MR古今東西 
オープンMRIにおける高速撮像技術“IP-RAPID”の実力を検証

2021-5-25


高速撮像技術“IP-RAPID”とは?

MRI検査は撮像時間が長く,撮像中に患者が動いてしまって再撮像することや,長い検査時間に患者が耐えられずに途中で中断することがあります。また,撮像時間と画質はトレードオフの関係にあり,撮像時間を短縮しようとすると画質が劣化してしまいます。
これらの課題を解決するために,0.3T永久磁石型オープンMRI装置「AIRIS Vento Plus」,0.4T永久磁石型オープンMRI装置「APERTO Lucent Plus」に,画質を維持しながらノイズを低減する高速撮像技術“IP-RAPID”が搭載されました。IP-RAPIDは,IP-ReconとIP-Scanの2種類があります。IP-Reconは加算回数やオーバーサンプリングを減らすことによって生じるノイズを繰り返し演算で低減する技術であり,2Dシーケンスに適用可能です。一方,IP-Scanはアンダーサンプリングによって生じるアーチファクトを繰り返し再構成によって低減する技術であり,3D-TOFに適用可能です。IP-ReconはLight,Medium,Heavyの3段階のノイズ除去強度の設定が可能であり,IP-Scanは1.1〜2.0の倍速数を設定可能です。
高速撮像技術に対するイメージとして,空間分解能の低下やコントラストの変化など,画質への影響を懸念するご質問をいただくことがあります。そこで,今回,2Dシーケンスに適用でき汎用性の高いIP-Reconにおいて,画質への影響を検証しました。また,活用方法として撮像時間短縮と空間分解能向上について紹介します。

IP-ReconによるSNR変化

まず,ノイズ除去強度(Light,Medium,Heavy)によりSNRはどのように変化するのでしょうか。頭部と腰椎の撮像条件において,ノイズ除去強度を変えて各SNRを測定しました。頭部ではT2強調画像(T2WI),T1強調画像(T1WI),FLAIR,腰椎ではT2WI,T1WI,STIRの画像種を想定しています(図1)。
IP-Reconを使用していない画像と比較してLight,Medium,Heavyとノイズ除去強度を上げるに従い,SNRは増加しました。撮像条件によりSNRの増加量は異なりますが,増加量が大きかった頭部T1WI(図1 b)では,Light:142%,Medium:162%,Heavy:201%という結果になりました。このことから,IP-Reconにおけるノイズ低減によりSNRは増加し,さらにノイズ除去強度を変えることでSNRの増加量を段階的に調整できるということがわかります。

図1 IP-Reconの強度によるSNR変化

図1 IP-Reconの強度によるSNR変化
a:頭部T2WI:TR/TE=4900/120,スライス厚:5.0mm,撮像時間:4:01
b:頭部T1WI:TR/TE=500/10.7,スライス厚:5.0mm,撮像時間:4:50
c:頭部FLAIR:TR/TE=8000/90,スライス厚:5.0mm,撮像時間:5:05
d:腰椎T2WI:TR/TE=2700/100,スライス厚:4.5mm,撮像時間:5:03
e:腰椎T1WI:TR/TE=440/14,スライス厚:4.5mm,撮像時間:4:58
f:腰椎STIR:TR/TE=2700/80,スライス厚:4.5mm,撮像時間:5:54

 

IP-Reconによる空間分解能への影響

IP-Reconを使用することで画像の空間分解能は低下するのでしょうか。空間分解能を評価する指標としてModulation Transfer Function(MTF)を測定しました。MTFは0.5mmから5.0mmまでの異なるスリット幅を持つスリットファントムを撮像し,スリットのline profileから以下の計算式を用いて算出しました。

 MTF=C(u)/C(0)
  C(u)= (max(H(u))−min(H(u)))/
      (max(H(u))+min(H(u)))

max(H(u))は空間周波数uのスリットにおける画素値の最大値,min(H(u))は空間周波数uのスリットにおける画素値の最小値を示します。MTFの値は1に近いほどスリットの間隔が明瞭に描出されていることを示し,MTFの値が低下するほどスリットの間隔が不明瞭であることを示します。
撮像条件は頭部,腰椎のT2WI,T1WIを想定し,IP-Reconを使用していない画像とノイズ除去強度を変えた画像を取得して,MTFを算出しました(図2)。その結果,今回評価した4つの撮像条件ではIP-Reconを使用していない画像とノイズ除去強度を変えた画像において,空間周波数(スリット幅)の違いによらず,MTFの値は同程度となりました。このことから,今回評価した撮像条件において,IP-Reconを使用しても空間分解能は低下せず,ノイズ除去強度を変えても空間分解能に影響はないことがわかります。

図2 IP-Reconの強度によるMTF測定結果

図2 IP-Reconの強度によるMTF測定結果
a:頭部T2WI:TR/TE=4900/120,スライス厚:5.0mm,撮像時間:4:01
b:頭部T1WI:TR/TE=500/10.7,スライス厚:5.0mm,撮像時間:4:50
c:腰椎T2WI:TR/TE=2700/100,スライス厚:4.5mm,撮像時間:5:03
d:腰椎T1WI:TR/TE=440/14,スライス厚:4.5mm,撮像時間:4:58

 

IP-Reconによる画像コントラストへの影響

IP-Reconを使用することで画像のコントラストは変化するのでしょうか。健常ボランティアの画像からコントラスト比を測定して検証しました。コントラスト比は,画像上に設定した2か所の関心領域(ROI)における画素値の平均値から算出しました(図3)。撮像条件は頭部,腰椎のT2WI,T1WIを想定し,IP-Reconを使用していない画像とノイズ除去強度を変えた画像を取得して,コントラスト比を算出しました(図4)。

コントラスト比= ¦S1S2¦/(S1S2

S1はROI1(図3 )における画素値の平均値,S2はROI2(図3 )における画素値の平均値をそれぞれ示しています。
頭部T2WI(図4 a)を例に挙げると,コントラスト比はIP-Recon Off:0.58,Light:0.57,Medium:0.59,Heavy:0.58となり,ノイズ除去強度によらず同程度の値となりました。また,ほかの撮像条件でも同様の傾向でした。このことから,今回評価した撮像条件において,IP-Reconを使用しても画像のコントラストは変化せず,ノイズ除去強度を変えてもコントラストに影響はないことがわかります。

図3 コントラスト比測定におけるROIの設定

図3 コントラスト比測定におけるROIの設定
a:頭部T2WI. 白質()と側脳室()にROIを設定
b:腰椎T2WI. 椎体()と脳脊髄液()にROIを設定

 

図4 IP-Reconの強度によるコントラスト比測定結果

図4 IP-Reconの強度によるコントラスト比測定結果
a:頭部T2WI:TR/TE=4900/120,スライス厚:5.0mm,撮像時間:4:01
b:頭部T1WI:TR/TE=500/10.7,スライス厚:5.0mm,撮像時間:4:50
c:腰椎T2WI:TR/TE=2700/100,スライス厚:4.5mm,撮像時間:5:03
d:腰椎T1WI:TR/TE=440/14,スライス厚:4.5mm,撮像時間:4:58

 

IP-Reconの活用方法

1.撮像時間短縮にIP-Reconを活用
空間分解能を維持して撮像時間を短縮する場合,パラメータの加算回数やオーバーサンプリングの値を小さくすることで調整が可能です。しかし,そのようにパラメータを変更するとノイズが増加してSNRが低下し,画質が劣化してしまいます。そこで,IP-Reconの強度を使用することで,撮像時間短縮によって生じたノイズを低減して,画質劣化を抑えることができます。今回,「IP-Reconの強度によるSNR変化」(図1)の検証にて測定したノイズ除去強度ごとのSNR増加量を考慮して,それぞれ撮像時間を短縮した撮像条件を作成しました。頭部,腰椎のT2WI,T1WIを想定し,IP-Reconを使用していない画像とIP-Reconを使用して撮像時間を短縮した画像で画質劣化が抑えられることを検証するために,各SNRを測定しました(図5)。
頭部T2WI(図5 a)を例に挙げると,IP-Recon Off:4分1秒,Light:2分37秒,Medium:2分3秒,Heavy:1分29秒を比較したところ,SNRは同程度の値となりました。また,ほかの撮像条件でも同様の傾向となりました。このことから,撮像時間を短縮した各撮像条件において,IP-Reconを使用することでノイズが低減して画質劣化を抑えられていることが言えます。なお,検討した撮像条件を用いて頭部,腰椎のT2WIの健常ボランティア画像を取得しました(図6)。IP-Reconを使用していない画像とIP-Recon:Mediumを比較して,撮像時間は約1/2になっていますが,同等の画質が得られていると思われます。

図5 IP-Reconを撮像時間短縮に活用した画像のSNR変化

図5 IP-Reconを撮像時間短縮に活用した画像のSNR変化
a:頭部T2WI 撮像時間:IP-Recon Off:4:01,Light:2:37,Medium:2:03,Heavy:1:29
b:頭部T1WI 撮像時間:IP-Recon Off:4:50,Light:2:24,Medium:1:52,Heavy:1:14
c:頭部FLAIR 撮像時間:IP-Recon Off:5:05,Light:3:05,Medium:2:17,Heavy:1:45
d:腰椎T2WI 撮像時間: IP-Recon Off:5:03,Light:3:12,Medium:2:24,Heavy:2:13
e:腰椎T1WI 撮像時間:IP-Recon Off:4:58,Light:3:08,Medium:2:30,Heavy:1:45
f :腰椎STIR 撮像時間:IP-Recon Off:5:54,Light:3:23,Medium:2:24,Heavy:1:59

 

図6 IP-Reconを活用した撮像時間の短縮

図6 IP-Reconを活用した撮像時間の短縮
a:IP-Recon:Off,撮像時間:4:01
b:IP-Recon:Medium,撮像時間:2:03
c:IP-Recon:Off,撮像時間:5:03
d:IP-Recon:Medium,撮像時間:2:24

 

2.空間分解能向上にIP-Reconを活用
撮像時間を維持して空間分解能を向上させる場合,パラメータのFreq#とPhase#を上げて,Phase#を上げたことで延長した撮像時間は加算回数やオーバーサンプリングの値を小さくすることで短縮可能です。このパラメータ変更でも同様にノイズが増加してSNRが低下し,画質が劣化してしまいますが,IP-Reconを使用して画質の劣化を抑えることができます。今回,「IP-Reconの強度によるSNR変化」(図1)の検証にて測定したノイズ除去強度ごとのSNR増加量を考慮して,それぞれ空間分解能を向上した撮像条件を作成しました。頭部,腰椎のT2WI,T1WIを想定し,IP-Reconを使用していない画像と,同程度の撮像時間でIP-Reconを使用して空間分解能を向上した画像で,画質劣化が抑えられることを検証するために各SNRを測定しました(図7)。
頭部T1WI(図7 b)を例に挙げると,Freq#×Phase#(マトリックス)の値をIP-Recon Off:256×192,Light:288×256,Medium:288×288,Heavy:360×288と大きくした結果,SNRは同程度の値となりました。また,ほかの撮像条件でも同様の傾向となりました。このことから,空間分解能を向上した各撮像条件において,IP-Reconを使用することでノイズが低減して画質劣化が抑えられていることが言えます。なお,検討した頭部T1WIの撮像条件を用いてスリットファントムを撮像しました(図8)。IP-Reconを使用していない画像とIP-Recon:Heavyを比較して,空間分解能は256×192から360×288に向上しており,同等の撮像時間でより幅の狭いスリットも描出できていると思われます。

図7 IP-Reconを空間分解能向上に活用した画像のSNR変化

図7 IP-Reconを空間分解能向上に活用した画像のSNR変化
a:頭部T2WI マトリックス:IP-Recon Off:256×224,Light:288×248,Medium:320×242,Heavy:320×352
b:頭部T1WI マトリックス:IP-Recon Off:256×192,Light:288×256,Medium:288×288,Heavy:360×288
c:頭部FLAIR マトリックス:IP-Recon Off:256×192,Light:288×224,Medium:288×256,Heavy:320×256
d:腰椎T2WI マトリックス:IP-Recon Off:256×224,Light:288×248,Medium:320×242,Heavy:352×284
e:腰椎T1WI マトリックス:IP-Recon Off:288×224,Light:288×284,Medium:320×280,Heavy:352×308
f :腰椎STIR マトリックス:IP-Recon Off:224×192,Light:256×224,Medium:288×240,Heavy:320×240

 

図8 IP-Recon を活用した空間分解能の向上

図8 IP-Recon を活用した空間分解能の向上

 

まとめ

IP-Reconはノイズ除去強度によってSNRの増加量を段階的に調節でき,空間分解能,コントラストへの影響を抑えることができることを検証しました。また,SNRを維持しながら撮像時間を短縮する,撮像時間を維持しながら空間分解能を向上する活用方法について紹介しました。高速撮像技術“IP-RAPID”をMRI検査のスピード・質の向上にお役立てください。

* 「APERTO Lucent Plus」は「日立MRイメージング装置 APERTO Lucent 医療機器認証番号:222ABBZX00151000号」の新しいシステムソフトウェアを搭載したモデルの呼称です。
* 「AIRIS Vento Plus」は「日立MRイメージング装置 AIRIS Vento 医療機器認証番号:221ABBZX00062000号」の新しいシステムソフトウェアを搭載したモデルの呼称です。
* AIRIS,AIRIS Vento,APERTO,APERTO Lucentは富士フイルムヘルスケア株式会社の登録商標です。


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