VisionRT

2026年6月号

乳房SGRTの臨床導入経験 ~皮膚マーク削減への検証と実践~

松下 矩正(京都大学医学部附属病院放射線部)

当院では2020年にAlignRT(Vision RT Ltd.)を導入し,さまざまな照射部位の患者セットアップおよびモニタリングに活用している。また,皮膚マークの削減・省略にも取り組んでおり,乳房温存術後照射においても大幅な皮膚マークの削減を実現した。本稿では,当院における乳房SGRT(Surface Guided Radiation Therapy)の運用と皮膚マーク削減に至るプロセスについて解説する。

■AlignRTの基本原理

3台のステレオカメラとプロジェクタを用いて患者体表面にパターン光を投影し,解析することで三次元表面形状を再構成する。治療計画CTから生成した基準体表面と治療時に取得した体表面の関心領域(ROI)の剛体レジストレーションにより,並進および回転の位置ずれをリアルタイムに算出する(図1 a)。これにより患者セットアップおよびモニタリングが可能となり,設定した閾値を超えた場合にはビーム停止などの制御も行うことができる。図1 bに示すようにPostural Videoモード(オプション)では視覚的に正しい体表面位置を確認することも可能である。

図1 a:AlignRTの操作画面 b:Postural Videoモード

図1 a:AlignRTの操作画面 b:Postural Videoモード

 

■当院における乳房SGRT

1.皮膚マーク
当院におけるSGRT導入前後の皮膚マークの変化を図2に示す。導入前はアイソセンタを示す十字のマークおよび照射フィールドを示すマークを描いていた。一方,導入後は後述するセットアップ精度検証を経て,照射フィールドの角のみを描く運用としている。

図2 AlignRT導入前後での皮膚マークの変化 a:導入前 b:導入後

図2 AlignRT導入前後での皮膚マークの変化
a:導入前 b:導入後

 

2.患者セットアップの手順
当院のセットアップフローを図3に示す。まず患者の背部や腰部を浮かせて体幹のねじれが生じないようにする。次に,AlignRTで取得される体表面の位置ずれ量がゼロに近づくようにカウチを6軸で移動する。その後,AlignRTのオプション機能であるPostural Videoモードを用いて,上肢の位置を調整する。つづいてガントリを照射角度まで回転させ,光照射野が体表面の皮膚マークと一致していることを確認する。一致しない場合(当院では目視にて約3mmのずれを許容している)にはAlignRTのROIを変更し,カウチ位置の微調整を行う。それでも一致が得られない場合にはCBCTによる位置照合を行い,基準体表面を再取得する。なお,初回治療時のみ照射前にリニアックグラフィによる位置照合を行う。
照射中はEPIDによるシネ画像とAlignRTで患者位置のモニタリングを行っている。モニタリング中に位置誤差が許容値を超えた場合は,AlignRTで体表面が一致するようにカウチ位置を再度修正した後に照射を再開する。なお,本フローは深吸気息止め照射においても同様に適用しており,深吸気息止めの状態で患者位置の修正とモニタリングを行っている。

図3 AlignRTを使用した乳房SGRTフロー *SE:setup error

図3 AlignRTを使用した乳房SGRTフロー
*SE:setup error

 

3.AlignRTの各種設定
ビームトリガーとなるAlignRTの許容値は,自由呼吸下照射では5mm/2°,深吸気息止め照射では3mm/2°に設定している。これらの値は臨床的観点に加え,AAPMのTask Group 302レポートを参考に設定した1)。自由呼吸下において閾値を大きく設定したのは,呼吸性移動に伴う体表面変動を考慮したためである。
セットアップに用いる体表面のROIを図4に示す。基本的には図4 aに示すように患側乳房をROIとしているが,乳房形状の変化が生じた場合にはセットアップ精度が低下することがある。そのような場合には図4 bに示すような逆T字型ROIへ変更することで,セットアップ精度が向上することがある。

図4 乳房SGRTにおけるRO

図4 乳房SGRTにおけるRO

 

■皮膚マーク削減へのロードマップ

当院では安全性を担保するため,以下に示す段階的プロセスを経て皮膚マーク削減へ移行した。

1.AlignRTの操作習熟およびセットアップフローの確立
まず従来の皮膚マークによるセットアップに加えてAlignRTを併用することで,照射担当スタッフがAlignRTの操作に習熟し,その特性を把握する期間を設けた。この期間において得られた知見をもとに,前述の患者セットアップフローを確立した。得られた知見の例を以下に示す。
・AlignRTにより臨床上要求される位置精度でのセットアップが可能であること
・体輪郭形状の変化によりセットアップ精度が低下する場合があること

2.皮膚マーク削減に向けたデータ取得2)
曜日ごとに以下の2通りのセットアップを実施し,照射中のシネ画像を用いて位置精度を算出し比較した。
A:従来通り皮膚マークで位置合わせ後,AlignRTによりカウチ位置を補正
B:皮膚マークを使用せず,初めからAlignRTのみでセットアップ
結果を図5に示す。皮膚マークの有無は最終的なセットアップ精度に有意な影響を及ぼさないことが確認された。

図5 皮膚マーク併用(青)とAlignRT単独(赤)によるセットアップエラーの比較

図5 皮膚マーク併用(青)とAlignRT単独(赤)によるセットアップエラーの比較

 

3.多職種での方針決定
患者セットアップフローおよび皮膚マークの有無による精度評価結果を提示し,医師,医学物理士,診療放射線技師による協議のもと運用方針を決定した。体輪郭変化に伴うセットアップ精度低下により健側乳房へ照射野が及ぶ可能性を考慮し,当院では光照射野の一部マークを残す運用とした。また,故障によりAlignRTが使用できなくなった場合にはCBCTにてセットアップを行うなど,想定されるトラブルが起こった際の方針についてもあらかじめ定めた。

■さいごに

本稿では,当院における乳房SGRTの実践と皮膚マーク削減のプロセスについて報告した。SGRTの活用により,従来の皮膚マークに依存しない患者セットアップが技術的に可能であることが示された。一方で,皮膚マークの削減・省略を安全に実現するためには,装置特性や体表面変化の影響を十分に理解し,段階的な導入と検証を行うことが不可欠である。特に,実臨床におけるデータの蓄積および多職種での十分な検討を通じて,自施設に適した運用方法を確立することが重要である。SGRTは皮膚マークの削減による患者負担の軽減やワークフローの改善に寄与する有用な技術であり,今後も慎重かつ計画的な運用のもとで,さらなる普及と発展が期待される。

●参考文献
1)Al-Hallaq, H.A., Cerviño, L., Gutierrez, A.N., et al. : AAPM task group report 302 : surface-guided radiotherapy. Med. Phys., 49 : e82–e112, 2022.
2)Sasaki, M., Matsushita, N., Fujimoto, T., et al. : New patient setup procedure using surface-guided imaging to reduce body touch and skin marks in whole-breast irradiation during the COVID-19 pandemic. Radiol. Phys. Technol., 16 : 422–429, 2023.

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