Insight 
竹原 康雄(浜松医科大学医学部附属病院 病院教授・放射線部副部長)インタビュー 
3T MRIの過去から現在に至る変遷と位置づけ
「TRILLIUM OVAL」の体幹部領域における画質評価

2013-9-25


竹原 康雄

竹原 康雄

■3T MRIは,わが国では2013年現在,500台近くが稼働しています。3T MRIのこれまでの歴史や現状について,ご意見をお聞かせください。

私が初めて3T装置に触れたのは,神戸の先端医療センターでした。非常にSNRが良く,画質が優れていて,大きなインパクトがありました。その後,近隣の病院に3T装置が導入され使い始めたところ,頭部については問題なくきれいな画像が得られたのですが,腹部はアーチファクトが多く,最適化に苦労しました。当時の3T MRIは,信号の不均一で安定した画像が撮れないことに加えて,ランニングコストが嵩むことや,診療報酬面での裏付けがないことなどもネックになって,普及は難しいのではないかと感じていました。しかし,基本的に信号が高いことは魅力的ですし,高磁場ならではの撮像法も開発されてきたため,アーチファクトさえなくなれば素晴らしい検査ができると期待は持っておりました。
その後,3T MRIにおけるハードの技術革新が急速に進み,最近ではマルチトランスミット技術という,複数の送信RFを独立して制御する技術が搭載されたことで信号の不均一が改善し,画質が大きく向上しています。これにより,腹部の画像が著しく改善するなど問題点が克服され,3T MRIの臨床機としての評価が確立したと言えます。

■日立メディコ社製3T MRI「TRILLIUM OVAL」が2013年4月に発売されました。体幹部の画質評価を中心にご協力されているとのことですが,TRILLIUM OVALの評価をお聞かせください。

私自身は2011年から,TRILLIUM OVALにおける,主に腹部のアプリケーションのブラッシュアップにかかわっています。日立メディコ社はこれまで,オープン型の中低磁場MRI装置で定評があり,稼働台数で言えばシェア第1位で,海外でも閉所恐怖症の患者さんに受け入れられて爆発的に売れています。そういう成功体験を持ちながら,3T MRI装置を開発するということは、将来を見据えた事業戦略として思い切った決断だと思いましたし,先行各社に追いつけるのだろうかと,ある意味心配もしていました。ところが,4ch-4portのマルチトランスミット技術をはじめ,非造影MRAやradial scanなど,さまざまな最先端技術が搭載されていて,正直,とても驚きました。
日立という複合企業(conglomerate)の実力というか,技術の裾野が広くレベルが高いことに驚きましたし,日本の企業の優秀さを実感できて,とても誇らしい気分にもなりました。他社の高磁場装置を猛追撃しているようですので,その能力と努力には非常に感銘を受けているところです。

■TRILLIUM OVAL独自の技術で評価できるものはありますか。

目的血管を選択的に抑制し,血行動態を非造影で描出できる“BeamSat TOF”技術はオリジナリティが高く,素晴らしいと思います。ほかにも,体動低減機能のradial scan技術であるRADARなどのアプリケーションを完成させていることも,なかなか技術の層が厚いという気がします。
また,周辺機器では,例えばコイルやマグネットデザインも洗練されているという印象があります。

■今後,TRILLIUM OVALに期待したい技術や検査法がありましたら教えてください。

楕円形のワイドボアを生かすような,筋骨格系の負荷検査などが期待できます。また,例えば寝台に横にならずに,通常の生活時の肢位,体位を反映できるようなオプションが開発されるといいなと思います。

■3T MRIを中心とするMRIの市場動向予測,ならびにこれからのMRIへの期待をお聞かせください。

今後,1.5T装置のほとんどは,3T装置にリプレイスされるのではないかと思います。
ただし,医療安全面を考慮すると,3T装置のみというのは不安かもしれません。また,経営的にも,診療報酬面での十分な対応を要求していく必要があります。
一方,3T装置が普及していく中でも,中低磁場装置はランニングコストも低く,コストパフォーマンスに優れていて,オープンでペイシェントフレンドリーな良い装置だと思います。それぞれのメリットを生かした役割分担が大事だと思います。
将来的には,MRIならではの豊富な生理学的情報を,病気を予知し,予防することに生かせるのではないかと考えています。予防医学は,被ばくのないMRIにとって最適な役割だと思います。

(2013年7月11日取材)

 

1984年 浜松医科大学医学部医学科卒業。同年 浜松医科大学医学部附属病院医員,86年 浜松医科大学医学部助手,87年 聖隷三方原病院放射線科,88年 UCSF Department of Radiology, MRI division, research fellow,89年 聖隷三方原病院放射線科,91年 同科医長/診療科長,95年 浜松医科大学医学部附属病院講師,2001年 同助教授(准教授)を経て,2011年から現職。1993年にMRCPを発表しRSNAでCum Laude受賞。非造影胆管膵管撮像法として臨床に多大な恩恵をもたらす。


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