述べ,そのためにはまず経営の安定化が重要であるとし,ベッドコントロールの最適化などにより,入院・在宅ともに適切な医療を提供できるようにしたいと述べた。
オンラインで講演する
光武孝倫 氏(社会医療法人玄州会理事長)
また,本取り組みに関連し,壱岐市の「壱岐市エンゲージメントパートナー制度」に基づいて富士通と同市はエンゲージメントパートナー協定を締結した。同制度は,同市に共感や愛着を感じ,主体的に貢献する企業・団体などを登録するもので,壱岐市の篠原一生市長と富士通のCEO室室長の西 恵一郎氏が締結書を交わした。
●問い合わせ先
富士通(株)
https://global.fujitsu/ja-jp
